6 / 7
(6)
しおりを挟む
「あなたたち、わたくしのことを騙したのね!」
ハリエットにつかみかかろうとしていた伯母は、空から舞い落ちてきた花びらが肩に触れるやいなや、へなへなと座り込んでしまった。
「ご婦人、こちらには浄化や癒しの作用がありましてね。興奮した民衆が暴動を起こさないようにするための効果もあるのですよ」
その声が聞こえているのかいないのか。座り込む伯母のことを、ハリエットは伯父に託した。
「それにお怒りになるなら、まずはご自身のことを振り返られるべきです。あなたがたの身勝手が、どれだけハリエットたちを苦しめたか、ご存知ないとは言わせませんよ」
いつの間に連れてこられていたのか、ハリエットの母親もエミリーの母親同様にぐったりと座り込んでいる。
「それでも今回のやり方について何か言いたいことがあるのなら、どうぞ僕の方まで。この作戦を考えたのは僕ですから、いつでも相手になりますよ。その代わり、ハリエットの実家であることは考慮せずに徹底的に対応させていただきますが」
「それは俺も同じだ。エミリーの実家であろうとも容赦はしない」
魔術師団長と騎士団長は、それぞれの最愛のひとをその背に庇うようにして立つ。だからこそ、ハリエットとエミリーは彼らの背の後ろではなく、隣に並び立った。共に戦ってくれるひとがいるなら、もう何も怖くないから。
「何を言っているの。ハリエットは一人娘よ。家を潰すなんてそんな」
「そうよ。エミリーと結婚したのだから、婿に入るのが当然でしょう」
床に座り込み、夫に支えられながら、それでもその口は止まらない。その我の強さには感心するばかりで、ハリエットとエミリーは困ったように顔を見合わせた。
「彼女たちは家を継ぎませんよ。必要なら、養子を取るなり、もう一度子作りに励むなり頑張ってください。あなた方は余暇があるとすぐに下らないことばかりお考えになるので、これくらい窮地に追い込まれたほうが静かでいいんです」
真っ青になって震えているのはハリエットとエミリーの母親たちだけ。ふたりの隣に立つ父親たちが何も言わないところを見ると、すでに話はついているらしい。
ハリエットとエミリーにとって、母親たちはあまりにも理不尽で、父親たちは母親を野放しにする頼りない存在だった。
けれどこうやって見ると、彼らにとっては子どもの存在よりも、妻の方が大切なだけだったのかもしれなかった。巻き込まれた子どもにとっては、迷惑以外のなにものでもなかったが。
「お父さま、お母さま、どうぞお元気で」
ハリエットたちは美しく一礼すると、新しい一歩を踏み出した。
ハリエットにつかみかかろうとしていた伯母は、空から舞い落ちてきた花びらが肩に触れるやいなや、へなへなと座り込んでしまった。
「ご婦人、こちらには浄化や癒しの作用がありましてね。興奮した民衆が暴動を起こさないようにするための効果もあるのですよ」
その声が聞こえているのかいないのか。座り込む伯母のことを、ハリエットは伯父に託した。
「それにお怒りになるなら、まずはご自身のことを振り返られるべきです。あなたがたの身勝手が、どれだけハリエットたちを苦しめたか、ご存知ないとは言わせませんよ」
いつの間に連れてこられていたのか、ハリエットの母親もエミリーの母親同様にぐったりと座り込んでいる。
「それでも今回のやり方について何か言いたいことがあるのなら、どうぞ僕の方まで。この作戦を考えたのは僕ですから、いつでも相手になりますよ。その代わり、ハリエットの実家であることは考慮せずに徹底的に対応させていただきますが」
「それは俺も同じだ。エミリーの実家であろうとも容赦はしない」
魔術師団長と騎士団長は、それぞれの最愛のひとをその背に庇うようにして立つ。だからこそ、ハリエットとエミリーは彼らの背の後ろではなく、隣に並び立った。共に戦ってくれるひとがいるなら、もう何も怖くないから。
「何を言っているの。ハリエットは一人娘よ。家を潰すなんてそんな」
「そうよ。エミリーと結婚したのだから、婿に入るのが当然でしょう」
床に座り込み、夫に支えられながら、それでもその口は止まらない。その我の強さには感心するばかりで、ハリエットとエミリーは困ったように顔を見合わせた。
「彼女たちは家を継ぎませんよ。必要なら、養子を取るなり、もう一度子作りに励むなり頑張ってください。あなた方は余暇があるとすぐに下らないことばかりお考えになるので、これくらい窮地に追い込まれたほうが静かでいいんです」
真っ青になって震えているのはハリエットとエミリーの母親たちだけ。ふたりの隣に立つ父親たちが何も言わないところを見ると、すでに話はついているらしい。
ハリエットとエミリーにとって、母親たちはあまりにも理不尽で、父親たちは母親を野放しにする頼りない存在だった。
けれどこうやって見ると、彼らにとっては子どもの存在よりも、妻の方が大切なだけだったのかもしれなかった。巻き込まれた子どもにとっては、迷惑以外のなにものでもなかったが。
「お父さま、お母さま、どうぞお元気で」
ハリエットたちは美しく一礼すると、新しい一歩を踏み出した。
1,349
あなたにおすすめの小説
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」
まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10
私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。
エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。
エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら?
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。
エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。
そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。
なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる