残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠

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「なーにが、『僕ひとりじゃ、仕事が終わりそうにないのお。お願い、アデル手伝ってえ』だよ」
「僕、そんなに語尾を伸ばした覚えはないけど? そもそも、あの無能が無駄に仕事を溜め込んでいたのは事実だから、わりかし厳しい量だったよ」
「可愛い顔をして、言っていることがえげつない」
「今さらでしょ?」

 僕は紅茶を飲みながら、肩をすくめてみせた。アデルの御父上が青筋を立てて騒いでいる。本当に賑やかなひとだ。

「どうしてアデルは、甘えん坊どころか腹黒なお前に気づかないんだ。うううう、可愛いアデルがこんな男の毒牙に!」
「僕みたいに無邪気な人間は、そうそういないっていうのに」
「お前の無邪気さは残酷さと紙一重で怖いんだよ。アデルを守るために、外に出さないで囲うっていう解決方法をとるのは発想が既に病んでいる」

 ずいぶん言いたい放題だ。そんな僕らの隣で、アデルの祖父君は笑顔で手土産のお菓子をつまんでいる。アデルも笑顔で食べてくれているだろうか。僕は、アデルの笑顔が見たかったのになあ。

「僕のそばにいてくれたら安全だからね。わざわざ、いろんなひとと接触させて厄介事に巻き込まれる可能性を高める必要はないよ。無能兄貴から奪い取った可愛い婚約者なんだ、絶対に誰にも傷つけさせない」
「殿下が次期国王でよろしいでしょうに」
「ええ、やだよお。国王になんてなったら、アデルを人前に連れて行かなきゃいけなくなるもん。僕のアデルに横恋慕するひとがこれ以上増えたら、毎日戦争しなきゃいけなくなるし。国を潰すのは簡単だけど、その後の処理が死ぬほど面倒くさいんだよ」
「ああ、いやだいやだ。できるけどやらない有能ぶりを見せつけてくれなくてもいいんだってば」
「邪魔になったら老若男女問わず切り捨てているひとには言われたくないな」
「切り捨てはしているけど、斬り捨ててはいないから。ちゃんとそれぞれ、本人たちの資質を伸ばせるところに連れていくだけだし」
「物は言いようですな。よきかな、よきかな」

 アデルが女性陣と休憩をしている間、僕はアデルの御父上たちと話をしていた。話題はもちろん、進捗確認だ。

「はあ、隣国の王女はシロだ。しつこくアデルに話しかけているから、『ヒロインもどき』かと思ったら、まさかのアデルを義姉にしたいから、僕とアデルの仲を引き裂こうとしていただけだったし。……いや、隣国の王子が『ヒーローもどき』の可能性は高いわけだし、念のため消しても問題ないか?」
「念のための処分では、問題はあるに決まっているだろう。消すなら、確証をとってくれ」
「ちっ」
「どさくさに紛れて、危ないことを考えてくれるなよ」

 この国には、呪いがかかっている。もうずいぶん昔のことだが、異界から現れた「ヒロイン」とやらがこの国を引っ掻き回してくれたらしい。その女は、我が国のとある令嬢に「悪役令嬢」という呼び名をつけ、すべての理不尽を煮詰めたかのような辛苦を彼女に与え続けた。

 どうにかして「ヒロイン」を退治したものの、その化け物は死に際に世界に呪詛をまき散らしていった。そのせいだろう、この国には定期的に「ヒロインもどき」と呼ばれる化け物が現れるようになったのだ。
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