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5.お姫さまと本の悪魔のおはなし
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あるとき、お姫さまの姉である姉姫さまは大変な失敗をしでかしてしまいました。
この国では、冬になると黒い森の木の実は採ってはいけないことになっています。それは黒い森に住む魔法使いとの約束。厳しい冬を超えるために、貴重な木の実は動物たちのためにとっておかなければならないのです。
けれど偶然森を通りかかった姉姫さまは、寂しい冬の森にきらきらと光る赤い実がことのほか美しく思えて仕方がありませんでした。そしてこの赤い実をどうしても手に入れたくてたまらなくなったのです。
そして姉姫さまは、召使いたちが止めるのもきかないで、せっせと赤い実を集め始めてしまいました。手持ちの籠にこんもりと集められた赤い実。嬉しそうに赤い実を頬張った姉姫さまは、勢いよく赤い実を吐き出してしまいました。赤い実は可愛らしい見た目からは想像できないほどに酸っぱかったのです。
ちっとも甘くないことに腹を立てて籠をひっくり返してしまったせいで、寒く厳しい冬の間、森の動物たちのお腹を満たすはずだった木の実は、地面の上で無残に踏まれてぐちゃぐちゃになってしまいました。
そのことはすぐさま、黒の魔法使いから苦情として神殿に届いたようでした。神殿からやってきた神官さまは、怖いお顔で王さまたちに言いました。実は黒い森の主は、魔法使いではなく恐ろしい悪魔である。だから、悪魔との約束を破った償いをしなくてはならないと。
神官さまは、悪魔がとても怒っているので、神殿の北にある高い塔に姉姫さまを閉じ込めてしまうべきだと言いました。北の塔は昔から、処刑することのできない王族を幽閉するために使われている場所なのです。
姉姫さまは、神官さまの言葉に震えあがりました。本当ならば悪いことをした本人が、きちんと罪を償うべきなのでしょう。けれど、姉姫さまを可愛がっている王さまとお妃さまは、姉姫さまが北の塔に閉じ込められることを望みませんでした。
「そうだわ、ニセモノ姫を代わりに行かせましょう!」
何せ、姉姫さまのご兄弟も、むち打ちの罰をご学友に嬉々として代わってもらうようなひとたちなのです。だからこそ姉姫さまの言葉に、暗い顔をしていた人々の顔がぱっと明るくなりました。もちろんニセモノ姫というのは、本の虫姫のことです。
そもそも本の虫姫は、王さまが戯れに手を出した下女の娘です。姉姫さまは半分だけ血の繋がったお姫さまのことが大嫌いでした。同じ年頃の姫は、自分だけで十分だと思っていたからです。
周りのひとにとっても、ニセモノ姫の存在は頭の痛い問題でした。いつかどこかへ嫁がせるにしても、それなりのお金がかかります。厄介払いで押し付けられる先に貸しを作りたくもありません。ましてニセモノ姫ごときで、王家に縁ができたと思われても困るのです。いっそこの機会に死んでくれれば万々歳。
今まで生まれた意味を持たなかったニセモノ姫も、ようやっと存在価値を認められて感謝することでしょう。ニセモノの癖に本物の姫として北の塔に幽閉されるだなんて、なんと栄誉なことではありませか。お姫さまが生まれて周囲に責められた王さまも大層喜びました。
そうしてニセモノ姫こと本の虫姫は、北の塔に住まいを移すことになったのでした。
この国では、冬になると黒い森の木の実は採ってはいけないことになっています。それは黒い森に住む魔法使いとの約束。厳しい冬を超えるために、貴重な木の実は動物たちのためにとっておかなければならないのです。
けれど偶然森を通りかかった姉姫さまは、寂しい冬の森にきらきらと光る赤い実がことのほか美しく思えて仕方がありませんでした。そしてこの赤い実をどうしても手に入れたくてたまらなくなったのです。
そして姉姫さまは、召使いたちが止めるのもきかないで、せっせと赤い実を集め始めてしまいました。手持ちの籠にこんもりと集められた赤い実。嬉しそうに赤い実を頬張った姉姫さまは、勢いよく赤い実を吐き出してしまいました。赤い実は可愛らしい見た目からは想像できないほどに酸っぱかったのです。
ちっとも甘くないことに腹を立てて籠をひっくり返してしまったせいで、寒く厳しい冬の間、森の動物たちのお腹を満たすはずだった木の実は、地面の上で無残に踏まれてぐちゃぐちゃになってしまいました。
そのことはすぐさま、黒の魔法使いから苦情として神殿に届いたようでした。神殿からやってきた神官さまは、怖いお顔で王さまたちに言いました。実は黒い森の主は、魔法使いではなく恐ろしい悪魔である。だから、悪魔との約束を破った償いをしなくてはならないと。
神官さまは、悪魔がとても怒っているので、神殿の北にある高い塔に姉姫さまを閉じ込めてしまうべきだと言いました。北の塔は昔から、処刑することのできない王族を幽閉するために使われている場所なのです。
姉姫さまは、神官さまの言葉に震えあがりました。本当ならば悪いことをした本人が、きちんと罪を償うべきなのでしょう。けれど、姉姫さまを可愛がっている王さまとお妃さまは、姉姫さまが北の塔に閉じ込められることを望みませんでした。
「そうだわ、ニセモノ姫を代わりに行かせましょう!」
何せ、姉姫さまのご兄弟も、むち打ちの罰をご学友に嬉々として代わってもらうようなひとたちなのです。だからこそ姉姫さまの言葉に、暗い顔をしていた人々の顔がぱっと明るくなりました。もちろんニセモノ姫というのは、本の虫姫のことです。
そもそも本の虫姫は、王さまが戯れに手を出した下女の娘です。姉姫さまは半分だけ血の繋がったお姫さまのことが大嫌いでした。同じ年頃の姫は、自分だけで十分だと思っていたからです。
周りのひとにとっても、ニセモノ姫の存在は頭の痛い問題でした。いつかどこかへ嫁がせるにしても、それなりのお金がかかります。厄介払いで押し付けられる先に貸しを作りたくもありません。ましてニセモノ姫ごときで、王家に縁ができたと思われても困るのです。いっそこの機会に死んでくれれば万々歳。
今まで生まれた意味を持たなかったニセモノ姫も、ようやっと存在価値を認められて感謝することでしょう。ニセモノの癖に本物の姫として北の塔に幽閉されるだなんて、なんと栄誉なことではありませか。お姫さまが生まれて周囲に責められた王さまも大層喜びました。
そうしてニセモノ姫こと本の虫姫は、北の塔に住まいを移すことになったのでした。
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