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094 帰還と贈り物
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「ふぃー」
ボス部屋のさらに奥の小部屋にある帰還用の魔法陣でダンジョンの外に出る。
上を見上げれば青い空が広がり、少し傾いた太陽がオレを出迎えてくれた。いい天気だなぁ。こんないい天気に臭くてジメジメしたダンジョンに潜っていたとか、なんだか損した気分さえする。
「うお!?」
「ん?」
声のした後方を見れば、そこには武装したエロワとポールがいた。二人とも手には松明を持ち、マスクを着けて、今まさにダンジョンから出てきた感じだな。
「どうしたんだ、二人とも?」
そうして二人がここにいるんだ?
「どうもこうもねえって! お前がいつまで経っても帰ってこないから、怪我でもしてんじゃねえかと思って探してたんだぞ!」
「そうなんだな」
「んで、どうにか第三階層まで潜ったんだが、毒消しが足りなくなって戻ってきた感じだな。どうしてお前はここにいるんだ? さっきまでいなかったろ?」
「突然現れたんだな。もしかして……」
「ああ、ダンジョンならクリアした。心配かけて悪かったな」
オレがそう答えると、二人は驚いたように目を見開き、口もあんぐりと開いていた。
「ま、マジかよ!? ダンジョンをクリアって言ったか!? 一人で!?」
「驚きなんだな!」
「アイテムとか足りなくならなかったのかよ!?」
「そういえば、まだ言ってなかったか……」
オレはエロワとポールの二人に見えるように腰のポシェット叩いた。
「実は、マジックバッグを買ってな。松明もポーションも毒消しも全部この中に入ってるんだ。すごいぞ、これ」
「すごいんだな!?」
「マジックバッグ……? そんな小さな鞄の中に松明が入るわきゃねーだろ。夢でも見てんのか?」
ポールは素直に驚いてくれたが、エロワはどうやらマジックバッグの存在を知らないらしい。
まぁ、オレと同じく辺境の出身だからね。知らなくても無理はないか。
「本当だって、ほら」
オレはマジックバッグのすごさを証明するために、松明よりも大きな槍をポシェットから取り出してみせた。
「うお!? どうなってんだ!?」
「ほんとにマジックバッグなんだな!」
「な? すごいだろ?」
ちょうどいい。ついでにエロワに槍を渡してしまおう。
「ほら」
「お、おう。ちゃんと重いな……。なにか仕掛けがあるわけじゃなさそうだ。それにしても気色悪い槍だな……」
「それ、やるよ」
「はあ!?」
ボスドロップの槍は、ちょっと黄ばんでいるが、白い骨を組み合わせて作られた大槍だ。攻撃力も高いし、攻撃時に確率で敵を麻痺させることができる。なかなか使える槍なのだ。
「だってこれ、ワイトのドロップアイテムだろ!? 売ればそれなりに金になるぜ!? そんな貰っていいのかよ!?」
「金か……」
そうか。売るという選択肢もあったな。シャルリーヌに借金がある現状では、少しでも金が欲しいところだが、一度口に出したことをひっこめるのはかっこ悪い。
「いいって。やるよ。これでもっと強くなってくれよ」
「アベル……、お前ってやつは……!」
エロワが感極まったようにオレの首に腕を回してきた。
正直お金は欲しいが、オレにはまだテオドールくんから回収していないお金もあるし、マヨネーズの利権もある。シャルリーヌに返す分のお金には困らないだろう。
早く返したいけどね。
「よっし! んじゃこれからアベルのダンジョンソロ攻略を祝ってパーティーだ!」
オレの首に腕を回していたエロワが、今度はポールの首にも腕を回して宣伝した。
「パーティ?」
「どうするんだな?」
「食堂で金払えば、ケーキが食えるのはお前らだって知ってるだろ? あれを食うぞ!」
「おぉ?」
たしかに、食堂ではお菓子の販売をしている。しかし、その値段はけっこう高い。
いつもなら付き合っただろうが、今は金欠なんだよなぁ。
「いや、すまんがマジックバッグを買ったら金がなくなちゃってさ……。二人で楽しんできてよ」
「オラもそんなお金持ってないんだな……」
「気にすんなって! 今日は俺のおごりだ!」
「「え!?」」
思わずポールと一緒に驚いた声をあげていた。
あのケチでエロいエロワからおごりなんて言葉が出るとは思わなかったのだ。
「その、疑うわけじゃないが、大丈夫なのか? 金貨が吹っ飛ぶぞ?」
「任せとけって。俺の槍ってボロボロだったろ? 実はよ、俺は新しい槍を買うために節約して金貯めてたんだよ。なのにアベルに槍も貰っちまったからな。こりゃお礼するしかないべ?」
なるほどなぁ。オレもエロワを見習って貯金をするべきかもしれない。
武器はゲームみたいに手に入れたら永遠に使えるわけじゃない。ちゃんと手入れしないと錆びたりするし、使い込めば使い込むほど痛んでいく。
オレも両親から貰った盾の表面を撫でると、凸凹と傷が走っていた。そろそろ買い換えるべきだってのはわかってるんだが、手に馴染むんだよなぁ。それに愛着もあって手放しづらい。
まぁ、いつかは手放さなくてはならないのだが……。
ボス部屋のさらに奥の小部屋にある帰還用の魔法陣でダンジョンの外に出る。
上を見上げれば青い空が広がり、少し傾いた太陽がオレを出迎えてくれた。いい天気だなぁ。こんないい天気に臭くてジメジメしたダンジョンに潜っていたとか、なんだか損した気分さえする。
「うお!?」
「ん?」
声のした後方を見れば、そこには武装したエロワとポールがいた。二人とも手には松明を持ち、マスクを着けて、今まさにダンジョンから出てきた感じだな。
「どうしたんだ、二人とも?」
そうして二人がここにいるんだ?
「どうもこうもねえって! お前がいつまで経っても帰ってこないから、怪我でもしてんじゃねえかと思って探してたんだぞ!」
「そうなんだな」
「んで、どうにか第三階層まで潜ったんだが、毒消しが足りなくなって戻ってきた感じだな。どうしてお前はここにいるんだ? さっきまでいなかったろ?」
「突然現れたんだな。もしかして……」
「ああ、ダンジョンならクリアした。心配かけて悪かったな」
オレがそう答えると、二人は驚いたように目を見開き、口もあんぐりと開いていた。
「ま、マジかよ!? ダンジョンをクリアって言ったか!? 一人で!?」
「驚きなんだな!」
「アイテムとか足りなくならなかったのかよ!?」
「そういえば、まだ言ってなかったか……」
オレはエロワとポールの二人に見えるように腰のポシェット叩いた。
「実は、マジックバッグを買ってな。松明もポーションも毒消しも全部この中に入ってるんだ。すごいぞ、これ」
「すごいんだな!?」
「マジックバッグ……? そんな小さな鞄の中に松明が入るわきゃねーだろ。夢でも見てんのか?」
ポールは素直に驚いてくれたが、エロワはどうやらマジックバッグの存在を知らないらしい。
まぁ、オレと同じく辺境の出身だからね。知らなくても無理はないか。
「本当だって、ほら」
オレはマジックバッグのすごさを証明するために、松明よりも大きな槍をポシェットから取り出してみせた。
「うお!? どうなってんだ!?」
「ほんとにマジックバッグなんだな!」
「な? すごいだろ?」
ちょうどいい。ついでにエロワに槍を渡してしまおう。
「ほら」
「お、おう。ちゃんと重いな……。なにか仕掛けがあるわけじゃなさそうだ。それにしても気色悪い槍だな……」
「それ、やるよ」
「はあ!?」
ボスドロップの槍は、ちょっと黄ばんでいるが、白い骨を組み合わせて作られた大槍だ。攻撃力も高いし、攻撃時に確率で敵を麻痺させることができる。なかなか使える槍なのだ。
「だってこれ、ワイトのドロップアイテムだろ!? 売ればそれなりに金になるぜ!? そんな貰っていいのかよ!?」
「金か……」
そうか。売るという選択肢もあったな。シャルリーヌに借金がある現状では、少しでも金が欲しいところだが、一度口に出したことをひっこめるのはかっこ悪い。
「いいって。やるよ。これでもっと強くなってくれよ」
「アベル……、お前ってやつは……!」
エロワが感極まったようにオレの首に腕を回してきた。
正直お金は欲しいが、オレにはまだテオドールくんから回収していないお金もあるし、マヨネーズの利権もある。シャルリーヌに返す分のお金には困らないだろう。
早く返したいけどね。
「よっし! んじゃこれからアベルのダンジョンソロ攻略を祝ってパーティーだ!」
オレの首に腕を回していたエロワが、今度はポールの首にも腕を回して宣伝した。
「パーティ?」
「どうするんだな?」
「食堂で金払えば、ケーキが食えるのはお前らだって知ってるだろ? あれを食うぞ!」
「おぉ?」
たしかに、食堂ではお菓子の販売をしている。しかし、その値段はけっこう高い。
いつもなら付き合っただろうが、今は金欠なんだよなぁ。
「いや、すまんがマジックバッグを買ったら金がなくなちゃってさ……。二人で楽しんできてよ」
「オラもそんなお金持ってないんだな……」
「気にすんなって! 今日は俺のおごりだ!」
「「え!?」」
思わずポールと一緒に驚いた声をあげていた。
あのケチでエロいエロワからおごりなんて言葉が出るとは思わなかったのだ。
「その、疑うわけじゃないが、大丈夫なのか? 金貨が吹っ飛ぶぞ?」
「任せとけって。俺の槍ってボロボロだったろ? 実はよ、俺は新しい槍を買うために節約して金貯めてたんだよ。なのにアベルに槍も貰っちまったからな。こりゃお礼するしかないべ?」
なるほどなぁ。オレもエロワを見習って貯金をするべきかもしれない。
武器はゲームみたいに手に入れたら永遠に使えるわけじゃない。ちゃんと手入れしないと錆びたりするし、使い込めば使い込むほど痛んでいく。
オレも両親から貰った盾の表面を撫でると、凸凹と傷が走っていた。そろそろ買い換えるべきだってのはわかってるんだが、手に馴染むんだよなぁ。それに愛着もあって手放しづらい。
まぁ、いつかは手放さなくてはならないのだが……。
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