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聖女ヒラリーは、大神官により見出された聖女である。出自不明の彼女のことを、大神官は「創世神により遣わされたまごうことなき聖なる乙女」と紹介したが、たいていの人間はそれを眉唾だと聞き流した。それどころか、彼女のことを大神官の娘なのではないかと勘繰る輩が続出する始末。
神殿は、神官も聖女も婚姻が許されていない。神に仕える存在である以上、生涯を独り身で通すこととなる。それゆえ、大神官が聖女のひとりを孕ませ、内密に産ませた子どもなのだと邪推された。そんな噂のせいでヒラリーの暮らしは、穏やかとは言いづらいものだった。それでも彼女は下を向くことなく、懸命に聖女としての役割を果たし続けてきたのだ。
身分の貴賎を問わず平等に接し、癒しの力は超一流。何より彼女を有名にしたのはその美貌である。あまりの美しさに月は恥じらい、花は閉じ、空を飛ぶ鳥さえ落ちてしまうと言われるほど。そんな彼女に、求心力を失いつつあった王族が目をつけないはずがなかった。
聖王国はこの世界の中心。神殿が各国にあることから、政治的にも無視できない力を持っていた。
しかし近年は、その影響力にも陰りが見え始めている。王家はその流れに抗うべく、王子や王女たちを聖女や神官の血筋と添い遂げさせたが、なかなか神の声を聞ける者、神の加護を持つ者は生まれてこなかった。
このままでは、聖王国の威信は保てても王族の重要性は低くなってしまうのではないか。それはここしばらくずっと危惧されていたこと。
その上最近では、先代の聖女の実家である公爵家の令嬢と婚約を結んでいた王太子が、勝手に婚約を破棄してしまい、下町で出会った平民の出であるクレマンスと結婚する始末。王家は安くはない慰謝料を公爵家に払い、クレマンスにささやかながら神力があったことを理由に聖女候補を妻にしたのだと喧伝した。だが、実際のところは多くの人々が真実を推察できるような有様だったのである。
新たな聖女としてヒラリーが王宮に顔を出すようになってから、王太子の関心は娶ったばかりの新妻ではなく、ヒラリーに移ってしまったようだった。人目もはばからずに口説いたものの、聖女であることを理由に逃げ続けるヒラリーに業を煮やしたらしい。今回半ば強引に王宮に呼び出されたあげく、突きつけられたのは、誰もが顔をしかめる何とも傲慢な要求だった。
(まさか、王太子殿下がここまでひとでなしであったなんて……)
聖王国の王族は神殿内の人事に口を出すことができるが、これほどまでの暴挙に及ぶとは神殿側も想定していなかった。王太子の暴走は、大神官の隙をついての出来事だったのである。
神殿は、神官も聖女も婚姻が許されていない。神に仕える存在である以上、生涯を独り身で通すこととなる。それゆえ、大神官が聖女のひとりを孕ませ、内密に産ませた子どもなのだと邪推された。そんな噂のせいでヒラリーの暮らしは、穏やかとは言いづらいものだった。それでも彼女は下を向くことなく、懸命に聖女としての役割を果たし続けてきたのだ。
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