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010 暴力の使い方
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エドガーは奴隷をよこせと言った。間違いなくセリアのことだろう。
渡せるわけがない。
それに、これまでの無礼って何だよ?
オレはエドガーに対して無礼を働いた覚えはないんだが……」
「これまでの無礼? お前は何を言っているんだ?」
「お前じゃない!」
突然、エドガーは激昂した。テーブルを叩き、顔を真っ赤にしてオレを睨む。
「これからはエドガー様と呼べ! 俺は嫡子でお前は予備だ! 立場をわきまえろ! 俺が今までどれだけお前に気を使って生きてきたと思ってるんだ! お前はこれから俺のご機嫌を取って生きなくちゃいけないんだよ!」
それはこれまで予備として扱われてきたエドガーの魂の叫びだったのかもしれない。あるいは、エドガーの言う通り、次期侯爵であるエドガーに尻尾を振って生きるのが正しいのかもしれない。
だが――――。
こいつはセリアを要求した。それだけは許せない。
「エドガー、大抵のことは受け入れよう。だが、セリアだけは渡せない」
「ダメだ! あの奴隷をよこせ! それをお前の忠誠の証とする! 渡さなければ、俺はお前を許さない!」
「セリアをどうするつもりだ?」
「元は汚らわしい奴隷だろ? 適当に使い潰すさ。壊した後に返してやるよ」
セリアを使い潰す……? 壊す……?
眩暈しそうなほどの最悪の現実だ。こんな危険な奴はこのまま放置しておけない。
ゆらりとオレは立ち上がると、エドガーに近づいていく。
「なんだ? 嫡子である俺に手を上げる気か? 火属性しか使えないのに? 水属性が使える俺には勝てないんだよ?」
エドガーが手を俺に向けている。
たぶん魔法を使うための予備動作だろう。
だが、この近さならば、魔法よりも拳の方が早い!
「ウォーターしょっべぎゃ!?」
オレはエドガーの顔に渾身の右ストレートを叩き込んだ。そのまま倒れ込んだエドガーに馬乗りになって、エドガーの頬を軽く叩く。
「エドガー、セリアに手を出してみろ。オレはお前を殺す」
「お前! 嫡子である俺に手を上げて! 身分をわきまえろ!」
反省した様子の無いエドガーの顔を殴る。
「へぶっ!?」
「セリアに手を出したら殺す」
「必ず後悔させてやるぞ! レオンハルトおおお!」
エドガーが抜け出そうと足掻くが、オレは重いからな。抜け出せないみたいだ。
殴る。
「べばっ!?」
「セリアに手を出したら殺す」
「俺に命令するな! 俺は嫡子だぞ!?」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
…………。
……。
「わかっひゃ! てをだひゃない!」
もう涙と血でぐちゃぐちゃの顔をしたエドガーが叫ぶ。
「本当か?」
「うん! うん!」
エドガーが必死に頷く。
「今回は信じてやろう。だが、許すのはこの一回だけだ」
オレはエドガーの上から退くと、泣きじゃくるエドガーを放置して会議室を後にした。
エドガーがこれで懲りてくれればいいんだが……。
セリアの安全のためにもなにか策を考える必要があるな。
その後、オレの暴挙は屋敷全体に広まり、アルトゥルに怒られたが反省はしない。
オレはセリアを守るためならばなんでもやる。
誓いは絶対だ。
◇
「くそっ! ちくしょう!」
俺、エドガーはその日から苛立ちが治まらなかった。
本当なら、その日は予備と呼ばれ続けてきた俺が嫡子になれた記念すべき日なのに!
それもこれもレオンハルトのバカ野郎のせいだ!
嫡子である俺にただの予備であるレオンハルトが手を上げるなんておかしいだろ!
ぶつくさ言いながら廊下を歩いていると、レオンハルトのメイドであるカミラと奴隷を見つけた。
主人の罪をあの奴隷に払わせたい。
だが――――。
『セリアに手を出したら殺す』
あの奴隷を見るたびにあの日のレオンハルトの言葉が甦る。
「ひっ!?」
今も、俺が奴隷に手を出そうとしたら、すぐにレオンハルトが出てくるかもしれない。俺を釣るための罠の可能性もある。
そう思うと考え無しに手も出せない。
なんでクラルヴァイン侯爵家の嫡子である俺が奴隷ごときに怯えなくてはならんのだ!
「くそっ!」
せっかく嫡子になったのに……。
だが、このままいけば俺は侯爵になれる。一方のレオンハルトは無位無官のただの貴族だ。そうなれば、権力も動かせる使用人の数も桁違いだ。レオンハルトに本格的な復讐をするのは大人になってからにしよう……。
それに、あと二年も経てば学園に行くためにレオンハルトは屋敷からいなくなる。
それまでの我慢だな……。
「はぁ……」
◇
オレはエドガーが溜息を吐いて廊下をトボトボ歩いていくのを見て、安堵した。
エドガーはセリアを見たが、ちょっかいを出すことはなかった。
一応、少しはあの暴力による警告は効果を発揮しているようだな。
念のためにカミラやドミニクにセリアを見守ってもらえるように頼んだのもよかったかもしれない。
「レオンハルト様? どうしたのですか、こんな所で?」
なにも知らないセリアが不思議そうな顔でオレを見ていた。
「セリアがオレのおやつを落とさないか心配でね」
「もう、落としませんよ」
そう言って淡い笑顔を見せるセリア。
あの生誕祭以降、使用人たちには噂されるようになった。だが、なぜだかわからないけど、セリアには気を許してもらえているような気がする。
この調子でセリアともっと仲良くなりたいな。
渡せるわけがない。
それに、これまでの無礼って何だよ?
オレはエドガーに対して無礼を働いた覚えはないんだが……」
「これまでの無礼? お前は何を言っているんだ?」
「お前じゃない!」
突然、エドガーは激昂した。テーブルを叩き、顔を真っ赤にしてオレを睨む。
「これからはエドガー様と呼べ! 俺は嫡子でお前は予備だ! 立場をわきまえろ! 俺が今までどれだけお前に気を使って生きてきたと思ってるんだ! お前はこれから俺のご機嫌を取って生きなくちゃいけないんだよ!」
それはこれまで予備として扱われてきたエドガーの魂の叫びだったのかもしれない。あるいは、エドガーの言う通り、次期侯爵であるエドガーに尻尾を振って生きるのが正しいのかもしれない。
だが――――。
こいつはセリアを要求した。それだけは許せない。
「エドガー、大抵のことは受け入れよう。だが、セリアだけは渡せない」
「ダメだ! あの奴隷をよこせ! それをお前の忠誠の証とする! 渡さなければ、俺はお前を許さない!」
「セリアをどうするつもりだ?」
「元は汚らわしい奴隷だろ? 適当に使い潰すさ。壊した後に返してやるよ」
セリアを使い潰す……? 壊す……?
眩暈しそうなほどの最悪の現実だ。こんな危険な奴はこのまま放置しておけない。
ゆらりとオレは立ち上がると、エドガーに近づいていく。
「なんだ? 嫡子である俺に手を上げる気か? 火属性しか使えないのに? 水属性が使える俺には勝てないんだよ?」
エドガーが手を俺に向けている。
たぶん魔法を使うための予備動作だろう。
だが、この近さならば、魔法よりも拳の方が早い!
「ウォーターしょっべぎゃ!?」
オレはエドガーの顔に渾身の右ストレートを叩き込んだ。そのまま倒れ込んだエドガーに馬乗りになって、エドガーの頬を軽く叩く。
「エドガー、セリアに手を出してみろ。オレはお前を殺す」
「お前! 嫡子である俺に手を上げて! 身分をわきまえろ!」
反省した様子の無いエドガーの顔を殴る。
「へぶっ!?」
「セリアに手を出したら殺す」
「必ず後悔させてやるぞ! レオンハルトおおお!」
エドガーが抜け出そうと足掻くが、オレは重いからな。抜け出せないみたいだ。
殴る。
「べばっ!?」
「セリアに手を出したら殺す」
「俺に命令するな! 俺は嫡子だぞ!?」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
殴る。
「セリアに手を出したら殺す」
…………。
……。
「わかっひゃ! てをだひゃない!」
もう涙と血でぐちゃぐちゃの顔をしたエドガーが叫ぶ。
「本当か?」
「うん! うん!」
エドガーが必死に頷く。
「今回は信じてやろう。だが、許すのはこの一回だけだ」
オレはエドガーの上から退くと、泣きじゃくるエドガーを放置して会議室を後にした。
エドガーがこれで懲りてくれればいいんだが……。
セリアの安全のためにもなにか策を考える必要があるな。
その後、オレの暴挙は屋敷全体に広まり、アルトゥルに怒られたが反省はしない。
オレはセリアを守るためならばなんでもやる。
誓いは絶対だ。
◇
「くそっ! ちくしょう!」
俺、エドガーはその日から苛立ちが治まらなかった。
本当なら、その日は予備と呼ばれ続けてきた俺が嫡子になれた記念すべき日なのに!
それもこれもレオンハルトのバカ野郎のせいだ!
嫡子である俺にただの予備であるレオンハルトが手を上げるなんておかしいだろ!
ぶつくさ言いながら廊下を歩いていると、レオンハルトのメイドであるカミラと奴隷を見つけた。
主人の罪をあの奴隷に払わせたい。
だが――――。
『セリアに手を出したら殺す』
あの奴隷を見るたびにあの日のレオンハルトの言葉が甦る。
「ひっ!?」
今も、俺が奴隷に手を出そうとしたら、すぐにレオンハルトが出てくるかもしれない。俺を釣るための罠の可能性もある。
そう思うと考え無しに手も出せない。
なんでクラルヴァイン侯爵家の嫡子である俺が奴隷ごときに怯えなくてはならんのだ!
「くそっ!」
せっかく嫡子になったのに……。
だが、このままいけば俺は侯爵になれる。一方のレオンハルトは無位無官のただの貴族だ。そうなれば、権力も動かせる使用人の数も桁違いだ。レオンハルトに本格的な復讐をするのは大人になってからにしよう……。
それに、あと二年も経てば学園に行くためにレオンハルトは屋敷からいなくなる。
それまでの我慢だな……。
「はぁ……」
◇
オレはエドガーが溜息を吐いて廊下をトボトボ歩いていくのを見て、安堵した。
エドガーはセリアを見たが、ちょっかいを出すことはなかった。
一応、少しはあの暴力による警告は効果を発揮しているようだな。
念のためにカミラやドミニクにセリアを見守ってもらえるように頼んだのもよかったかもしれない。
「レオンハルト様? どうしたのですか、こんな所で?」
なにも知らないセリアが不思議そうな顔でオレを見ていた。
「セリアがオレのおやつを落とさないか心配でね」
「もう、落としませんよ」
そう言って淡い笑顔を見せるセリア。
あの生誕祭以降、使用人たちには噂されるようになった。だが、なぜだかわからないけど、セリアには気を許してもらえているような気がする。
この調子でセリアともっと仲良くなりたいな。
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