愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠

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 父娘の関係が改善されたからでしょうか、なぜかエリックさまは私にもちょくちょく話しかけてくださるようになりました。

「アイビー、週末の夜会だが君も参加予定だろうか」
「はい」
「良かった。それでは、今回は僕がエスコートさせてもらおう」
「ええと、エリックさま。申し訳ないのですが、すでにお相手が決まっておりまして」

 そもそも、エリックさまの夜会のお相手はいつも恋人の皆さまですし。全員のご都合が悪いなんて、そんなことあるのでしょうか。もしかしたら、女性の日が重なってしまったとか?

「いやしかし、僕たちは夫婦なのだから」
「大丈夫です、エリックさま。先日も申し上げました通り、私たちが書類上の夫婦でしかないことは、すでに皆さまご存知のこと。今さら、おしどり夫婦を演じる必要などありません」

 どちらかといいますと、「演じる意味がない」という方が正しいような気もしますが、まあそれは置いておきましょう。

 エリックさまは、口をはくはくと開いたり閉じたり。確かにパートナーがいない状態というのは、外聞が悪いもの。とはいえ、エリックさまがお声をかければ、すぐにお相手が見つかると思うのですが。

「この間まで女性をとっかえひっかえしていたくせに、娘と後妻が仲良くなってからアイビーの良さに気がつくなんて最低よね」
「いや、違うんだ!」
「もうリサ。お父さまにそんなことを言ってはダメよ。私がエリックさまの好みに合わないのだから仕方がないもの」
「それは違う、僕は君のことが!」

 あわあわと言い訳を繰り返すエリックさまの隣で、リサがぷっくりと頬をふくらませています。

「じゃあアイビーは、わたしの婚約者がお父さまみたいにいろんな女性の間をふらふらしても我慢しろって言うの」
「リサと彼の関係は、こういう形式的なものではないでしょう。大丈夫よ。ちゃんと好きな気持ちを伝えて、相手を大切にしていたら、こじれることなんてないわ。心配しないでも大丈夫。いいえ、いっそ、その心配だという気持ちを相手に伝えてみたらいいのよ。リサはいつもしっかりしているから、そんな風に実は心配していると知ったら、彼は逆に嬉しくなるのではないかしら」

 リサの唇が、ゆっくりと弧を描きました。

「そうよね、お父さまみたいなクズじゃあるまいし、彼なら心配することないわね。でも気持ちは伝えた方がいいから、さっそく今から訪問するわ」
「あら、いきなりね」
「いきなりでも喜んでくれるもの。さあ、アイビーも行くわよ」

 ぐいぐいとこちらを引っ張るリサ。どうやら、私が行くことは決定事項のようです。

「私が行く意味は」
「だって、彼のお兄さんってばアイビーにいつも会いたがっているもの。いいじゃない、どうせ夜会でもエスコートしてもらうんだし、ゆっくりお茶でもして親睦を深めておいたら」
「リサの婚約者の兄が、アイビーのエスコート相手なのか?」
「ええそうなの。お父さまと違って、彼はアイビーのことをとっても大切にしてくれるの。婚約者もいない独身だから、問題もないし! そもそもアイビーはお父さまより、わたしたちの方が年が近いのだから、話もぴったり合うのよ。お父さまは、この間のお茶会の美人さんたちと楽しんできたら? 病気にだけは気をつけてね。ああ、やだやだ、ばっちいわね」
「こら、リサ! すみません。ですが、本当にご病気だけには注意されてくださいね」

 なぜかがっくりとうなだれるエリックさまを置いて、私たちは屋敷を後にするのでした。
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