拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠

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 あらまあ、王太子さま仔猫ではありませんね? 足元の仔猫と言えば、仔猫王太子さまよりもアグレッシブに私の肩までよじ登ってきました。どちらも自分の体に戻れたようです。

「あら、どうして戻ったのかしら」
「どうせ王太子さまが、お嬢さまと直接お話をしたいと思ったからに決まっていますよ。王太子さまは、基本的にお嬢さま命ですから。ああいやらしい」
「言葉が過ぎるわ。まあ確かに殿下はおバカさんではあるけれども」
「マーシャ、わたしが悪かった。どうか、嫌いにならないでくれ。せっかく好いてくれているとわかったんだ。このまま好きでいてくれ!」

 王太子さまの姿に戻った王太子さまが、私の足にすがりつきながらわあわあ叫んでいます。まったく、ここまで追い込まれないと自分の気持ちをはっきり言えないのですから、本当に困った方ね。

「そもそも嫌いならば一緒に仕事はしませんし、一族ごと隣国に移住してでも、婚約を解消しております」
「マーシャ、あの婚約破棄は嘘なんだ」
「最初からそれくらいわかっています」
「どうか許してくれ!!!」
「許しません」

 顔を青ざめさせた王太子さまが、よろよろと床に倒れふしました。ちょっとばかり打たれ弱すぎませんか?

「うわーん」
「だって許したら、あなたってばおバカさんだからすぐに同じことを繰り返すでしょう。一生許しませんから、生涯をかけて償ってください」

 私の言葉に涙ぐみ、考え込んだあと、ぱあっと顔を輝かせました。まったく忙しいお方です。

「そ、それって、一生隣にいてくれるってことか?」
「……いちいち、聞かないでいただけますか。まったく、本当におバカさんなんですから」
「マーシャ!!!」

 超がつく美形なのに、涙と鼻水ですっかりどろどろの王太子さま。黙っていればとんでもなく美しいのに、やることなすことおっちょこちょいで、いたずらばかり。しょっちゅうポカもやらかすけれど、実は私のことが大好きなあなたのことを、私だって大切に思っているんですよ。
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