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006 蝋燭なオレ
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指先に火を灯して生活するようになって一年ほど。使用人たちの間では、オレは蝋燭坊ちゃまと呼ばれているらしい。
まぁ、自分が奇行をしている自覚はある。悪意があって呼んでるわけではないらしいし、仕方ないね。
そんなことを思いながら、オレは左手の指先に火を灯しながら右手で器用にフォークを操る。
「レオンハルト様は本当に食べるのが好きなんですね」
「まあね。セリアも遠慮しないで食べてよ」
この日のおやつは、ミルクレープのようなケーキだった。ふんわりとした生地と生クリームがベストマッチして最高にうまい。おかげでセリアが一つ食べる間に三つも食べてしまった。おかわりおかわりっと。
侯爵家だからいい素材を使っているのか、シェフの腕がいいのか、はたまた地球のように食品添加物いっぱいじゃないのがいいのか、この世界の料理はとにかくおいしい。
おかげでぜんぜんダイエットする気が起きないよ。着実にデブへの道を歩んでいる。困ったことだね?
「レオンハルト様、ほっぺたにクリームが付いています」
「ほんと?」
さすがにこれは子どもみたいで恥ずかしい。まぁ、まだ十歳の子どもなんだけどさ。
「逆のほっぺた、もっと上です。少し動かないでくださいね」
「うん?」
セリアがオレのほっぺたをやさしくハンカチで拭ってくれる。セリアの顔がぐっと近くなってちょっとドキドキしてしまった。
「はい、大丈夫です。綺麗に拭けましたよ」
「あり、がとう……」
その時のセリアは、柔らかな笑みを浮かべているように見えた。何度でも惚れ直してしまうくらい綺麗だ。
セリアは、この一年をかけて表情が柔らかくなった。最初は悲壮感しか感じなかった真顔だったけど、最近はそんなことはない。でも、たまにひどく憂鬱そうな表情を浮かべている時がある。そんな時はなるべく声をかけるようにしているけど、心配だ。
「セリア、オレはなにがあってもキミを守りたい。たとえ世界のすべてがキミの敵になっても、オレはキミを守るよ」
「ど、どうしたんですか、急に?」
セリアの笑顔で舞い上がってしまったからか、オレはそんなことを口走っていた。
「なんでもないよ。ただ、そう思ったんだ」
「そう、ですか」
顔が熱くなっていくのを感じる。セリアの顔も少し赤くなっているようだ。そんなオレとセリアをカミラがニマニマした笑みを浮かべながら見ていた。
◇
「もうすぐ生誕祭か……」
この国の貴族は子どもの五歳と十歳、そして十五歳を祝う風習がある。日本で言う七五三のようなものかな? まぁ、十五歳は成人だけど。
「まぁ、オレにとっては受難の始まりになるわけだが……」
十歳の生誕祭では、オレの使える魔法の属性も調べられる。五歳の時、オレは六つの属性を持っていたらしい。これだけの属性を操れるのは、国の中でかなりの高位貴族に限られる。普通なら、オレは六つも属性が操れる優秀な子ですよと集まったみんな自慢するお祭りになるはずだ。
だが、オレはイフリートの力を受け継いだため火属性一つしか操ることしかできない。
扱える属性が減るというのは、精霊からの信頼を失ったというとても不名誉な事態だ。一気に五つも属性を失ったレオンハルトは人々から見放され、バカにされる。
だが、オレはそのままで終わるつもりはない。
物語の最後で、レオンハルトはイフリートの力を使って、主人公でも倒せなかった邪神を滅ぼす。
オレが必死に修行すれば、前倒しでイフリートの力をものにできるはずだ!
「絶対にイフリートの力を自分のものにしてみせる」
そんな決意を固めながら、オレは城下町バーデンの街並みを歩いていた。誰かわからないようにフードを深く被って、いわゆるお忍びである。
本来なら算数の授業があるのだが、オレはいても立ってもいられずに屋敷を抜け出した。
「たしか、ダンジョンはこっちだよな?」
オレが目指す場所。それは『天の試練』というダンジョンだ。
ゲームでは、最難関のダンジョンだった。というのも、このダンジョンを何階層クリアしたかによって周回プレイにおける主人公のステータスを何割持ち越せるのか決まってくれるのだ。
例えば、『天の試練』を十階層までクリアすると、主人公は最終ステータスの一割をステータスポイントとして次周の初期ボーナスに獲得できる。
正直、『天の試練』をクリアするのは、ラスボスを倒すよりも百倍以上難しい。ゲーム『精霊の国』におけるやり込み要素の一つだ。
まぁ、もちろんオレはクリア済みだけどね。
でも、今回はクリアを目指すわけじゃない。あくまで浅い階層でモンスターを倒してレベルアップしようと思っているだけだ。
あとは宝箱なんか見つけられたらラッキーだな。そして、装備なんて手に入れられたら最高だ。
今のオレは装備品と言えるようなものを一つも持ってないからね。
レベルの低い今、少しでも自分を強化してくれる装備は喉から手が出るほど欲しい。
まぁ、自分が奇行をしている自覚はある。悪意があって呼んでるわけではないらしいし、仕方ないね。
そんなことを思いながら、オレは左手の指先に火を灯しながら右手で器用にフォークを操る。
「レオンハルト様は本当に食べるのが好きなんですね」
「まあね。セリアも遠慮しないで食べてよ」
この日のおやつは、ミルクレープのようなケーキだった。ふんわりとした生地と生クリームがベストマッチして最高にうまい。おかげでセリアが一つ食べる間に三つも食べてしまった。おかわりおかわりっと。
侯爵家だからいい素材を使っているのか、シェフの腕がいいのか、はたまた地球のように食品添加物いっぱいじゃないのがいいのか、この世界の料理はとにかくおいしい。
おかげでぜんぜんダイエットする気が起きないよ。着実にデブへの道を歩んでいる。困ったことだね?
「レオンハルト様、ほっぺたにクリームが付いています」
「ほんと?」
さすがにこれは子どもみたいで恥ずかしい。まぁ、まだ十歳の子どもなんだけどさ。
「逆のほっぺた、もっと上です。少し動かないでくださいね」
「うん?」
セリアがオレのほっぺたをやさしくハンカチで拭ってくれる。セリアの顔がぐっと近くなってちょっとドキドキしてしまった。
「はい、大丈夫です。綺麗に拭けましたよ」
「あり、がとう……」
その時のセリアは、柔らかな笑みを浮かべているように見えた。何度でも惚れ直してしまうくらい綺麗だ。
セリアは、この一年をかけて表情が柔らかくなった。最初は悲壮感しか感じなかった真顔だったけど、最近はそんなことはない。でも、たまにひどく憂鬱そうな表情を浮かべている時がある。そんな時はなるべく声をかけるようにしているけど、心配だ。
「セリア、オレはなにがあってもキミを守りたい。たとえ世界のすべてがキミの敵になっても、オレはキミを守るよ」
「ど、どうしたんですか、急に?」
セリアの笑顔で舞い上がってしまったからか、オレはそんなことを口走っていた。
「なんでもないよ。ただ、そう思ったんだ」
「そう、ですか」
顔が熱くなっていくのを感じる。セリアの顔も少し赤くなっているようだ。そんなオレとセリアをカミラがニマニマした笑みを浮かべながら見ていた。
◇
「もうすぐ生誕祭か……」
この国の貴族は子どもの五歳と十歳、そして十五歳を祝う風習がある。日本で言う七五三のようなものかな? まぁ、十五歳は成人だけど。
「まぁ、オレにとっては受難の始まりになるわけだが……」
十歳の生誕祭では、オレの使える魔法の属性も調べられる。五歳の時、オレは六つの属性を持っていたらしい。これだけの属性を操れるのは、国の中でかなりの高位貴族に限られる。普通なら、オレは六つも属性が操れる優秀な子ですよと集まったみんな自慢するお祭りになるはずだ。
だが、オレはイフリートの力を受け継いだため火属性一つしか操ることしかできない。
扱える属性が減るというのは、精霊からの信頼を失ったというとても不名誉な事態だ。一気に五つも属性を失ったレオンハルトは人々から見放され、バカにされる。
だが、オレはそのままで終わるつもりはない。
物語の最後で、レオンハルトはイフリートの力を使って、主人公でも倒せなかった邪神を滅ぼす。
オレが必死に修行すれば、前倒しでイフリートの力をものにできるはずだ!
「絶対にイフリートの力を自分のものにしてみせる」
そんな決意を固めながら、オレは城下町バーデンの街並みを歩いていた。誰かわからないようにフードを深く被って、いわゆるお忍びである。
本来なら算数の授業があるのだが、オレはいても立ってもいられずに屋敷を抜け出した。
「たしか、ダンジョンはこっちだよな?」
オレが目指す場所。それは『天の試練』というダンジョンだ。
ゲームでは、最難関のダンジョンだった。というのも、このダンジョンを何階層クリアしたかによって周回プレイにおける主人公のステータスを何割持ち越せるのか決まってくれるのだ。
例えば、『天の試練』を十階層までクリアすると、主人公は最終ステータスの一割をステータスポイントとして次周の初期ボーナスに獲得できる。
正直、『天の試練』をクリアするのは、ラスボスを倒すよりも百倍以上難しい。ゲーム『精霊の国』におけるやり込み要素の一つだ。
まぁ、もちろんオレはクリア済みだけどね。
でも、今回はクリアを目指すわけじゃない。あくまで浅い階層でモンスターを倒してレベルアップしようと思っているだけだ。
あとは宝箱なんか見つけられたらラッキーだな。そして、装備なんて手に入れられたら最高だ。
今のオレは装備品と言えるようなものを一つも持ってないからね。
レベルの低い今、少しでも自分を強化してくれる装備は喉から手が出るほど欲しい。
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