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翌日、大慌てで城に向かった私たちを待ち受けていたものは、にっこにこの王太子さまと笑いをこらえきれない例の少女でした。
「で、これはどういうことでしょうか」
仔猫と王太子さまに抱きつかれ、私はため息をつきました。これはあまりにも予想外過ぎます。それを解説してくれたのは、やはり王太子さまが連れていた少女――実は宮廷魔導士――でした。「もふもふか赤ちゃんになりたい!」と突然叫び、王太子さまの魔力が暴走して近くにいたぼろぼろの仔猫と入れ代わってしまったのだそうです。なんだそりゃ。
「うーん、困っちゃいましたね! でも安心してください。どっちも、マーシャさまが大好きってことで一致してますので!」
「あの、私が聞きたいことはそういうことではないのですが……」
「お嬢さま、入れ替わりの引き金は、お嬢さまの帰り際の一言だったのでは……?」
「……そんなことって、あるのかしら?」
よろめく私を尻目に、少女の解説は続きます。
「たぶんなんですけれど、仔猫と王太子さまって入れ替わっただけでなく、今も気持ちとか感覚がどこかで繋がっているんだと思うんです。だから、仔猫を保護したマーシャさまは、王太子さまにとっても安心できる相手なんですよね。中身が入れ替わったままですから、絵面が極端にヤバいんですが、はたから見ると拗らせ王子がようやく好きなひとにデレデレ甘えるようになったのかと、みんな微笑ましく見守っていますし……」
「完全にバカ王太子じゃないですか……」
「でもまあ、確かに能力は大したことはありませんが、そういうおバカなところも含めて、みんなこのひとのこと、応援したくなっちゃうんですよね。ひとたらしって言うんですか」
「そうですね、ひとに愛される才能には恵まれているのかもしれませんね」
ごろごろと喉を鳴らす仔猫とごろごろと口で言っている王太子さま。どうしたものでしょう。
「それで、王太子さまと仔猫はどうすれば元に戻るのでしょうか」
「もともと王太子さまが、『もふもふか赤ちゃんになりたい!』……ようはマーシャさまに甘えたいと願ったのが発端なので、その気持ちが満たされたならすぐに戻るはずなんですが。今のところ猫の姿が心地よすぎるみたいですね。このままだと魂がそれぞれの体に固定しちゃうので、早めにどうにかしたいんですけれどねえ」
私に好きになってほしい……ですか。足と腰にまとわりつく小さなもふもふと大きな美形を眺めながら、ため息をひとつつきました。
「本当に殿下というのは、おバカさんなんですから。私はもうとっくの昔から、おバカなあなたのことを好きでしたよ」
仔猫になった王太子さまの頭を撫でていると、後ろから王太子さまになった仔猫にぎゅうぎゅうと抱きつかれました。あら王太子さま、人間らしい手足の動かし方が上手になりましたね。
「マーシャ、本当か? 本当にわたしのことを好いていてくれるのか?」
「で、これはどういうことでしょうか」
仔猫と王太子さまに抱きつかれ、私はため息をつきました。これはあまりにも予想外過ぎます。それを解説してくれたのは、やはり王太子さまが連れていた少女――実は宮廷魔導士――でした。「もふもふか赤ちゃんになりたい!」と突然叫び、王太子さまの魔力が暴走して近くにいたぼろぼろの仔猫と入れ代わってしまったのだそうです。なんだそりゃ。
「うーん、困っちゃいましたね! でも安心してください。どっちも、マーシャさまが大好きってことで一致してますので!」
「あの、私が聞きたいことはそういうことではないのですが……」
「お嬢さま、入れ替わりの引き金は、お嬢さまの帰り際の一言だったのでは……?」
「……そんなことって、あるのかしら?」
よろめく私を尻目に、少女の解説は続きます。
「たぶんなんですけれど、仔猫と王太子さまって入れ替わっただけでなく、今も気持ちとか感覚がどこかで繋がっているんだと思うんです。だから、仔猫を保護したマーシャさまは、王太子さまにとっても安心できる相手なんですよね。中身が入れ替わったままですから、絵面が極端にヤバいんですが、はたから見ると拗らせ王子がようやく好きなひとにデレデレ甘えるようになったのかと、みんな微笑ましく見守っていますし……」
「完全にバカ王太子じゃないですか……」
「でもまあ、確かに能力は大したことはありませんが、そういうおバカなところも含めて、みんなこのひとのこと、応援したくなっちゃうんですよね。ひとたらしって言うんですか」
「そうですね、ひとに愛される才能には恵まれているのかもしれませんね」
ごろごろと喉を鳴らす仔猫とごろごろと口で言っている王太子さま。どうしたものでしょう。
「それで、王太子さまと仔猫はどうすれば元に戻るのでしょうか」
「もともと王太子さまが、『もふもふか赤ちゃんになりたい!』……ようはマーシャさまに甘えたいと願ったのが発端なので、その気持ちが満たされたならすぐに戻るはずなんですが。今のところ猫の姿が心地よすぎるみたいですね。このままだと魂がそれぞれの体に固定しちゃうので、早めにどうにかしたいんですけれどねえ」
私に好きになってほしい……ですか。足と腰にまとわりつく小さなもふもふと大きな美形を眺めながら、ため息をひとつつきました。
「本当に殿下というのは、おバカさんなんですから。私はもうとっくの昔から、おバカなあなたのことを好きでしたよ」
仔猫になった王太子さまの頭を撫でていると、後ろから王太子さまになった仔猫にぎゅうぎゅうと抱きつかれました。あら王太子さま、人間らしい手足の動かし方が上手になりましたね。
「マーシャ、本当か? 本当にわたしのことを好いていてくれるのか?」
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