「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠

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「ハリエット、ごめんなさい。わたし、あなたの好きなひとを盗っちゃったの!」
「……は?」

 涙ながらに謝罪する従姉妹のエミリーを前にして、ハリエットは間抜けな声を上げた。そんなハリエットのことを「好きなひとを盗られたショックで呆然とした」と解釈したのか、エミリーの母――ハリエットの伯母――が気遣わしげに声をかけてくる。

「ハリエット、本当にごめんなさいね。エミリーもあなたを傷つけようと思ったわけではないのよ。ただどうしても好きな気持ちが抑えられなかったみたいで。お相手もエミリーと同じ気持ちだったみたいだし、どうか許してやってちょうだいな」

 許してやってほしいと言いながら、口元には堪え切れない笑み。ハリエットの母親とエミリーの母親は、犬猿の仲。してやったりと腹の中で大笑いしているに違いないのだ。

「はあ、それは本当になんと言ったらいいのか……。ええと、どうぞお気になさらず?」
「ええ、ええ。さしものあなたも言葉に詰まって当然だわ。ああ、本当に可哀想に」

 上から目線の伯母からの慰めを受け流しつつ、ハリエットはこっそり辺りを見回した。ちらりと目に入ったのは、エミリーの隣でなんとも申し訳なさそうな顔をしながら、こちらに頭を下げる体格のよい男性。確かに見知った顔ではあるが、ハリエットの好きなひととはまったくの別人だ。

(エミリーが盗った? 私の好きなひとを? どうしてそんな話に?)

 もごもごと口ごもりながら、ハリエットの頭の中はめまぐるしく動き回る。だってハリエットは招待されたこの茶会に来る直前まで、自分の好きなひとと甘いひとときを過ごしていたのだから。
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