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005 レベルアップとマスタリー
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「セリア、調子はどうだい?」
「セリアはどう思う?」
「セリア! セリア!」
ここのところ、オレは悪い言い方をすればセリアに付きまとっていた。
少しでもセリアにお近づきになりたくてね。だって、推しが、好きな子が目の前にいるんだよ? もう行くしかないでしょ!
こんなにドキドキした新鮮な気持ちは初めてだ。今までの恋なんて比較にならないよ。オレは本当に心の底から好きな人に出会えた。すべてを捧げてもいいと思える相手だ。こんなの初めてだよ。
「セリア、おはよう! いい朝だね。朝日が輝いて見えるよ」
「おはようございます、レオンハルト様。いい朝ですね」
「でも、オレにとってはセリアの方が輝いて見えるけどね!」
「はぁ……?」
相変わらずニコリともしてくれないけど、オレはセリアと言葉を交わしていた。
できれば笑ってほしいけどね。
まぁ、セリアの心の傷を癒すには時間が足りないよね……。
「今日も授業がんばろうね。じゃあ、また後で話そう」
「はい」
今日もセリアの顔が見られて幸せだ。
セリアはオレのお気に入りとして屋敷のみんなに周知されているからね。贔屓にされているなんていじめがあったら嫌だなと思っていたけど、それも無いみたいだね。よかったわ。
ただ不安なこともある。
オレが属性が一つしかないと周知されてしまって侯爵家の嫡子から外されたら、セリアも不遇な目に遭うんじゃないだろうか?
そればかりが心配だ。
なんとか十歳の生誕祭までに属性を増やしたいところだが、それも難しい。オレの体はイフリートの炎によって創り変えられてしまったからな。
「それでいて、火属性の魔法まで使うのに苦労するのはなんでなんだ?」
オレは今、指先に蝋燭のように火を灯す魔法しか使えない。
火属性の魔法しか使えないのはすでに受け入れているけど、その肝心の火属性の魔法も満足に使えないのはなんでなんだよ!
「オレが弱いせいなのか?」
ゲーム『精霊の国』では、レベルとマスタリーいうものがあった。キャラクターのレベルが上がると、ステータスが上がる。時には新しいスキルや魔法を覚えることもあった。そして使えるスキルや魔法にはマスタリーと呼ばれる数値があり、これが上がるとスキルや魔法の威力が上がったり、新しいスキルや魔法を覚えることがあった。
もしかすると、オレのレベルやマスタリーが低すぎるせいで、強大なイフリートの魔法を上手く使えないのかもしれない。
これは一大事だ。
思えば、レオンハルトはいつも魔法が使えずに主人公に負けていた。これももしかしたらイフリートと契約した弊害なのかもしれない。
オレは主人公に負けたくない。もう惨めな人生を送りたくない。
「強くならなくては……!」
それに、最後に邪神を滅ぼすのはオレなのだ。このままではいけない。なんとしてもイフリートの力に順応しなくては!
しかし、どうする?
「毎日魔法を使ってマスタリーを上げるのは当然として……」
九歳の子どもが、どうやってモンスターを倒してレベルアップしろというのだ?
ダンジョンはある。それもすぐ近くに。
クラルヴァイン侯爵家の治めるこの地には、天からの試練というダンジョンがある。モンスターなど探さなくてもどっさりいるのだ。
だが、オレに使えるのは蠟燭の明かりくらいしかない火の魔法だけだぞ?
「せめてブレイズショットくらいは使いたいよな……」
しばらくは火魔法のマスタリー上げだな。
◇
その日から、オレは暇さえあれば指先に火を灯していた。
そして気が付いたのだが、魔法を使うとものすごく腹が減る。魔法を使うようになってから、オレは毎日の三食にプラスして間食を五回も取っていた。
なんでこんなに腹が減るのかわからないけど、耐えがたいほどの空腹なのでついつい食べてしまう。
オレは目の前の姿見を見ながら思う。
「でも不思議と体型は変わらないんだよなぁ」
姿見に映るのは、ぽっちゃりとした黒髪黒目の男の子だ。ゲームの設定資料集にあったレオンハルトの幼少期にそっくりだ。黒髪黒目だからか、あまり違和感なく自分だと思えた。
たしかにぽっちゃりとはしているが、暴飲暴食をしているのにあまり太っていない。不思議だ。
「痩せたいところだが……。難しいかもしれないな……」
暴飲暴食をしておいて、なにを言っているのかと思われるかもしれないが、それは横に置いておく。
クラルヴァイン侯爵家は、たぶんデブの家系なのだ。父親も丸々としているし、母親もぼっちゃりしている。そして、弟もデブだ。父親の書斎に飾られた歴代当主の絵も全員もれなく太っている。
「たしかデブも遺伝だって話もあったよな? オレは痩せられるのか……?」
オレも詳しく覚えているわけじゃないが、デブも遺伝するのだ。DNAの中の脂肪を溜め込むためのスイッチがONのまま遺伝してしまっているらしい。
スイッチって何だよ……。人間はロボットじゃないんだぞ。
「まぁ、そんなことよりも今は魔法だ!」
オレは現実逃避するように姿見から視線を逸らしたのだった。
◇
儂はドミニク。クラルヴァイン侯爵家で魔法の家庭教師をしている者じゃ。
まぁ、貴族の息子に魔法の基礎を教えるだけで大金が貰えるボロい商売じゃな。
じゃが、儂の教えているレオンハルトは明らかにおかしい。
火属性の魔法がいたく気に入ったのか、一日中指先に火を灯している。
これのどこがおかしいのか。
普通、そんなことをすれば、いかに魔力消費の少ない魔法だとしてもいつかは魔力が尽きる。普通の平民なら、できても一刻ほどだろう。
なのに、レオンハルトは一日中指先に火を灯している。
魔力が尽きる気配がないのじゃ。
一度心配してレオンハルトに体調に変化はないかと訊いてみたが、お腹が空きやすくなったとかいうバカげた返事があった。
レオンハルトの体はどうなっておるんじゃ?
「セリアはどう思う?」
「セリア! セリア!」
ここのところ、オレは悪い言い方をすればセリアに付きまとっていた。
少しでもセリアにお近づきになりたくてね。だって、推しが、好きな子が目の前にいるんだよ? もう行くしかないでしょ!
こんなにドキドキした新鮮な気持ちは初めてだ。今までの恋なんて比較にならないよ。オレは本当に心の底から好きな人に出会えた。すべてを捧げてもいいと思える相手だ。こんなの初めてだよ。
「セリア、おはよう! いい朝だね。朝日が輝いて見えるよ」
「おはようございます、レオンハルト様。いい朝ですね」
「でも、オレにとってはセリアの方が輝いて見えるけどね!」
「はぁ……?」
相変わらずニコリともしてくれないけど、オレはセリアと言葉を交わしていた。
できれば笑ってほしいけどね。
まぁ、セリアの心の傷を癒すには時間が足りないよね……。
「今日も授業がんばろうね。じゃあ、また後で話そう」
「はい」
今日もセリアの顔が見られて幸せだ。
セリアはオレのお気に入りとして屋敷のみんなに周知されているからね。贔屓にされているなんていじめがあったら嫌だなと思っていたけど、それも無いみたいだね。よかったわ。
ただ不安なこともある。
オレが属性が一つしかないと周知されてしまって侯爵家の嫡子から外されたら、セリアも不遇な目に遭うんじゃないだろうか?
そればかりが心配だ。
なんとか十歳の生誕祭までに属性を増やしたいところだが、それも難しい。オレの体はイフリートの炎によって創り変えられてしまったからな。
「それでいて、火属性の魔法まで使うのに苦労するのはなんでなんだ?」
オレは今、指先に蝋燭のように火を灯す魔法しか使えない。
火属性の魔法しか使えないのはすでに受け入れているけど、その肝心の火属性の魔法も満足に使えないのはなんでなんだよ!
「オレが弱いせいなのか?」
ゲーム『精霊の国』では、レベルとマスタリーいうものがあった。キャラクターのレベルが上がると、ステータスが上がる。時には新しいスキルや魔法を覚えることもあった。そして使えるスキルや魔法にはマスタリーと呼ばれる数値があり、これが上がるとスキルや魔法の威力が上がったり、新しいスキルや魔法を覚えることがあった。
もしかすると、オレのレベルやマスタリーが低すぎるせいで、強大なイフリートの魔法を上手く使えないのかもしれない。
これは一大事だ。
思えば、レオンハルトはいつも魔法が使えずに主人公に負けていた。これももしかしたらイフリートと契約した弊害なのかもしれない。
オレは主人公に負けたくない。もう惨めな人生を送りたくない。
「強くならなくては……!」
それに、最後に邪神を滅ぼすのはオレなのだ。このままではいけない。なんとしてもイフリートの力に順応しなくては!
しかし、どうする?
「毎日魔法を使ってマスタリーを上げるのは当然として……」
九歳の子どもが、どうやってモンスターを倒してレベルアップしろというのだ?
ダンジョンはある。それもすぐ近くに。
クラルヴァイン侯爵家の治めるこの地には、天からの試練というダンジョンがある。モンスターなど探さなくてもどっさりいるのだ。
だが、オレに使えるのは蠟燭の明かりくらいしかない火の魔法だけだぞ?
「せめてブレイズショットくらいは使いたいよな……」
しばらくは火魔法のマスタリー上げだな。
◇
その日から、オレは暇さえあれば指先に火を灯していた。
そして気が付いたのだが、魔法を使うとものすごく腹が減る。魔法を使うようになってから、オレは毎日の三食にプラスして間食を五回も取っていた。
なんでこんなに腹が減るのかわからないけど、耐えがたいほどの空腹なのでついつい食べてしまう。
オレは目の前の姿見を見ながら思う。
「でも不思議と体型は変わらないんだよなぁ」
姿見に映るのは、ぽっちゃりとした黒髪黒目の男の子だ。ゲームの設定資料集にあったレオンハルトの幼少期にそっくりだ。黒髪黒目だからか、あまり違和感なく自分だと思えた。
たしかにぽっちゃりとはしているが、暴飲暴食をしているのにあまり太っていない。不思議だ。
「痩せたいところだが……。難しいかもしれないな……」
暴飲暴食をしておいて、なにを言っているのかと思われるかもしれないが、それは横に置いておく。
クラルヴァイン侯爵家は、たぶんデブの家系なのだ。父親も丸々としているし、母親もぼっちゃりしている。そして、弟もデブだ。父親の書斎に飾られた歴代当主の絵も全員もれなく太っている。
「たしかデブも遺伝だって話もあったよな? オレは痩せられるのか……?」
オレも詳しく覚えているわけじゃないが、デブも遺伝するのだ。DNAの中の脂肪を溜め込むためのスイッチがONのまま遺伝してしまっているらしい。
スイッチって何だよ……。人間はロボットじゃないんだぞ。
「まぁ、そんなことよりも今は魔法だ!」
オレは現実逃避するように姿見から視線を逸らしたのだった。
◇
儂はドミニク。クラルヴァイン侯爵家で魔法の家庭教師をしている者じゃ。
まぁ、貴族の息子に魔法の基礎を教えるだけで大金が貰えるボロい商売じゃな。
じゃが、儂の教えているレオンハルトは明らかにおかしい。
火属性の魔法がいたく気に入ったのか、一日中指先に火を灯している。
これのどこがおかしいのか。
普通、そんなことをすれば、いかに魔力消費の少ない魔法だとしてもいつかは魔力が尽きる。普通の平民なら、できても一刻ほどだろう。
なのに、レオンハルトは一日中指先に火を灯している。
魔力が尽きる気配がないのじゃ。
一度心配してレオンハルトに体調に変化はないかと訊いてみたが、お腹が空きやすくなったとかいうバカげた返事があった。
レオンハルトの体はどうなっておるんじゃ?
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