6 / 7
(6)
しおりを挟む
「すみません、先ほど魔力波動が変わったという話がありましたが、私には魔力がありませんよね?」
「ああ。普段なら君からは魔力が感じられない。それが、髪を染めている時には魔力の匂いが漂うんだ。なんとなくで君を見分けている護衛たちでは、君を見失ってしまうんだよ」
なるほど。まるで自分は的確に把握していて、決して見失わないような口ぶりです。……今まで偶然出会ったナンパって、全部最初から居場所がわかっていて声をかけられていたんでしょうか……。怖っ……ちょっと考えないようにしておきましょう。
「それでは、どうやって髪の毛の色を染めたのか、予想はつきますか」
「普段とは異なる魔力の匂いがしていたからね。人工的に作られたそれぞれの属性の魔石を口にしたのでは?」
「正解です。なるほどそれがわかっていたから、私の体内にある魔力を引き出して先ほどの暴漢退治に役立てたのですね」
ヴィンセントさまの属性は水。私が髪を染めるのに使った魔石の属性は火。私は自前の魔力がないゆえに、魔法を発現させることができませんが、よく訓練された魔道士は自身の属性魔力以外の魔法も使うことができると言います。きっと水属性と火属性を組み合わせて、見た目に派手な魔法を使ったのではないでしょうか。衝撃的な魔法を使うことで、相手側の心を折ることもできますし。
「違うけど?」
「ち、違うんですか!」
じゃあ、一体どうして私の中の魔力を引き出して使用したのでしょうか。もしかして、趣味?
「趣味で魔力の無駄遣いはしないよ」
「ですよね」
髪の毛の色を染めるために魔石を使う私が言うのもなんですが、魔石は安価なものではありません。魔力だってヴィンセントさまが規格外なだけで、普通は節約して使うものです。くだらない理由で消費してよいものではないのです。
「僕のパメラの中に、他人の魔力が入っていることが許せなくてね」
「……は?」
「さっきは、僕の魔力と君の魔力……正確に言うなら君が今日髪を染めるのに使った火の魔力を混ぜ合わせて、水蒸気爆発を起こしたんだ。ただそれだけだと髪の色が元の雪色に戻ってしまうだろう。可愛いパメラを僕以外のひとに見せたくはないからね、直前に別の天然魔石を食べさせておいてちょうどよかったよ」
「特殊体質がバレたら危ないからではなくてですか? って天然魔石?」
その先を知りたいような、知りたくないような。おずおずとヴィンセントさまを見上げました。
「パメラ、君がいつも食べているのは飴ではなく魔石だよ」
「ちょっと、待ってください。あれは私が買っている魔石とは全然味が」
「そうだね。君がいつも買っているのは人工魔石だ。適当な石に適当な使い手が余分な魔力を込めたもの。でも、どうして他人の魔力を僕の可愛いパメラの体内に入れなければならないんだい?」
高純度の天然魔石は、宝石よりも高価なもの。それを飴玉代わりにぱくぱく食べていたなんて。ヴィンセントさま、何を当然みたいなどや顔してるんですか!
「ああ。普段なら君からは魔力が感じられない。それが、髪を染めている時には魔力の匂いが漂うんだ。なんとなくで君を見分けている護衛たちでは、君を見失ってしまうんだよ」
なるほど。まるで自分は的確に把握していて、決して見失わないような口ぶりです。……今まで偶然出会ったナンパって、全部最初から居場所がわかっていて声をかけられていたんでしょうか……。怖っ……ちょっと考えないようにしておきましょう。
「それでは、どうやって髪の毛の色を染めたのか、予想はつきますか」
「普段とは異なる魔力の匂いがしていたからね。人工的に作られたそれぞれの属性の魔石を口にしたのでは?」
「正解です。なるほどそれがわかっていたから、私の体内にある魔力を引き出して先ほどの暴漢退治に役立てたのですね」
ヴィンセントさまの属性は水。私が髪を染めるのに使った魔石の属性は火。私は自前の魔力がないゆえに、魔法を発現させることができませんが、よく訓練された魔道士は自身の属性魔力以外の魔法も使うことができると言います。きっと水属性と火属性を組み合わせて、見た目に派手な魔法を使ったのではないでしょうか。衝撃的な魔法を使うことで、相手側の心を折ることもできますし。
「違うけど?」
「ち、違うんですか!」
じゃあ、一体どうして私の中の魔力を引き出して使用したのでしょうか。もしかして、趣味?
「趣味で魔力の無駄遣いはしないよ」
「ですよね」
髪の毛の色を染めるために魔石を使う私が言うのもなんですが、魔石は安価なものではありません。魔力だってヴィンセントさまが規格外なだけで、普通は節約して使うものです。くだらない理由で消費してよいものではないのです。
「僕のパメラの中に、他人の魔力が入っていることが許せなくてね」
「……は?」
「さっきは、僕の魔力と君の魔力……正確に言うなら君が今日髪を染めるのに使った火の魔力を混ぜ合わせて、水蒸気爆発を起こしたんだ。ただそれだけだと髪の色が元の雪色に戻ってしまうだろう。可愛いパメラを僕以外のひとに見せたくはないからね、直前に別の天然魔石を食べさせておいてちょうどよかったよ」
「特殊体質がバレたら危ないからではなくてですか? って天然魔石?」
その先を知りたいような、知りたくないような。おずおずとヴィンセントさまを見上げました。
「パメラ、君がいつも食べているのは飴ではなく魔石だよ」
「ちょっと、待ってください。あれは私が買っている魔石とは全然味が」
「そうだね。君がいつも買っているのは人工魔石だ。適当な石に適当な使い手が余分な魔力を込めたもの。でも、どうして他人の魔力を僕の可愛いパメラの体内に入れなければならないんだい?」
高純度の天然魔石は、宝石よりも高価なもの。それを飴玉代わりにぱくぱく食べていたなんて。ヴィンセントさま、何を当然みたいなどや顔してるんですか!
42
あなたにおすすめの小説
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
『白亜の誓いは泡沫の夢〜恋人のいる公爵様に嫁いだ令嬢の、切なくも甘い誤解の果て〜』
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢キャロルは、長年想いを寄せていた騎士爵の婚約者に、あっさり「愛する人ができた」と振られてしまう。
傷心のキャロルに救いの手を差し伸べたのは、貴族社会の頂点に立つ憧れの存在、冷徹と名高いアスベル公爵だった。
彼の熱烈な求婚を受け、夢のような結婚式を迎えるキャロル。しかし、式の直前、公爵に「公然の恋人」がいるという噂を聞き、すべてが政略結婚だと悟ってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる