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聖女が恋バナで悶絶する理由(1)

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 神託を授かる日を明日に控え、聖女は相棒の白い竜を抱えながら、またもや寝室のベッドで転げ回っていた。

「今日はエ、エスコートされてしまった。腰に手が、手が! 思ったより筋肉質! しかもめっちゃいい匂いした!」
「わかりましたから、少しは落ち着いてください。普段わたしにセクハラしまくっているくせに、今さら何を言ってるんですか」
「加護が働かないとか想定外なんだよおおお」

 ダニエルとキャシーの交流は、建国神話の土地を訪れてからも続いている。王子さまは対象外と言ってはばからなかった聖女だが、不思議なほど自然とダニエルの誘いを受け入れていた。

 けれど彼女には、ダニエルの好意が本気なのか見極めることができなかった。自分の気持ちがどこを向いているか考えるなどもってのほかだ。ぱたりと聖女が動きを止める。

「……ハ、ハニトラ」
「まったく、今際いまわきわの言葉がそれですか。ハニトラマスターの矜持とか言い始めたら怒りますよ。そもそも加護に邪魔されなかったというのなら、それはまさしくあなたの運命の相手なのではありませんか?」

 白い竜の言葉に、聖女はうろんげな顔で首を振る。一度砂糖の海で死にかけたことにより、冷静さが戻ってきたらしい。

「えー、どうかなあ。単純に性欲がないだけかもよ」
「……性欲」
「私と会う直前に発散していて、賢者モードになってる可能性だってあるし」
「本当にあなたは一体どこからそういう話を仕入れてくるのです」
「嫁き遅れると、耳年増になるんだよ」
「そんなバカな」
「あと嫁き遅れると、精力剤の作り方も覚えたりする」
「それでマムシ酒だのなんだの言っていたんですね」
「これはダニエルさまにマムシ酒を飲ませてから、再度加護の発動チェックをするべきかな?」
「お好きにどうぞ。どうなっても知りませんよ。運命の相手なら、さぞかしすごいことに……って、片付けてください!」

 なぜかテーブルにマムシ酒を並べ始める聖女。仕込んだ時期ごとにラベルを貼って、管理しているらしい。圧巻だが、彼女はこれをひとりですべて消費するつもりなのだろうか。

「結局、どうしてあんなに『M禍々しいPポイント』にこだわるのかもわからないままだし」
「たぶんあなたが考えているよりも、ずっと単純な理由です」
「そうかな? ところで、マムシ酒飲む?」
「飲みません!」

 ずらりとテーブルに並べられたマムシ酒は、再び聖女特典の異次元収納内に放り込まれた。
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