3 / 6
(3)
しおりを挟む
「クレマンスさまは、それでよろしいのですか」
「……私は殿下に従うまでです。私の望みは、これまでもこれからもずっと殿下とともにあることですから」
ヒラリーの問いかけに、クレマンスは強い眼差しでうなずいた。
クレマンスの返答に周囲がどよめく。結婚後三年経っても後継ぎができない場合に限り、ようやく認められるはずの側室。それを新婚早々、夫が新しい女を迎えようとしているのに、笑顔で受け入れる女がどこにいるというのか。
婚約者であった公爵令嬢を追い出し、ようやっと手に入れた妻の座なのだ。しかも聖女であるヒラリーが王族の子を産めば、後ろ盾のないクレマンスの子どもよりもよほど歓迎されるに違いない。
まさか、身分の差を超えた運命の恋とやらはやはり幻想で、下賤の娘が金と地位に目が眩んだ結果だったというのだろうか。豊かな生活が保障されるのであれば、夫の愛など必要ないとでも? そこかしこから、下衆の勘繰りが溢れ出す。
(……クレマンスさま、そういうことでしたのね)
ここから先の未来は、天国とは程遠い場所になる。それにもかかわらず平然と構えるクレマンスに、ヒラリーは逆に納得した。彼女は最初から覚悟を決めているらしい。
「そう怖い顔をするな。一夫一婦制を定めたのは、創世神が不器用だったからだろう。あるいは、創世神の恋人が狭量だったのかもしれないな。まあ、俺はちゃんとお前もクレマンスのことも平等に可愛がってやるさ」
(あなたが創世神さまを語るなんて!)
顔を引きつらせたヒラリーを前に、王太子は待ちかねたように自身の唇を舐めた。
(もうおしまいですわ。わたくしの頑張りは無に帰りました)
王太子が言い寄った場所が神殿であれば、護衛の神殿騎士たちが駆けつけただろう。しかしここは王宮。神殿騎士たちの出入りは制限され、なおかつ手練れの近衛兵で固められている。
焦るヒラリーの頬に、王太子が手を伸ばしたその時。
「っだああああああ」
静電気でも発生したのか、突然王太子が床の上でのたうち回り始めた。
「お前、一体俺に何をした?」
「わたくしは、何も」
「嘘をつけ。見ろ、俺の手が赤くただれているじゃないか。まさかお前、聖女というのは嘘で実は魔女なのではないだろうな。おい、お前たち、この女を捕まえて牢に入れろ。裸にして、隅々まで検分してやれ!」
(なんと見苦しい)
ヒラリーが顔を歪めるのとほぼ同時に、彼女を守るように淡い光が彼女を覆った。
「ヒラリー、賭けは僕の勝ちということでいいかな。それじゃあ、こんなゴミ溜めからおさらばして天に帰ろうか」
ヒラリーと王太子の間には、息を呑むほどに美しい男がひとり佇んでいた。
「……私は殿下に従うまでです。私の望みは、これまでもこれからもずっと殿下とともにあることですから」
ヒラリーの問いかけに、クレマンスは強い眼差しでうなずいた。
クレマンスの返答に周囲がどよめく。結婚後三年経っても後継ぎができない場合に限り、ようやく認められるはずの側室。それを新婚早々、夫が新しい女を迎えようとしているのに、笑顔で受け入れる女がどこにいるというのか。
婚約者であった公爵令嬢を追い出し、ようやっと手に入れた妻の座なのだ。しかも聖女であるヒラリーが王族の子を産めば、後ろ盾のないクレマンスの子どもよりもよほど歓迎されるに違いない。
まさか、身分の差を超えた運命の恋とやらはやはり幻想で、下賤の娘が金と地位に目が眩んだ結果だったというのだろうか。豊かな生活が保障されるのであれば、夫の愛など必要ないとでも? そこかしこから、下衆の勘繰りが溢れ出す。
(……クレマンスさま、そういうことでしたのね)
ここから先の未来は、天国とは程遠い場所になる。それにもかかわらず平然と構えるクレマンスに、ヒラリーは逆に納得した。彼女は最初から覚悟を決めているらしい。
「そう怖い顔をするな。一夫一婦制を定めたのは、創世神が不器用だったからだろう。あるいは、創世神の恋人が狭量だったのかもしれないな。まあ、俺はちゃんとお前もクレマンスのことも平等に可愛がってやるさ」
(あなたが創世神さまを語るなんて!)
顔を引きつらせたヒラリーを前に、王太子は待ちかねたように自身の唇を舐めた。
(もうおしまいですわ。わたくしの頑張りは無に帰りました)
王太子が言い寄った場所が神殿であれば、護衛の神殿騎士たちが駆けつけただろう。しかしここは王宮。神殿騎士たちの出入りは制限され、なおかつ手練れの近衛兵で固められている。
焦るヒラリーの頬に、王太子が手を伸ばしたその時。
「っだああああああ」
静電気でも発生したのか、突然王太子が床の上でのたうち回り始めた。
「お前、一体俺に何をした?」
「わたくしは、何も」
「嘘をつけ。見ろ、俺の手が赤くただれているじゃないか。まさかお前、聖女というのは嘘で実は魔女なのではないだろうな。おい、お前たち、この女を捕まえて牢に入れろ。裸にして、隅々まで検分してやれ!」
(なんと見苦しい)
ヒラリーが顔を歪めるのとほぼ同時に、彼女を守るように淡い光が彼女を覆った。
「ヒラリー、賭けは僕の勝ちということでいいかな。それじゃあ、こんなゴミ溜めからおさらばして天に帰ろうか」
ヒラリーと王太子の間には、息を呑むほどに美しい男がひとり佇んでいた。
91
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる