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009 剥奪
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所変わってここはクラルヴァイン侯爵家の屋敷にある会議室。
会議室には重たい空気が流れていた。
「それで、レオンハルトはどうなっているんだ?」
父親であるアルトゥルがおじいちゃん神官に問いかける。
「侯爵様、申し訳ないですが……。御子息であるレオンハルト様がどういう状態にあるのか、私にも正確にはわかりません……。ですが、恐ろしく強い火属性の力です。私も長いこと神官をしておりますが、こんなことは初めてのことです……」
おじいちゃん神官が恐縮したように言った。
まぁ、そりゃそうだよな。オレはイフリートの力を継承したんだ。火属性の適性だけで言えば世界一だろう。
そして、その高い適性が今回の事件を引き起こした。
「逆にお伺いします。侯爵様には御子息の変化になにか思い当たる点はないのですか?」
「……ないな。レオンハルトはなにかあるか?」
「父上、私にもわかりません」
まぁ、原因は知ってはいるけど、知らないで通す。それがイフリートとの約束だしな。
イフリートの存在がセリアの心の支えになっている場合もある。
それに、イフリートの力を継承したことがバレれば、必ずその周辺にルクレール王国の最後の王族であるセレスティーヌの影を疑われることになってしまう。それはよろしくない。
「レオンハルトの属性は一つになってしまったのか? レオンハルトは五つも精霊の加護を失ったと?」
アルトゥルが痛いところを突いてくる。やっぱりこれが理由で嫡子から外されてしまうのだろうか?
「それは間違いございませんが、それを補って余りあるほどの火属性の加護です。他の誰が、たとえ王族の方々でもあそこまで篤い加護はありえないほどの」
「ふむ……。そなたはレオンハルトを嫡子として扱うことをどう考える?」
アルトゥルに問われたおじいちゃん神官が、オレをチラリと見て口を開いた。
「正直に申せば、わかりません。精霊様からの情の深さを取るか、数を取るかでございます」
「ふむ……。だが、どんなに篤い加護であろうと、属性が一つでは話にならない。今日のことも、会場に来ていない者たちが聞けば眉唾だと言うであろう。儂もこの目で見なければ信じられなかったに違いない」
うーむ……。この流れはあまりよろしくないな。
「父上は私を嫡子から外すというのですか……?」
オレは精いっぱい悲しそうな顔を作ると、アルトゥルに懇願するように言った。
アルトゥルの横では、エドガーが歪な笑顔を浮かべている。
「そうなるな。なによりも属性を、精霊からの信頼を失ったのが大きすぎる。これはいくら言い繕ってもマイナスの印象にしかならない。嫡子はエドガーとする」
マジか……。
「父上……」
気が付けば、オレは縋るように呟いていた。もしかしたら、オレの中のレオンハルトだった部分が不意に零した弱音だったのかもしれない。
「レオンハルト、お前の非凡な才はわかった。だが、五つも属性を失ったというのは外聞が悪すぎる。お前はこうなったことに思い当たることがないと言っていたな? それではダメなのだ。なぜ自分が精霊からの信頼を失くしたか、よく考えることだな。魔法というのは相克関係なのはお前も知っているだろう? 重要なのは操れる属性の質ではなく操れる属性の量なのだ」
そこまで一気に言うと、アルトゥルが今度はエドガーを見た。
「エドガー、くれぐれもレオンハルトの二の舞になるなよ? お前は属性が五つある。これからはクラルヴァイン侯爵家の嫡子としてふさわしい行動をするように」
「はい! このエドガー、決して愚兄のようにはなりません」
「うむ」
輝く笑顔のエドガーを見て、アルトゥルが満足そうに頷いていた。
「それであなた、これはどうするのですか?」
母親のベネディクタが残念な物を見るような目でオレを見ていた。もうオレは人ではないと言外に言われている気がした。
気位の高いベネディクタにとって、平民にも劣る属性数のオレを産んだことは、もはや無くしたい過去なのかもしれない。
「ふむ。しばらくはクラルヴァイン侯爵家の者とする」
「庶子には落とさないのですか?」
「そうすれば、クラルヴァイン侯爵家の子どもはエドガー一人になってしまう。何事にも予備は必要だ」
「……そうですね」
不満を隠そうともしないベネディクタと、人を平気で予備と呼ぶアルトゥル。貴族としては正しい姿なのかもしれないが、なんとも情の無いことだな……。
こうなることはわかってはいたが、実際になってみると心にクルものがあった。
まぁ、こんなのはまだまだ序の口なのだろうな。そのうち使用人たちもオレのことを蔑んでくるに違いない。
あんな杖の宝玉が太陽のように輝くイベントなんて原作ゲームにも公式設定資料集にも無かった。だから、なんとかなるかもと一瞬でも考えてしまった自分がひどく惨めだった。
アルトゥルもベネディクタも話は終わったと言わんばかりに神官のお爺ちゃんを連れて出ていってしまった。
この場に残されたのはオレとエドガーだけだ。
エドガーも会議室を出ようとして、しかし足を止めてオレの方に振り返った。
「そうだレオンハルト。お前の連れてる奴隷を俺によこせよ。それでこれまでの無礼は許してやる」
こいつはなにを言ってるんだ……?
会議室には重たい空気が流れていた。
「それで、レオンハルトはどうなっているんだ?」
父親であるアルトゥルがおじいちゃん神官に問いかける。
「侯爵様、申し訳ないですが……。御子息であるレオンハルト様がどういう状態にあるのか、私にも正確にはわかりません……。ですが、恐ろしく強い火属性の力です。私も長いこと神官をしておりますが、こんなことは初めてのことです……」
おじいちゃん神官が恐縮したように言った。
まぁ、そりゃそうだよな。オレはイフリートの力を継承したんだ。火属性の適性だけで言えば世界一だろう。
そして、その高い適性が今回の事件を引き起こした。
「逆にお伺いします。侯爵様には御子息の変化になにか思い当たる点はないのですか?」
「……ないな。レオンハルトはなにかあるか?」
「父上、私にもわかりません」
まぁ、原因は知ってはいるけど、知らないで通す。それがイフリートとの約束だしな。
イフリートの存在がセリアの心の支えになっている場合もある。
それに、イフリートの力を継承したことがバレれば、必ずその周辺にルクレール王国の最後の王族であるセレスティーヌの影を疑われることになってしまう。それはよろしくない。
「レオンハルトの属性は一つになってしまったのか? レオンハルトは五つも精霊の加護を失ったと?」
アルトゥルが痛いところを突いてくる。やっぱりこれが理由で嫡子から外されてしまうのだろうか?
「それは間違いございませんが、それを補って余りあるほどの火属性の加護です。他の誰が、たとえ王族の方々でもあそこまで篤い加護はありえないほどの」
「ふむ……。そなたはレオンハルトを嫡子として扱うことをどう考える?」
アルトゥルに問われたおじいちゃん神官が、オレをチラリと見て口を開いた。
「正直に申せば、わかりません。精霊様からの情の深さを取るか、数を取るかでございます」
「ふむ……。だが、どんなに篤い加護であろうと、属性が一つでは話にならない。今日のことも、会場に来ていない者たちが聞けば眉唾だと言うであろう。儂もこの目で見なければ信じられなかったに違いない」
うーむ……。この流れはあまりよろしくないな。
「父上は私を嫡子から外すというのですか……?」
オレは精いっぱい悲しそうな顔を作ると、アルトゥルに懇願するように言った。
アルトゥルの横では、エドガーが歪な笑顔を浮かべている。
「そうなるな。なによりも属性を、精霊からの信頼を失ったのが大きすぎる。これはいくら言い繕ってもマイナスの印象にしかならない。嫡子はエドガーとする」
マジか……。
「父上……」
気が付けば、オレは縋るように呟いていた。もしかしたら、オレの中のレオンハルトだった部分が不意に零した弱音だったのかもしれない。
「レオンハルト、お前の非凡な才はわかった。だが、五つも属性を失ったというのは外聞が悪すぎる。お前はこうなったことに思い当たることがないと言っていたな? それではダメなのだ。なぜ自分が精霊からの信頼を失くしたか、よく考えることだな。魔法というのは相克関係なのはお前も知っているだろう? 重要なのは操れる属性の質ではなく操れる属性の量なのだ」
そこまで一気に言うと、アルトゥルが今度はエドガーを見た。
「エドガー、くれぐれもレオンハルトの二の舞になるなよ? お前は属性が五つある。これからはクラルヴァイン侯爵家の嫡子としてふさわしい行動をするように」
「はい! このエドガー、決して愚兄のようにはなりません」
「うむ」
輝く笑顔のエドガーを見て、アルトゥルが満足そうに頷いていた。
「それであなた、これはどうするのですか?」
母親のベネディクタが残念な物を見るような目でオレを見ていた。もうオレは人ではないと言外に言われている気がした。
気位の高いベネディクタにとって、平民にも劣る属性数のオレを産んだことは、もはや無くしたい過去なのかもしれない。
「ふむ。しばらくはクラルヴァイン侯爵家の者とする」
「庶子には落とさないのですか?」
「そうすれば、クラルヴァイン侯爵家の子どもはエドガー一人になってしまう。何事にも予備は必要だ」
「……そうですね」
不満を隠そうともしないベネディクタと、人を平気で予備と呼ぶアルトゥル。貴族としては正しい姿なのかもしれないが、なんとも情の無いことだな……。
こうなることはわかってはいたが、実際になってみると心にクルものがあった。
まぁ、こんなのはまだまだ序の口なのだろうな。そのうち使用人たちもオレのことを蔑んでくるに違いない。
あんな杖の宝玉が太陽のように輝くイベントなんて原作ゲームにも公式設定資料集にも無かった。だから、なんとかなるかもと一瞬でも考えてしまった自分がひどく惨めだった。
アルトゥルもベネディクタも話は終わったと言わんばかりに神官のお爺ちゃんを連れて出ていってしまった。
この場に残されたのはオレとエドガーだけだ。
エドガーも会議室を出ようとして、しかし足を止めてオレの方に振り返った。
「そうだレオンハルト。お前の連れてる奴隷を俺によこせよ。それでこれまでの無礼は許してやる」
こいつはなにを言ってるんだ……?
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