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033 シャルリーヌとヴィアラット領へ②
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プシュッと開いたヴァネッサの外へと続く扉。その瞬間、ひんやりとした風が頬をくすぐった。
やっぱり王都の空気とは違うね。ヴィアラット領の方が空気がおいしく感じるよ。
「ここが、ヴィアラット領……」
シャルリーヌは少し呆然としながらタラップの上で呟いた。
視点が高いので、ここから見ると村の様子がよくわかる。
目の前に人がるのは木造りのいくつかの民家。そして、その向こうはどこまでも続く森だ。
王都にいたら、目にすることはなかった光景だろう。
「シャルリーヌ、まずは母上に会いに行こう。きっと驚くはずだ」
「あなたのお母様に?」
「そうそう。母上は今、お腹に赤ちゃんがいるから今回王都には来れなかったけど、すごくシャルリーヌに会いたがっていたんだ」
「まあ!」
オレはシャルリーヌの手を引いてタラップを降りていく。
「坊ちゃま! もう帰ってきたんですか? 何か忘れものでも? おや、そちらの方は?」
タラップを降りたところで、ヴィアラット邸から肝っ玉母さんみたいなメイドのデボラが出てきた。
「デボラ! 紹介しよう、こちらはシャルリーヌ・ブラシェールだ。シャルリーヌ、あれはうちのメイドのデボラだよ」
「はあ……」
シャルリーヌは不思議そうな顔でオレを見ていた。
なんでだろう?
「ブラシェール!? 坊ちゃま、連れてきちゃったんですか!? こうしてはいられません! 早く奥様にお知らせせねば!」
そう言ってデボラは出てきたヴィアラット邸にまた入ってしまった。
「おくさまああああああああああああ! 大変です! 坊ちゃまがブラシェールのご令嬢を連れてきちゃいました! おくさまああああああああああああ!」
すごい騒ぎだな。ここまでデボラの叫び声が聞こえるよ。
まぁ、たしかにいきなり客を連れてきたら困ってしまうか。歓迎の準備とかあるだろうし。
でもヴァネッサで移動すると、先触れなんて出せないからなぁ……。
「ん?」
べつに先触れを出す必要はないか。これから客を連れていくということがわかればいいんだから、ヴァネッサの通信機能を使えばいい。
オレは自分の右手人差し指に填まっている銀の指輪を撫でる。
この指輪があれば、ヴァネッサと通信できる。指輪はいくつ作れるのかわからないけど、これを利用すればヴァネッサを介した通信網を構築できるな。これがあれば、辺境での暮らしももっと便利になるかもしれない。
各領地の領主に配るなんてどうだろう?
何か問題があれば、速やかに助けを求めることができるはずだ。
そうすれば、父上の航空戦闘団ももっと活躍できるだろう。
まぁ、すべては後でだな。今はシャルリーヌを歓迎して楽しませないとね。
「デボラも母上も準備とかあるだろうし、ちょっと待ってもらってもいい?」
「それはかまいませんけど……」
ちょっとシャルリーヌが暗い顔を浮かべている。
「どうしたの?」
「いえ……。わたくし、お父様にもお母様にも内緒で出てきてしまいました……」
「あの場にいたメイドたちが知らせてくれるんじゃない?」
「そうかもしれませんけど……。お父様とお母様に黙って出てきてしまったことには変わりないのです……」
「怒られる感じ?」
「ええ……」
王都の貴族って礼儀とかに厳しいのかな? オレなんて黙ってどこかに出かけるなんて日常茶飯事だけどな。
「オレが強引にシャルリーヌを連れ出したことにすればいいよ」
「いいの?」
「ああ。実際、無理やり連れだしたようなものだしね。それでシャルリーヌが怒られるのは申し訳ない。謝る時は、オレも一緒に謝るよ」
「……ありがとう」
「まぁ、オレが言うことじゃないけど、済んじゃったことは仕方ない。少しでもこのヴィアラット領を楽しんでいってよ。たぶん、そろそろ準備できてるだろうし、行こうか」
「ええ!」
玄関のドアを開けると、肩で息をしているデボラがかしこまっていた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま。いらっしゃいませ、シャルリーヌ様。ヴィアラット領へようこそ」
今更取り繕っても意味はないと思うのだが、デボラの中の矜持がそうさせるのだろう。先ほどのやり取りはデボラの中ではなかったことになっているらしい。
「応接間にご案内します。奥様もお待ちですよ」
「ああ、頼んだ」
「こちらです」
もうとっくに日は登っているはすだが、日当たりが悪いのか廊下は少しだけ薄暗かった。いつもなら気にしないけど、今日はシャルリーヌがいる。廊下は明るい方がいいだろう。
「ホーリーライト」
オレは指先に光の玉を生み出す。光る以外に何の効果もない魔法だが、電気がないこの異世界では活躍の場が多い。
「まあ! それがあなたの神聖魔法?」
シャルリーヌが魅入るようにホーリーライトの光の玉を見ていた。
「優しい魔法ね」
シャルリーヌはホッとしたような優しい笑みを浮かべていた。ホーリーライトの明かりは、強過ぎず弱過ぎないホッとする明かりだからね。
「こちらが応接間になります」
それからすぐにオレとシャルリーヌは応接間に通されたのだった。
やっぱり王都の空気とは違うね。ヴィアラット領の方が空気がおいしく感じるよ。
「ここが、ヴィアラット領……」
シャルリーヌは少し呆然としながらタラップの上で呟いた。
視点が高いので、ここから見ると村の様子がよくわかる。
目の前に人がるのは木造りのいくつかの民家。そして、その向こうはどこまでも続く森だ。
王都にいたら、目にすることはなかった光景だろう。
「シャルリーヌ、まずは母上に会いに行こう。きっと驚くはずだ」
「あなたのお母様に?」
「そうそう。母上は今、お腹に赤ちゃんがいるから今回王都には来れなかったけど、すごくシャルリーヌに会いたがっていたんだ」
「まあ!」
オレはシャルリーヌの手を引いてタラップを降りていく。
「坊ちゃま! もう帰ってきたんですか? 何か忘れものでも? おや、そちらの方は?」
タラップを降りたところで、ヴィアラット邸から肝っ玉母さんみたいなメイドのデボラが出てきた。
「デボラ! 紹介しよう、こちらはシャルリーヌ・ブラシェールだ。シャルリーヌ、あれはうちのメイドのデボラだよ」
「はあ……」
シャルリーヌは不思議そうな顔でオレを見ていた。
なんでだろう?
「ブラシェール!? 坊ちゃま、連れてきちゃったんですか!? こうしてはいられません! 早く奥様にお知らせせねば!」
そう言ってデボラは出てきたヴィアラット邸にまた入ってしまった。
「おくさまああああああああああああ! 大変です! 坊ちゃまがブラシェールのご令嬢を連れてきちゃいました! おくさまああああああああああああ!」
すごい騒ぎだな。ここまでデボラの叫び声が聞こえるよ。
まぁ、たしかにいきなり客を連れてきたら困ってしまうか。歓迎の準備とかあるだろうし。
でもヴァネッサで移動すると、先触れなんて出せないからなぁ……。
「ん?」
べつに先触れを出す必要はないか。これから客を連れていくということがわかればいいんだから、ヴァネッサの通信機能を使えばいい。
オレは自分の右手人差し指に填まっている銀の指輪を撫でる。
この指輪があれば、ヴァネッサと通信できる。指輪はいくつ作れるのかわからないけど、これを利用すればヴァネッサを介した通信網を構築できるな。これがあれば、辺境での暮らしももっと便利になるかもしれない。
各領地の領主に配るなんてどうだろう?
何か問題があれば、速やかに助けを求めることができるはずだ。
そうすれば、父上の航空戦闘団ももっと活躍できるだろう。
まぁ、すべては後でだな。今はシャルリーヌを歓迎して楽しませないとね。
「デボラも母上も準備とかあるだろうし、ちょっと待ってもらってもいい?」
「それはかまいませんけど……」
ちょっとシャルリーヌが暗い顔を浮かべている。
「どうしたの?」
「いえ……。わたくし、お父様にもお母様にも内緒で出てきてしまいました……」
「あの場にいたメイドたちが知らせてくれるんじゃない?」
「そうかもしれませんけど……。お父様とお母様に黙って出てきてしまったことには変わりないのです……」
「怒られる感じ?」
「ええ……」
王都の貴族って礼儀とかに厳しいのかな? オレなんて黙ってどこかに出かけるなんて日常茶飯事だけどな。
「オレが強引にシャルリーヌを連れ出したことにすればいいよ」
「いいの?」
「ああ。実際、無理やり連れだしたようなものだしね。それでシャルリーヌが怒られるのは申し訳ない。謝る時は、オレも一緒に謝るよ」
「……ありがとう」
「まぁ、オレが言うことじゃないけど、済んじゃったことは仕方ない。少しでもこのヴィアラット領を楽しんでいってよ。たぶん、そろそろ準備できてるだろうし、行こうか」
「ええ!」
玄関のドアを開けると、肩で息をしているデボラがかしこまっていた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま。いらっしゃいませ、シャルリーヌ様。ヴィアラット領へようこそ」
今更取り繕っても意味はないと思うのだが、デボラの中の矜持がそうさせるのだろう。先ほどのやり取りはデボラの中ではなかったことになっているらしい。
「応接間にご案内します。奥様もお待ちですよ」
「ああ、頼んだ」
「こちらです」
もうとっくに日は登っているはすだが、日当たりが悪いのか廊下は少しだけ薄暗かった。いつもなら気にしないけど、今日はシャルリーヌがいる。廊下は明るい方がいいだろう。
「ホーリーライト」
オレは指先に光の玉を生み出す。光る以外に何の効果もない魔法だが、電気がないこの異世界では活躍の場が多い。
「まあ! それがあなたの神聖魔法?」
シャルリーヌが魅入るようにホーリーライトの光の玉を見ていた。
「優しい魔法ね」
シャルリーヌはホッとしたような優しい笑みを浮かべていた。ホーリーライトの明かりは、強過ぎず弱過ぎないホッとする明かりだからね。
「こちらが応接間になります」
それからすぐにオレとシャルリーヌは応接間に通されたのだった。
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