変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!

石河 翠

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 早くこいこい婚約破棄、がっぽり慰謝料! ノリノリでヴィンセントさまからのナンパをOKしていた時代が私にもありました。カフェに図書館、植物園。噴水のある広場に、大きな池のある公園。どこにいても、どんな格好をしていても、彼は私に声をかけてきます。なんという節操なし。

 でも今さらながら私は思うのです。それってやっぱり、あんまりなのではないでしょうかと。

「どうしたんだい、運命のひと」
「運命ですか……」

 何が「美しいひと」、「可愛いひと」、「運命のひと」ですか。もうこれは彼が女性に声をかけるときの呼び声に他ならないのですね。きっと「こんにちは」、「すみません」、「やあどうも」と同程度の意味しか持ち得ないものなのでしょう。ついつい、ため息がひとつこぼれ落ちます。

「何が君を悲しくさせるのかい。君が君である限り、僕の愛は永遠に君に捧げよう。そのに誓って」
「……はあ、どうも」

 イケメンにキザなセリフを言われて、気乗りしない返事をしているなんて不逞な野郎だとお思いのあなた。今すぐ私と立場を交換いたしましょう。この状況でクサいセリフをささやかれても、正直白目になるのをこらえるので精一杯ですよ。

「疲れているときには、これだよ」
「……ありがとうございます。綺麗な赤色ですね」
「君の紅の髪には叶わないよ」

 まるで宝石のように綺麗な飴玉を口の中に放り込まれます。真っ赤な飴玉は、苺ともりんごとも異なる甘い味わいです。これ、どこの高級店舗で作られているんでしょうね。あっという間に口の中で溶けてしまうせいで、名残惜しさを感じてしまうほど。

 きっとびっくりするくらいお高いんでしょう。そんなものを、ほいほい与えてしまうなんて。美味しいものをいただいたはずなのに、ますます頭が痛くなりました。

 この間はちょうど緑色の飴をもらったんでしたっけ。その前は深い琥珀色。どちらのときも、やはり髪色にちなんだ愛の言葉をささやかれたのでした。

「世界樹の葉よりも美しいその緑の髪に愛を誓うよ」
「どんな蜂蜜よりも甘いその亜麻色の髪と永遠を紡ごう」

 本当に嘘ばっかり。その場限りの愛の言葉なんて、もらわないほうがよっぽど幸せです。

「ごめんなさい。今日はもうこの辺で失礼いたします」
「そんな、愛しいひと!」
「……そんな風に呼ばないで!」

 私の言葉にヴィンセントさまが目を丸くしているのが見えました。テキトーに遊ぶ相手なら、好みとか関係ないんですかね? 性別が女性ならなんでもよいのでしょうか? それならばなおのこと、婚約者は私でなくても良いのではありませんか。

 火の日、私は髪を赤に染めていました。
 水の日、私は髪を青に染めていました。
 風の日、私は髪を緑に染めていました。
 土の日、私は髪を茶に染めていました。

 。それがこの世界の常識です。ですから私たちは変わらぬ愛を、相手の髪色になぞらえて捧げます。

 けれど彼はそれぞれ別の髪色を持つ私に対して、「運命のひと」とささやき、愛の誓いを捧げたのです。何股するつもりなんでしょうかね。しかも、その誰にも名前を聞いておりません。

 気ままな浮気よりも、よほどタチが悪いのです。女心をもてあそぶなんて。

 普通のひととは異なる私だからこそ、髪色への愛の誓いは何より大切なものでした。それをこの方は、なんでもない顔で破ってしまったのです。

 清々しいまでに誠意がないことに呆れて、それからとてつもなく悲しくなってしまいました。

 ――僕の運命のひと。白雪よりも白く純粋なその髪に愛を誓おう――

 あんな子どもだましの嘘を、後生大事に抱えていたことに気がつくなんて。ヴィンセントさまは、私以外の女にも簡単に愛の言葉をささやくのだと知ってしまったというのに、どんな顔で隣に立てばいいのでしょう。
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