40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。

石河 翠

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「くそっ、なんなのあのお見合いのラインナップは。クズしかいないのか、この世の中は!」

 私は、お見合い斡旋所を通して紹介された男性陣の釣書を思い出しながら、ビールをあおった。鬱憤うっぷんは酒を飲んではらすに限る。

「事前に提示した慰謝料を払うので、1年後に必ず離婚してほしいって伝えているのに。どうして紹介される男性の釣書が、『妻を病気で亡くしたから、子どもの母親になってほしい』とか、『病気の両親の介護をしてほしい』とかになるんですかね。新しく来た母親が1年でいなくなったらトラウマだし、介護要員が欲しいなら最初から家政婦を雇えや、ボケ」
「ほらほら、女の子が『くそ』とか『クズ』とか『ボケ』とか言わないの」

 くだを巻く私のことを、隣に座る美形――フェル――がなだめた。銀灰色の髪に菫色の瞳。整いすぎた顔が冷たい印象にならないのは少し垂れ目がちなおかげ。彼みたいなイケメンなら、ハゲようが水虫になろうがモテ続けるのだろう。

「何ですか。あなた『可愛い女の子はお手洗いに行かない』とか言うたぐいの人間でしたっけ? だったらお呼びじゃありませんから、あっちに行ってください」

 しっしっとフォークの背で追い払えば、彼が肩をすくめた。苦笑いさえ神々しいとはどういうことだ。

「そんなこと思わないよ」
「ですよね。どんなにお綺麗な王子さまでも、酔っぱらってどぶにハマったり、二日酔いで這いつくばったりする世の中ですもんね」
「手厳しいね」

 腹いせにピックでオリーブをめった刺しにしていたら、その手をやんわりと止められた。こちらの手を握ってくる辺りがキザったらしい。

「君はしっかりと仕事をしているし、相手に何も求めていない。斡旋所的においしいから、不良物件も含めて押し付けられてしまうんだよ。だいたい君にお見合いなんて必要ないだろう。というわけで、諦めて僕と結婚しようか?」
「寝言は寝て言ってくださいね。冗談に付き合っている暇はないんですよ。あと1日で相手を見つけなきゃクビとか、まったく横暴にも程があるってもんです」

 イケメンの世迷い言を途中で遮り、残りのビールを一気に飲み干す。ジョッキをテーブルにたたきつければ、彼がメニューを指差した。

「お腹はまだ空いているかい? ここのハンバーグは絶品だよ」
「ひとの話を聞けや、ミンチにするぞ」
「ハンバーグだけにね!」
「そういう親父ギャクが許されるのも、その顔のおかげですよね。本当に美形は得ですね」

 こんな場末の酒場のカウンターなのに、不思議なほど溶け込む美形っぷりがまた腹立たしい。私よりも数歳年上の彼は、勝手気ままに浮名を流している。男っていいよなあ。結婚しなくても、なんだかんだ独身貴族ってもてはやされてさ。

「えっ、今舌打ちしたよね?」
「はあ、気のせいじゃないですか。もうっ、やけ食いくらい好きにさせてくださいよ」
「本当にその通りだ。マスター、彼女に今日のお勧めを一通り出しておくれ」

 ほくほく顔のマスターが、これ幸いとばかりに単価が高いものを出し始めた。

「こんな日にハンバーグを勧めてくる方が悪いんですよ」

 マスターと楽しそうに話し込み、こちらを向いていない彼に向かってそっと呟く。ごめんなさいと素直に謝ることのできない気持ちは、お酒と一緒に飲み込んだ。
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