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044 賭け
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「やっと来たか、クズのヴィアラット」
高い石壁に囲われた学園の広いグラウンドで向かい合うオレとテオドール。テオドールはニヤニヤと笑っていた。嫌な笑みだな。まったく、こんな短時間でオレにここまで嫌われるなんて一種の才能だぞ?
「どっちが勝つと思う?」
「ダルセーの方じゃないか? 噂では魔法が使えるんだろ?」
「たしかに武器を持ってないな。噂は本当だったか」
「んで、ダルセーの相手は誰だ?」
「辺境の貴族みたいですけど……」
「剣と盾を持ってるな。あっちは魔法を使えないのか?」
「さあ?」
「でよ? どうして決闘になったんだ?」
「父親を侮辱されたんですって。それで飛空艇を賭けて決闘だそうですわ」
「マジかよ!?」
「あの殿方に勝てば飛空艇貰えるの? それならわたくしも決闘したかったわ」
「だよな」
そんなオレとテオドールを遠巻きに見るようにして、クラスメイトたちが集まっていた。みんな決闘騒ぎに興味があるらしい。
「ねえ、アベル。本当に勝算はあるの?」
近くにいたシャルリーヌが心配そうに尋ねてくる。
シャルリーヌにとって、オレとの婚約を保留したのはヴァネッサの存在が大きい。オレがテオドールに負けてヴァネッサが奪われれば、オレとの婚約を破棄するかもな。
それでもオレを心配してくれるのは、それだけオレのことを気に入ってくれたのか、それともヴァネッサを失うのを惜しいと思っているのか、どっちだろうな?
「心配ないよ、シャルリーヌ。オレは負けない」
「だけど……」
「シャルリーヌに勝利を誓うよ」
オレがテオドールの方を見ると、テオドールは目を点にしてボケッとしていた。
どうしたんだ?
テオドールの視線をたどると、どうやらシャルリーヌを見ているみたいだ。
シャルリーヌの美しさに目を奪われたのか?
まぁ、気持ちはわからんでもない。シャルリーヌは美しい者が多い貴族の中でも群を抜いて美しいからな。幼いながらも気品のようなものがある。ゲームの時のようなおどおどした状態でも隠し切れない美しさがあったんだ。今のように顔を上げている状態ならなおさらである。
「そ、その女は誰だ? ま、まさか!?」
「紹介しよう。婚約者のシャルリーヌだ」
「ッ!」
クラス中の視線が集まる中で婚約者と宣言されるのが恥ずかしかったのか、シャルリーヌが少し体を震わせたのが視界の端に映った。
かわいいね。
「こ、婚約者? お前の? お前ごときの婚約者だと!?」
テオドールがうろたえたように一歩下がる。
「ふざけやがって! お前ごときにはもったいない! その女は私にこそ相応しい。おい! 賭けの報酬の上乗せだ! その女も寄越せ!」
「ひっ!?」
テオドール……。見境がないな。人の婚約者を欲しがるなんて。
実を言うと、婚約者を賭けた決闘はわりと一般的だ。だが、それは女性側の親に婚約を認めてもらうために自分の力を見せるという場合や、高位貴族が無理やり婚約者にした娘を助けるためにおこなわれる場合が多い。
断じてテオドールのように人様の婚約者を奪うためにおこなうではない。
本当に腐った奴だ。シャルリーヌが小さく悲鳴を上げてテオドールの視線から逃れるようにオレの後ろに隠れてしまったではないか。
「シャルリーヌ、大丈夫?」
「いやいやいや! 絶対に嫌よ!」
振り向くと、シャルリーヌが頭を抱えて嫌々と頭を振っていた。テオドールの婚約者になるのは絶対に嫌なようだ。
これを見ていると、オレはここまで嫌われなくてよかったとも思えるな。
「絶対勝つから。シャルリーヌを絶対に奴に渡さない」
「絶対よ! 絶対だからね!」
まぁ、この場合はオレが負けてもブラシェール伯爵家がテオドールとの婚約なんて許さないはずだ。婚約者を決めるのは、当主の役目だからね。
だが、負ければオレとシャルリーヌとの婚約は白紙されるだろう。それは絶対に阻止したい。
負けられない理由が増えたな。
「アベル!」
「うお!? どうしたの?」
頭を振っていたシャルリーヌが、勢いよくオレを見上げた。
「相手が賭け報酬を上乗せしたのだから、こちらも上乗せするべきよ!」
「なるほど……」
じゃあ、条件を上げるか。
「テオドール、お前の要求は飛空艇とシャルリーヌで間違いないな?」
「いいぞ。よもや逃げるわけがないよな? 今さら頭を下げられようと、許さんぞ?」
テオドールはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。きっともうテオドールの中では両方とも手に入れたことになっているのだろう。
「わかった。だが、テオドールが勝った場合の報酬だけ決まっているのは不公平だろ?」
「必要ないだろ? どうせ、勝つのは私なのだから」
いちいちムカつく奴だな。
「……もしオレが勝った場合、お前には土下座での謝罪とヴィアラット家の独立、そして辺境の貴族家への借金の帳消しを要求する」
「何? 独立だと?」
一瞬だけ、テオドールが迷ったような仕草を見せた。
そうだね。そんなこと、たとえ辺境伯の嫡子に言われても困るだろう。決定権なんて当然ないしね。
だが、オレがこの決闘に勝てば、ダルセー辺境伯家はヴィアラット家の独立を了承しなければならない。この世界では、決闘はそれだけ強力な効果がある。それだけ神聖なものとされているのだ。
高い石壁に囲われた学園の広いグラウンドで向かい合うオレとテオドール。テオドールはニヤニヤと笑っていた。嫌な笑みだな。まったく、こんな短時間でオレにここまで嫌われるなんて一種の才能だぞ?
「どっちが勝つと思う?」
「ダルセーの方じゃないか? 噂では魔法が使えるんだろ?」
「たしかに武器を持ってないな。噂は本当だったか」
「んで、ダルセーの相手は誰だ?」
「辺境の貴族みたいですけど……」
「剣と盾を持ってるな。あっちは魔法を使えないのか?」
「さあ?」
「でよ? どうして決闘になったんだ?」
「父親を侮辱されたんですって。それで飛空艇を賭けて決闘だそうですわ」
「マジかよ!?」
「あの殿方に勝てば飛空艇貰えるの? それならわたくしも決闘したかったわ」
「だよな」
そんなオレとテオドールを遠巻きに見るようにして、クラスメイトたちが集まっていた。みんな決闘騒ぎに興味があるらしい。
「ねえ、アベル。本当に勝算はあるの?」
近くにいたシャルリーヌが心配そうに尋ねてくる。
シャルリーヌにとって、オレとの婚約を保留したのはヴァネッサの存在が大きい。オレがテオドールに負けてヴァネッサが奪われれば、オレとの婚約を破棄するかもな。
それでもオレを心配してくれるのは、それだけオレのことを気に入ってくれたのか、それともヴァネッサを失うのを惜しいと思っているのか、どっちだろうな?
「心配ないよ、シャルリーヌ。オレは負けない」
「だけど……」
「シャルリーヌに勝利を誓うよ」
オレがテオドールの方を見ると、テオドールは目を点にしてボケッとしていた。
どうしたんだ?
テオドールの視線をたどると、どうやらシャルリーヌを見ているみたいだ。
シャルリーヌの美しさに目を奪われたのか?
まぁ、気持ちはわからんでもない。シャルリーヌは美しい者が多い貴族の中でも群を抜いて美しいからな。幼いながらも気品のようなものがある。ゲームの時のようなおどおどした状態でも隠し切れない美しさがあったんだ。今のように顔を上げている状態ならなおさらである。
「そ、その女は誰だ? ま、まさか!?」
「紹介しよう。婚約者のシャルリーヌだ」
「ッ!」
クラス中の視線が集まる中で婚約者と宣言されるのが恥ずかしかったのか、シャルリーヌが少し体を震わせたのが視界の端に映った。
かわいいね。
「こ、婚約者? お前の? お前ごときの婚約者だと!?」
テオドールがうろたえたように一歩下がる。
「ふざけやがって! お前ごときにはもったいない! その女は私にこそ相応しい。おい! 賭けの報酬の上乗せだ! その女も寄越せ!」
「ひっ!?」
テオドール……。見境がないな。人の婚約者を欲しがるなんて。
実を言うと、婚約者を賭けた決闘はわりと一般的だ。だが、それは女性側の親に婚約を認めてもらうために自分の力を見せるという場合や、高位貴族が無理やり婚約者にした娘を助けるためにおこなわれる場合が多い。
断じてテオドールのように人様の婚約者を奪うためにおこなうではない。
本当に腐った奴だ。シャルリーヌが小さく悲鳴を上げてテオドールの視線から逃れるようにオレの後ろに隠れてしまったではないか。
「シャルリーヌ、大丈夫?」
「いやいやいや! 絶対に嫌よ!」
振り向くと、シャルリーヌが頭を抱えて嫌々と頭を振っていた。テオドールの婚約者になるのは絶対に嫌なようだ。
これを見ていると、オレはここまで嫌われなくてよかったとも思えるな。
「絶対勝つから。シャルリーヌを絶対に奴に渡さない」
「絶対よ! 絶対だからね!」
まぁ、この場合はオレが負けてもブラシェール伯爵家がテオドールとの婚約なんて許さないはずだ。婚約者を決めるのは、当主の役目だからね。
だが、負ければオレとシャルリーヌとの婚約は白紙されるだろう。それは絶対に阻止したい。
負けられない理由が増えたな。
「アベル!」
「うお!? どうしたの?」
頭を振っていたシャルリーヌが、勢いよくオレを見上げた。
「相手が賭け報酬を上乗せしたのだから、こちらも上乗せするべきよ!」
「なるほど……」
じゃあ、条件を上げるか。
「テオドール、お前の要求は飛空艇とシャルリーヌで間違いないな?」
「いいぞ。よもや逃げるわけがないよな? 今さら頭を下げられようと、許さんぞ?」
テオドールはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。きっともうテオドールの中では両方とも手に入れたことになっているのだろう。
「わかった。だが、テオドールが勝った場合の報酬だけ決まっているのは不公平だろ?」
「必要ないだろ? どうせ、勝つのは私なのだから」
いちいちムカつく奴だな。
「……もしオレが勝った場合、お前には土下座での謝罪とヴィアラット家の独立、そして辺境の貴族家への借金の帳消しを要求する」
「何? 独立だと?」
一瞬だけ、テオドールが迷ったような仕草を見せた。
そうだね。そんなこと、たとえ辺境伯の嫡子に言われても困るだろう。決定権なんて当然ないしね。
だが、オレがこの決闘に勝てば、ダルセー辺境伯家はヴィアラット家の独立を了承しなければならない。この世界では、決闘はそれだけ強力な効果がある。それだけ神聖なものとされているのだ。
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