残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠

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 部屋の中には、紅茶の香りがあふれている。優しく甘い香りに包まれていると、不安感に駆られていたのがうそのように心が落ち着いた。

「あなたも年頃になったことだし、そろそろ話をしたいと思っていたの」
「話、ですか?」
「わたしたちの結婚についてね」

 おばあさまの話を補足したのは、お母さまだ。この時間は普段なら執務室でお仕事をしているはずなのだが、わざわざ足を運んでくださったらしい。

「聞きたいことがあるのでしょう?」
「何でも聞いてくれて構わないよ」

 ふたりの言葉に、私は今まで聞くに聞けなかった話をすることにした。

「おじいさまがおばあさまに、『お前を愛することはない』と言ったというのは本当ですか?」
「ええ、本当よ」
「おばあさまは、おじいさまの言葉に傷つかなかったのですか?」
「最初は驚きましたよ。だって、婚約中からわたくし一筋だったあのひとが、急に突拍子もないことを言い始めたのだもの」
「そうですよね。初夜の際に、『お前を愛することはない』なんて言葉を吐くなんて一体何を考えているのか」
「そうなのよ。よだれをだらだら垂らした大型犬が、今すぐにでも目の前の骨付き肉にかぶりつきたいのに、食べたらダメだと命令されているみたいな情けない顔をして震えているのよ。もう、わたくし、おかしくてたまらなくて」
「は?」

 おかしい。私は一体、何を聞かされているのだろうか。屑男のおじいさまが、バ可愛いだと?

「すみません、意味がわかりません」
「面白すぎるから、初夜用の夜着が映える体勢で彼の話を聞いてやったわ」

 ちなみに私のおばあさまは、とっても美人でグラマラスな女性だったらしい。初夜用の、おそらくは透け透けいやんな下着で、悩まし気に胸の谷間やおみ足を強調しながら、おじいさまの屑発言を聞いていたと。どういう状況だ?

「それで、いやらしい体勢で話を聞くわたくしと、たどたどしく演劇みたいな台詞を繰り出す夫とで、その後もやりとりが進んでいったのだけれど」
「けれど?」
「最終的にあのひとったら、鼻血を出し始めちゃって! 麗しの貴公子さまが鼻血よ、鼻血。せっかくだから最大限に破廉恥な格好をしてあげたら、『わかったなら、さっさと服を着て休め』と言い残して、前かがみで走っていったの! あの状態でやせ我慢とか、もう面白いひとでしょう? わたくし、夫のことが大好きになってしまったの。ここはわたくしの屋敷だし、わたくしが当主。最悪、子種だけもらえたらよかったから、愛人を囲おうが、身体だけ使われようが別にちっとも構わなかったのに」

 これが社交界きってのおしどり夫婦と呼ばれる女性の話だろうか。あけすけに夜の話をしながら、涙をこぼして笑い転げるおばあさまの姿に私はただひたすら混乱していた。完全に頭の中は恐慌状態だ。

「では、離れは使われなかったと?」
「そもそもあのひとは、わたくしに夢中なのよ? それに今、わたくしたちが使っているわ。せっかくあるのだし、使わなければもったいないもの」
「おばあさま……。なんだか、急におじいさまがお気の毒に思えてきました」
「あら、酷いことを言っているのはあのひとのほうよ」
「えええ? そうでしょうか……?」

 おじいさまに虐げられていたはずのおばあさまが、むしろおじいさまを苛めているような。
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