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魔術師ダミアンの事情(4)

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「ところでダミアンさま、今日はえらく不機嫌じゃないですか。どうしたんです」
「リリスがぎっくり腰になった」
「へええ、魔女さまが魔女の一撃を食らうぎっくり腰になるとか面白いですね」

 リリス自身は否定しているが、彼女には「魔女」としての素養があった。そのため、御用聞きもとい使い魔の男は、リリスを「魔女さま」と呼ぶ。まあ、うっかり最初に「リリスさま」と呼び掛けたときに、ダミアンから逆さ吊りにされたせいかもしれないが。

 くすりと笑った御用聞きの顔が見る見る青ざめていく。真顔のダミアンによって、御用聞きがなにもない空間に宙吊りになっていた。さらに変化の術が解けたのだろう、もふっとしたカラスが羽をばたつかせている。

「いつからそんなに偉くなった。お前がリリスを笑うとは」

 御用聞きの男が家を訪ねてくるまで、散々リリスをからかった人間とは思えない発言をするダミアン。自分がリリスにちょっかいを出すのはいいが、他者がリリスをいじるのは許さない。完全にワガママである。

「カラスは雑食だから肉は食事に向かないが、その羽はまあ多少使いどころもあるだろう。俺がじきじきにむしってやる。光栄に思うがいい」
「す、すみませんっ。ほら、ダミアンさま。聖女さまも『降ろしてあげなさい』とおっしゃってくださっていますし」
「つくづく思うが、聖女の声が俺に届かないようになっていて正解だったな」

 しょんぼりとなった御用聞きは、ダミアン特製のエリクサーに必要な希少な薬草を提供することで、ダミアンの怒りを解くことに成功した。

「ああ、また聖女さまに叱られます。これ、人間界にはあんまり生えていないんですよ。それをダミアンさまときたら、ばかすか使ってしまって!」
「つまりそれだけ、お前は俺の地雷を踏んでいるということだな」
「もういやです、この仕事! 転職したい」

 えもいわれぬ甘い香りを放つ花をぞんざいに受け取りながら、ダミアンはそれはそれは美しい微笑みを浮かべてみせた。
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