残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠

文字の大きさ
7 / 7

(7)

「ヒロインもどき」は、かつて「悪役令嬢」と呼ばれた令嬢をいまだに憎んでいるらしい。彼女の子孫たちは、「ヒロインもどき」が現れるたびに謎の強制力によって周囲からいわれのない誹謗中傷を受けることになる。その呪いが解けるのは、自身の婚約者や恋人、夫が「ヒロインもどき」と添い遂げたときだけ。

 その上、この呪いについては、呪いを解くことができる運命の相手以外には認識できないとされている。呪いが解けたわけでもないのに、アデルの母君が大体のところを察しているのは特例らしい。

 だが自分に都合のいい妄想を吐き続ける「ヒロインもどき」という化け物を愛せるはずがないのだ。だからこそ、僕たちは考えた。どこまでなら、この呪いを欺けるのかを。

 アデルのおじいさまは考えた。形だけでも「ヒロインもどき」を正妻にするのはどうだろう。入り婿という立場にありながら、彼は屋敷の庭に美しい離れを作った。そこはまるで最愛のひとのための愛の巣。けれど真実は、堅牢な檻だ。

 化け物が外に逃げ出さないように、大神官を招いて作り上げた。アデルのおじいさまの代に現れた「ヒロインもどき」は、アデルのおじいさまに誘われるがまま檻に入り、閉じ込められた。そして、窓の向こうで仲睦まじく暮らすおじいさまとおばあさまの様子に憤りつつ、やがて黒いもやになって消え失せてしまったのだ。

 黒いもやは、「ヒロイン」が死んだときに砕けた魂の欠片だと言われている。少しずつもやの量を減らしながら、次の代にも「ヒロインもどき」は発生するのだ。そのため、アデルの父君はいまだに女癖の悪いふりをしながら「ヒロインもどき」を探していた。

 万が一「ヒロインもどき」を見つけた時には、「ヒロインもどき」ごと「浮気症の最低男」として舞台から退場できるように。「悪役令嬢」という役割が清く正しい立ち位置にいられるように。そして真実を話した上で、再び愛してもらえるように努力しているつもりなのだ。残念ながら現状既に、年頃の娘であるアデルに毛嫌いされてしまっているが。

「はあ、早く『ヒロインもどき』を見つけて、普通に奥さんといちゃいちゃしたいいいいい」
「僕とアデルの幸せのことを考えると、早く見つけてもらったほうがいいのか、もうしばらく手間取ってもらったほうがいいのか悩ましいかな」
「俺の代の『ヒロインもどき』が出現しなければ、自分のとこには『ヒロインもどき』が出現しないからって畜生! 愛しい妻を守るために悪評が立つのはなんら問題ないが、娘に軽蔑されることは辛い。いつか真実を話して、幼かった頃のように『お父さま、大好き』って笑いかけてもらいたいいいいいい」
「うるさい」
「孫娘の未来の旦那さまは、何とも頼もしいですな」

 大切な相手を悪役令嬢呼ばわりさせないためなら、「ド屑」と呼ばれようが「情けない」と嘲笑われようが、血の繋がった家族に「魔王」と恐れられようが構いはしない。僕が守りたいのは、アデルだけなんだから。

「ああ、そろそろアデルが部屋に戻るようです。僕も失礼します」

 僕は大好きなアデルが笑顔で暮らせる世界を作るためなら、なんだってやってみせる。いつか可愛くて守ってあげたい年下の王子さまではなく、年下だけれど頼りがいのある真の婚約者になるために、頑張らなくっちゃね。
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

kokekokko
2024.05.13 kokekokko

一気読みしましたが楽しかったです!ヒロインもどきのためにガンバる男性陣。それを踏まえて幸せな女性陣。祖母も発想凄いし。もっと読みたかったです。

解除

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~

こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。 ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。 もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて―― 「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」 ――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。 ※小説家になろうにも投稿しています

王太子殿下が、「国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたい」などと寝言をおっしゃるものですから。

石河 翠
恋愛
主人公のアレクは、ある日乳兄弟である王太子に頼みごとをされる。なんと、国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたいというのだ。 婚約者がいない王太子による、身分の垣根を越えた婚活パーティー。あまりにも無駄の多い夜会であること、何より「可愛い女の子のドレス姿が見たい」という下心満載の王太子にドン引きしつつも、王太子の本音に気がつき密かに心を痛める。 とはいえ王太子の望みを叶えるべく奔走することに。しかし舞踏会当日、令嬢の相手をしていたアレクは、怒れる王太子に突然からまれて……。 転生後の人生を気ままに楽しむヒロインと、ヒロインにちっとも好意が伝わらないポンコツ王子の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、チョコラテさまの作品(写真のID:4099122)をお借りしております。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。