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聖女が神話に興味を持つ理由(3)

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「それではせっかくですので、私から質問をしてもよいでしょうか」
「もちろんです」
「神託を得るためにM禍々しいPポイントを使うことは、ご家族には納得いただいているのですか」
「……いいえ」
「大事なことなのですから、自分だけで決めてはいけません。あなたが思う以上に、あなたのことを大切に思うかたがいらっしゃるはずです」

 ここでしっかり釘をさしておかなければ、のちのちキャシーまで面倒ごとに巻き込まれる。ついついキャシーの言葉にも熱が入った。

「そうでしょうか」
「ええ、そうですとも」
「ただ、わたしの血縁者たちはきっとそれほど気にはしていないと」
「血の繋がりだけが家族ではありません。実のご両親以外でも、相談すべきかた、報告すべきかたはいらっしゃるはず。MPとして寿命を捧げる覚悟があるくらいです。いっそぶつかってみてはいかがでしょう。粉々になっても、骨くらい拾って差し上げますから」
「……聖女さまはお強いですね」
「ええ、踏まれても踏まれても立ち上がる気力がないと、聖女なんてやってられませんよ。大丈夫です。ちょっとやそっとの失敗じゃ、死にはしませんから安心してください」

 優しくて繊細で儚げな聖女だなんて、物語の中だけだ。実際の聖女は危険がいっぱい。自分の命は自分で守らねばならないし、ひとの嫌な面だってたくさん目にする。それでもなお旅を続ける強い意志が必要とされる。

「まあ私の場合はその支えになってくれたのが、相棒なのですが。ダニエルさまの心の支えはどなたですか」

 ふっと、ダニエルは淡く微笑んだ。そしてどこか夢見るような雰囲気で尋ねてくる。

「あなたも、わたしのことを心配してくれますか?」

(むしろあなたの選択次第で、今後の私の未来がどうにかなっちゃいそうで、そういう意味ではめちゃくちゃ心配ですけど!)

 けれど、こちらを見るダニエルの真剣な瞳にキャシーは軽口を叩けなくなった。

(突然のシリアスモードとか、ズル過ぎる!)

 あごの下に手を添えられ、ダニエルの顔が近づく。不埒な行いはしないと宣言したはずのダニエルのその行為が、嫌とは思えないことにキャシーはひとり焦った。

(やばい、やばい、やばい)

 とその時。バッシャーンと、近くにいた竜がしっぽを湖面にたたきつけた。発生した水しぶきを盛大にかぶり、ふたりは一瞬の間のあと笑い出す。先ほどまでふたりの間にあった妙に甘い雰囲気はとっくに霧散している。そこでキャシーは気がついた。

 びしょ濡れのダニエルは、ちょっと色気がすご過ぎる。遠出をするということで、堅苦しくない格好だったことがよくなかったのだろう。

(ちょっとシャツが透けて肌が! というか、どうして女の私が恥ずかしがる必要が? え、なにこれ、ちょっとおかしくない?)

 長い銀髪をかきあげながら、困ったように微笑むその憂い顔。芸術家が見れば涙を流しながら、彫刻やら描画やらに励むことだろう。

(ハニトラだってわかっていても、心臓に悪いからマジでこういうのやめてほしい!)

 長年の聖女生活でスレまくってしまったとはいえ、本来の根っこは夢見る乙女である。口元をひくつかせながら、キャシーは悲鳴を飲み込んだ。
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