[連載版] 龍の望み、翡翠の夢

石河 翠

文字の大きさ
6 / 11

6.絶望

しおりを挟む
 それは突然の出来事だった。

 新年を間近に控え、誰もが浮き足立った冬のある日、王の執務室をいかめしい顔つきをした数人の男たちが訪れた。国の法を取り締まる官吏たちである。男たちの顔はどこか土気色をしていて、男たちこそが罪を突きつけられた罪人つみびとの様に沈痛な面持ちをしていた。そのまま不躾ぶしつけに王に告げられた罪状は、違法薬物の栽培、製造、流通、販売に加えて、人身売買、国家機密の流出等、錚々そうそうたるものだった。どれもこれも、女が男に命じて探らせていたものばかりだ。

 密輸という項目がないことが、妙に女はおかしかった。霧が多く、日照時間の少ないこの西国ではあの植物は育たぬのだ。それにもかかわらず、この言い草は何処の国の入れ知恵か。そもそも王である自分の名の下に動くはずの官吏たちが、誰ぞ大いなる力によって動かされていることもまたしゃくにさわる。誰か……それはつまるところ女を庇護していたはずの叔父なのであるが。

 精神に影響するあの特殊な植物。気分を高揚させる成分を含み、たちの悪いことに依存性が高い。一度二度と興味本意で吸ううちに、あっという間に深みにはまってしまう。幻覚幻聴の末に精神を病み、廃人になることも多いと聞く。事実、数代前の世では、これが原因で東国で大きないくさが起きたのだ。それ故、西国とてこれには目を光らせてきた。残念ながら、その目を掻い潜って既に蔓延してしまっていたのであるが。

 これの生育に適した南国は、最近日照り続きだという。国土の多くに砂漠を抱えるかの国からすれば、豊かな清流に恵まれたこの肥沃な大地は、喉から手が出るほどに欲しい代物であるに違いない。はたまた雪に閉ざされた、遠い北国が仕掛けてきたのか。あちらの国は豊かな海に面しているとはいえ、その海は冬になれば硬い氷に覆われてしまう。足を奪われて身動きが取れぬ故、不凍港の入手は建国以来の悲願であったはず。自由に生きる草原の民とて、定住の場所を欲したのかもしれぬ。この大陸の何処にももはや空いている土地など無いのだ、欲すれば他者から奪うのみ。

 あれこれ考えながらも、女は東国を疑うことを良しとしなかった。あの国は一度、薬のせいで大きな痛手を負っている。東国では一度でも手を出せば、即刻縛り首だと男は眉をしかめていた。禁忌に触れてまで、他国に戦を仕掛けるような愚かな真似はしないだろうと、女は甘い考えに酔った。そのような因縁があればこそ疑わしいのが常である。だからこれは女の願望なのだ。ただそうであって欲しい、それだけである。好いた男の故郷が、自分を陥れようとしているのではないとただ信じていたかった。

 そして女はうっすらと笑う。この場には、あの東国人の男がいない。数日前から、緊急の所用があると城を飛び出してしまっている。男が裏切ったのだと露ほども思わない自分に正直驚いていた。こんな状況にあるというのに、何故か心は穏やかなのだ。きっと男が助けに来てくれると何故か安心して待っている自分に気がつく。それがどうにも面映くて、自然と唇が笑みの形につり上がってしまうのだ。罪状を読み上げていた官吏は、怒り狂うこともなく、艶やかに笑う国王のことを薄気味悪そうに見つめている。居心地の悪い部屋を早々に後にするべく、男たちは国王を促した。

 女は椅子に深々と腰掛けたまま、官吏が高々と掲げる書状を見上げた。念のため、間近で見せてもらった書状に書かれた名は、確かに叔父のものである。けれどその筆跡は、書類ごとにすべて異なる様相を見せていた。あるものは死期が間近に迫った老人のようにか細く、ひどく震えていた。あるものは怒りをぶつけるように、荒々しく強い筆圧で殴り描きされていた。記憶の底にあった叔父の手跡は、流れるように鮮やかなものではなかったか。偽の書状ではないであろうが、それならばなおのこと恐ろしい。それは即ち叔父もまた、正常にあらずという事実を示すのだから。

 叔父の心中が見当もつかぬ。困惑する女の脳裏に、優しげな叔父の笑顔が浮かぶ。王位の譲渡をそれとなくほのめかせば、こちらが驚くほど真剣な眼差しで固辞していた叔父が、今更王位に就くことを画策するであろうか。叔父が裏切ったのか、それとも叔父もまた他国の誰かに嵌められたのか。女は意図のわからぬこの騒ぎの中で、ただ天を仰いだ。

 女は、部屋の中で今後の策を考える。そこは自室ではないが、牢でもなかった。罪人のための北の塔にこのような場所があったとは。罪を犯した貴人のために、特別にあつらえたものらしい。ご大層な反省部屋ということか。不思議なことにあの書状は嫌疑であり、罪人であるかはこれから決められるのだという。華美ではないが、清潔にしつらえられた寝具。食事とて、質素ではあるが温かく調理されたものが与えられるのだ。何より自分を取り巻く人々は、召し使いのみならず官吏までも未だに己を王としてかしずく。ただし何を聞いてもついぞ誰も言葉を返さぬのであったが。

 まるで取り上げた王の座を、直ぐにでも返してやると言わんばかりの態度が不愉快である。このような場所に己を押し込み、何を目論もくろんでいるのやら。とはいえ、腹が空いていては何も出来ぬ。このような場で、毒を入れる者もないだろうと女は、平然と食事をとる。いつか自分を迎えに来る男に、やつれた顔を見せるのだけは我慢ならなかった。

 女が軟禁されてから数日後の夜、女のもとに訃報が届いた。王国を流れる大河から男の遺体が揚がったという。男が死んだと聞いて、女は一瞬何を言われたか理解できなかった。言葉は耳に入ってきたというのに、頭の中でまるで意味を成さないのだ。呆然とする女の目の前に差し出されたのは、男が大切にしていた東国の剣だった。

 王都近くを流れる大河から引き揚げたのだという。鮮やかな布飾りは何処をどう彷徨さまよったのか、酷くくたびれ襤褸布ぼろぬのと化していた。けれど細かい意匠を施されていたや、西国の剣とは異なる形の刃は記憶にある男のものと相違なかった。女が男のものだと一目見て断言できたのは、その剣で幾度となく命を救われていたからだ。あの出会いの春の日もそうであった。

 どうしようもないほど、吐き気がする。身体が震えて、寒くて堪らないのは何故だろう。女を気遣う官吏たちの声が、奇妙に遠くに聞こえた。男はどんな時であっても、愛用の剣をその身から離さなかった。寝台にまで持ち込んでいたのだ。その剣が河底で見つかったという理由を女は理解できぬ。あの男が剣を手放してもどうしようもないような状態だったということは、つまりどういうことなのか。それを認めるわけにはいかぬのだ。
 胃の腑を締め付けられるような強烈な痛み。女は、官吏に告げる。遺体をこの目で見なければ、男が死んだのかわからぬ。剣の一つや二つで、人の生き死になど決まらぬであろう。その言葉を予想していたのか、男たちは非常に渋い顔をした。長いこと水の中に在りました故、まともな状態ではありませぬ。そう答えた男たちに食い下がれば、そのまま薄暗い廊下へと案内された。

 下へ下へと階段を下って行く。この塔は、ここまで深く出来ていたのかと驚けば顔に出ていたのであろうか。あまり気持ちの良い場所ではありませぬ故、公にはされておりませぬと官吏が答えた。少しずつ奇妙な臭いが近づいてくる。それはぞわりと背中を震わせるような、何処かおかしい臭いだ。このような酷い臭いを女は知らぬ。けれど己の本能は知っているのであろう、何かに警告を受けたかのように足が前に進まぬのだ。この扉の向こうに男はいるというのに、足は廊下に張り付いたように動かない。

 女を放ったまま、官吏は無言で扉を開けた。不意に目がしみるような異臭が解き放たれ、女は背けるようにしていた顔をあげた。赤い鬼のように膨らんだ何かが其処にはあった。髪もなく、眼窩もおちくぼみ、ぶよぶよに膨らんだ何か。東国の装束と、おおよその背丈、近くから見つかった剣で男と断定したのだと、官吏たちは説明した。

 覚悟は出来ていたつもりであった。人の死を間近で見るのは初めてではない。毒味で目の前で死んだ侍女もいれば、自分を殺すために送り込まれ返り討ちにあった間者もいる。それこそ錆びた鉄のような血の臭いは、いつからか身近なものに成り下がっていた。昔のような大きないくさはなくとも、国境沿いの小競り合いは続いている。打ち倒された兵士の亡骸を手ずから葬ったこともあるのだ。

 それにもかかわらず、気づけば女は床に這いつくばり、嘔吐えずいていた。胃が痙攣したかのように痛みが止まらない。臓物まですべて出しきったかと思うほど取り乱した女の背を、誰かが優しく撫で擦る。振り返れば、何処か懐かしさを感じさせる顔をした侍女が、女を心配そうに見ていた。

 侍女に手を引かれ部屋に戻れば、そこには叔父が待っていた。叔父と名乗られなければわからぬほど、変わり果てた姿である。あの武人らしい身体はどこへ行ってしまったのか。枯れ木のような姿で、叔父はこちらを見て笑っている。好々爺のようなその笑顔は、本来であればもっと先の未来で見ることになった姿であろう。壮年の逞しき武将は、既にその姿を老人へと変えてしまった。何故、叔父ほどの男がこんなことになったのであろうか。何故、あのような仮初めの夢を見せるものにすがったのか。女にはわからぬのだ。

 叔父は明らさまに喜色を浮かべていた。全て東国人の仕業であったのだな。あのような男をみすみすお前の側に置いてしまったとは、慚愧ざんきに耐えぬ。そう労わるように己に話しかけてきた時、女はようやく叔父の意図を悟った。叔父は、東国人の男を見捨てさえすれば、女にとがはないと言っているのだ。つまりここで女が従順に叔父に対して膝を折れば、昔の通り可愛がってくれるのであろう。叔父の言い分に、女は溜息をついた。ちらりと女は、叔父を支える侍女の顔を見た。どこか懐かしいと思ったその顔は、自分の母に少しだけ似ていた。

 女は、深く息を吸った。穏やかな顔で、叔父を見つめる。迷いはもう何処にもなかった。その姿を見て、先の王弟は手を差し出した。やっと我が姪は、本来の道を取り戻した。やはり姪の目を曇らせていたのは、あの東国人なのだ。親代わりとして、己はまだまだ引退などできぬ。そうして、女の手を握ろうとして老人は固まった。女は、ただ一言嫌疑をすべて認めるとそう答えたのだから。東国人の男は、故郷を攻め落とすと脅されて仕方なしに動いていたに過ぎぬのだと、女は澄んだ声で高らかに告げた。

 女は、自分が何のために生きるのか分からなかった。ただ国王として生きるからには、それに見合う働きをせねばならぬと思っていただけだ。男に罪を背負わせて、のうのうと生きていく気などない。何よりそれでは、男の故郷に迷惑をかけることとなる。西国やその他の国に、いくさを起こす口実を与えてはならぬのだ。

 その為に己は、正しく民の前で死なねばならぬ。東国を脅し、さらには西国を混乱に陥れた稀代の悪鬼として。女が男と出会わなければ、男は死なずに済んだのであろうか。女はそれだけが心残りだった。女はぬくぬくと守られた部屋を出て、罪人の為の牢に身を置く。そして冷たい塔の中で繰り返し考える。男の死に際がどうか苦しみの少ないものであればいいと、女はそればかりを願った。

 短い夢を見た。夢の中で、女は一羽の鳥となっていた。不思議なことに、女は己が鳥である認識すると同時に、これが己の夢であることを理解している。女は青に緑に輝く羽を広げて、いとも簡単に空を飛ぶことができるのだ。軽々と西国に横たわる大河を超えてゆく。国境の森、大草原、延々と続く灼熱の砂漠。そして見えるのは、遠い大陸の果てにあるという国。絵巻物でしか見たことがないというのに、ここが男の故郷なのだと不思議なほど女は合点がいった。女はそこで、自分の隣の影に気づく。自分を守るように、抱きかかえるように共に飛んでいるのは金色の龍。ああ、ずっとお前の国に行きたいと願っていたのだ。女は好いた男とともに、乾いた風の駆け巡る東国に降り立った。

 目が覚めれば、そこは冷たい床の上。自ら王位を捨てた女は、その日初めて涙を流した。こうやって泣いたのはいつぶりか。母が死んだ時も、父が死んだときですらここまで泣きはしなかった。ただひたすら毅然に、前を向いて……、そう念じて生きてきた女は、だから涙の止め方を知らなかった。だがどうせ明日には、断頭台の上なのだ。まぶたが腫れていようが、もはや些細なことではないか。

 格子の向こうにある、ぽっかりと丸い月を見上げてみる。己の運命を狂わせた憎き月。今その月は、幻月げんげつを見せてはいないか。ただ一言、愛していると自分を偽ることをやめて声に出す。そのまま愛しい男の名をぽつりと呟いてみれば、目の前に輝く金の星が降ってきた。それは三日月に叶わぬ恋の願掛けをした、あの日と変わらぬ男の姿をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...