34 / 117
034 シャルリーヌとヴィアラット領へ②
しおりを挟む
ヴィアラット邸の応接間。先ほどまでいた王都のブラシェール伯爵家の屋敷とは比べるまでもなく貧相だが、不思議と人のぬくもりを感じる部屋。その中にオレとシャルリーヌ、母上が向かい合って座っていた。
「はじめまして。シャルリーヌ・ブラシェールと申します」
「お会いできて嬉しいです。わたくしがアポリーヌ・ヴィアラットですわ」
ちょっと緊張気味のシャルリーヌに、母上が柔らかな笑みを浮かべていた。なんだか母性を感じる温かい笑みだ。
「こんな体ですからね。王都に行けなくて残念に思っていましたが、まさかシャルリーヌの方から会いに来てくださるなんて」
「あの、どこかお悪いのですか?」
「いいえ。子ができたのです」
そう言って母上が自分のお腹を撫でる。まだ目立ってはいないけど、あの中に子どもがいるというのはちょっと不思議に感じるね。
「まあ! おめでとうございます!」
「ありがとうございます、シャルリーヌ。ここに来る時、アベルが無理を言いませんでしたか? わたくしはそれだけが心配で……」
さすが母上。オレが少し強引にシャルリーヌを連れてきたことを見抜いている。
「その、わたくしも飛空艇やヴィアラット領には興味がありましたので……」
否定しきれないシャルリーヌの言葉を聞いて、母上が笑みを深めてオレを見た。
すごいな、母上は。表面上は笑みを浮かべているのに、しっかりと怒っている雰囲気を感じる。
やがて、母上はふっと息を漏らすと、眉を下げて申し訳なさそうな表情をみせる。
「ごめんなさいね。アベルは昔から思い立ったら一直線な子ですから……」
「いいえ、アベル様はとても紳士的で、わたくしをエスコートしてくださいました」
「まあ! アベルが紳士的?」
母上が意外なことを聞いたとばかりに目をぱちくりさせてみせる。
オレは紳士的だよ? 少しは自分の息子のことを信じてくれよ。
「そうですか。アベルも好きな子には優しくできるのですね」
「えっ!?」
「ちょっ!? 母上!?」
急に何言っちゃってるの!?
そりゃオレとシャルリーヌは婚約者同士だけど、まだ告白したわけじゃないのに!?
「あら? まだ言ってなかったのですか? アベルにしては珍しいですね」
「オレだって、時期を見計らったりしますよ!」
「そうなのですか? では、シャルリーヌから貰った手紙を大切に保管していることや、シャルリーヌの肖像画を見て恋の溜息を吐いていることもまだ内緒ですか?」
「なんで言っちゃうんですか!?」
「ふふふふっ」
くぅ! 絶対、母上は面白がってる!
でも、シャルリーヌが頬を染めて俯いているのがかわいいのでOKです!
その時、空気を換えるようにノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
母上が入室の許可を与えると、扉の向こうからワゴンを押したデボラが現れた。
「お待たせしました」
デボラが慣れた手つきでお茶とお茶請けを用意する。
辺境には王都のようなお菓子はない。どうするんだろうと思っていたのだが、厨房を預かる料理長のドミニクも苦心したらしい。
出てきたのは、卵とマヨネーズを使ったサンドイッチと、スティック状に切ったパンを油で揚げて砂糖を塗した物だった。
両方ともオレがドミニクに教えた料理だ。まさかここで出してくるとは思わなかったよ。
「見たことないお菓子ですね」
シャルリーヌがしげしげとお皿の上のサンドイッチと揚げパンを見ている。
「どちらもアベルが考えた物なんですよ。辺境の子どもたちには大人気です」
「まあ! お菓子を考えるなんて、すごいですね!」
「いやあ……」
シャルリーヌは褒めてくれるけど、オレが考えたわけじゃなくて、ただ前世の知識から引っ張ってきた物だから、そんなに褒められるとなんだか座りが悪いよ。
「どうぞ、お召し上がりください」
デボラが三人の取り皿にサンドイッチと揚げパンを分けた。
オレはさっそくとばかりにサンドイッチを手に取る。そして一口食べると、シャルリーヌに頷いてみせた。
「おいしいよ。シャルリーヌも食べてごらん」
「ええ」
シャルリーヌもおずおずとサンドイッチを手に取った。そして、至近距離でサンドイッチをしげしげと観察し、クンクンと匂いも嗅いでいる。
「挟まっているのは、茹で卵と……何かしら? バタークリーム?」
「マヨネーズだよ」
「マヨネーズ?」
「ええ。アベルが考えたクリームです。とってもおいしいですよ」
母上もサンドイッチを食べてみせ、シャルリーヌも意を決したようにサンドイッチをちょこっと食べる。
「まあ! 卵のコクとまろやかさ、そして少しの酸味があってさわやかですね。おいしいです!」
「気に入ってくれてよかったよ」
「シャルリーヌ、こっちの揚げパンもおいしいのですよ? よかったら食べてみてください」
「はい!」
その後、シャルリーヌには無事に揚げパンも気に入ってもらえた。王都のお菓子を見た後だと、どうしても引け目を感じてしまうけど、なんとかなってよかったよ。
「はじめまして。シャルリーヌ・ブラシェールと申します」
「お会いできて嬉しいです。わたくしがアポリーヌ・ヴィアラットですわ」
ちょっと緊張気味のシャルリーヌに、母上が柔らかな笑みを浮かべていた。なんだか母性を感じる温かい笑みだ。
「こんな体ですからね。王都に行けなくて残念に思っていましたが、まさかシャルリーヌの方から会いに来てくださるなんて」
「あの、どこかお悪いのですか?」
「いいえ。子ができたのです」
そう言って母上が自分のお腹を撫でる。まだ目立ってはいないけど、あの中に子どもがいるというのはちょっと不思議に感じるね。
「まあ! おめでとうございます!」
「ありがとうございます、シャルリーヌ。ここに来る時、アベルが無理を言いませんでしたか? わたくしはそれだけが心配で……」
さすが母上。オレが少し強引にシャルリーヌを連れてきたことを見抜いている。
「その、わたくしも飛空艇やヴィアラット領には興味がありましたので……」
否定しきれないシャルリーヌの言葉を聞いて、母上が笑みを深めてオレを見た。
すごいな、母上は。表面上は笑みを浮かべているのに、しっかりと怒っている雰囲気を感じる。
やがて、母上はふっと息を漏らすと、眉を下げて申し訳なさそうな表情をみせる。
「ごめんなさいね。アベルは昔から思い立ったら一直線な子ですから……」
「いいえ、アベル様はとても紳士的で、わたくしをエスコートしてくださいました」
「まあ! アベルが紳士的?」
母上が意外なことを聞いたとばかりに目をぱちくりさせてみせる。
オレは紳士的だよ? 少しは自分の息子のことを信じてくれよ。
「そうですか。アベルも好きな子には優しくできるのですね」
「えっ!?」
「ちょっ!? 母上!?」
急に何言っちゃってるの!?
そりゃオレとシャルリーヌは婚約者同士だけど、まだ告白したわけじゃないのに!?
「あら? まだ言ってなかったのですか? アベルにしては珍しいですね」
「オレだって、時期を見計らったりしますよ!」
「そうなのですか? では、シャルリーヌから貰った手紙を大切に保管していることや、シャルリーヌの肖像画を見て恋の溜息を吐いていることもまだ内緒ですか?」
「なんで言っちゃうんですか!?」
「ふふふふっ」
くぅ! 絶対、母上は面白がってる!
でも、シャルリーヌが頬を染めて俯いているのがかわいいのでOKです!
その時、空気を換えるようにノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
母上が入室の許可を与えると、扉の向こうからワゴンを押したデボラが現れた。
「お待たせしました」
デボラが慣れた手つきでお茶とお茶請けを用意する。
辺境には王都のようなお菓子はない。どうするんだろうと思っていたのだが、厨房を預かる料理長のドミニクも苦心したらしい。
出てきたのは、卵とマヨネーズを使ったサンドイッチと、スティック状に切ったパンを油で揚げて砂糖を塗した物だった。
両方ともオレがドミニクに教えた料理だ。まさかここで出してくるとは思わなかったよ。
「見たことないお菓子ですね」
シャルリーヌがしげしげとお皿の上のサンドイッチと揚げパンを見ている。
「どちらもアベルが考えた物なんですよ。辺境の子どもたちには大人気です」
「まあ! お菓子を考えるなんて、すごいですね!」
「いやあ……」
シャルリーヌは褒めてくれるけど、オレが考えたわけじゃなくて、ただ前世の知識から引っ張ってきた物だから、そんなに褒められるとなんだか座りが悪いよ。
「どうぞ、お召し上がりください」
デボラが三人の取り皿にサンドイッチと揚げパンを分けた。
オレはさっそくとばかりにサンドイッチを手に取る。そして一口食べると、シャルリーヌに頷いてみせた。
「おいしいよ。シャルリーヌも食べてごらん」
「ええ」
シャルリーヌもおずおずとサンドイッチを手に取った。そして、至近距離でサンドイッチをしげしげと観察し、クンクンと匂いも嗅いでいる。
「挟まっているのは、茹で卵と……何かしら? バタークリーム?」
「マヨネーズだよ」
「マヨネーズ?」
「ええ。アベルが考えたクリームです。とってもおいしいですよ」
母上もサンドイッチを食べてみせ、シャルリーヌも意を決したようにサンドイッチをちょこっと食べる。
「まあ! 卵のコクとまろやかさ、そして少しの酸味があってさわやかですね。おいしいです!」
「気に入ってくれてよかったよ」
「シャルリーヌ、こっちの揚げパンもおいしいのですよ? よかったら食べてみてください」
「はい!」
その後、シャルリーヌには無事に揚げパンも気に入ってもらえた。王都のお菓子を見た後だと、どうしても引け目を感じてしまうけど、なんとかなってよかったよ。
143
あなたにおすすめの小説
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~
キョウキョウ
ファンタジー
普通の会社員だった佐藤隼人(さとうはやと)は、ある日突然異世界に招かれる。
異世界で勇者として10年間を旅して過ごしながら魔王との戦いに決着をつけた隼人。
役目を終えて、彼は異世界に旅立った直後の現代に戻ってきた。
隼人の意識では10年間という月日が流れていたが、こちらでは一瞬の出来事だった。
戻ってきたと実感した直後、彼の体に激痛が走る。
異世界での経験と成長が現代の体に統合される過程で、隼人は1ヶ月間寝込むことに。
まるで生まれ変わるかのような激しい体の変化が続き、思うように動けなくなった。
ようやく落ち着いた頃には無断欠勤により会社をクビになり、それを知った恋人から別れを告げられる。
それでも隼人は現代に戻ってきて、生きられることに感謝する。
次の仕事を見つけて、新しい生活を始めようと前向きになった矢先、とある人物が部屋を訪ねてくる。
その人物とは、異世界で戦友だった者の名を口にする女子高生だった。
「ハヤト様。私たちの世界を救ってくれて、本当にありがとう。今度は、私たちがあなたのことを幸せにします!」
※カクヨムにも掲載中です。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる