変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!

石河 翠

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「すみません、先ほど魔力波動が変わったという話がありましたが、私には魔力がありませんよね?」
「ああ。普段なら君からは魔力が感じられない。それが、髪を染めている時には魔力の匂いが漂うんだ。なんとなくで君を見分けている護衛たちでは、君を見失ってしまうんだよ」

 なるほど。まるで自分は的確に把握していて、決して見失わないような口ぶりです。……今まで偶然出会ったナンパって、全部最初から居場所がわかっていて声をかけられていたんでしょうか……。怖っ……ちょっと考えないようにしておきましょう。

「それでは、どうやって髪の毛の色を染めたのか、予想はつきますか」
「普段とは異なる魔力の匂いがしていたからね。人工的に作られたそれぞれの属性の魔石を口にしたのでは?」
「正解です。なるほどそれがわかっていたから、私の体内にある魔力を引き出して先ほどの暴漢退治に役立てたのですね」

 ヴィンセントさまの属性は水。私が髪を染めるのに使った魔石の属性は火。私は自前の魔力がないゆえに、魔法を発現させることができませんが、よく訓練された魔道士は自身の属性魔力以外の魔法も使うことができると言います。きっと水属性と火属性を組み合わせて、見た目に派手な魔法を使ったのではないでしょうか。衝撃的な魔法を使うことで、相手側の心を折ることもできますし。

「違うけど?」
「ち、違うんですか!」

 じゃあ、一体どうして私の中の魔力を引き出して使用したのでしょうか。もしかして、趣味?

「趣味で魔力の無駄遣いはしないよ」
「ですよね」

 髪の毛の色を染めるために魔石を使う私が言うのもなんですが、魔石は安価なものではありません。魔力だってヴィンセントさまが規格外なだけで、普通は節約して使うものです。くだらない理由で消費してよいものではないのです。

「僕のパメラの中に、他人の魔力が入っていることが許せなくてね」
「……は?」
「さっきは、僕の魔力と君の魔力……正確に言うなら君が今日髪を染めるのに使った火の魔力を混ぜ合わせて、水蒸気爆発を起こしたんだ。ただそれだけだと髪の色が元の雪色に戻ってしまうだろう。可愛いパメラを僕以外のひとに見せたくはないからね、直前に別の天然魔石を食べさせておいてちょうどよかったよ」
「特殊体質がバレたら危ないからではなくてですか? って天然魔石?」

 その先を知りたいような、知りたくないような。おずおずとヴィンセントさまを見上げました。

「パメラ、君がいつも食べているのは飴ではなく魔石だよ」
「ちょっと、待ってください。あれは私が買っている魔石とは全然味が」
「そうだね。君がいつも買っているのは人工魔石だ。適当な石に適当な使い手が余分な魔力を込めたもの。でも、どうして他人の魔力を僕の可愛いパメラの体内に入れなければならないんだい?」

 高純度の天然魔石は、宝石よりも高価なもの。それを飴玉代わりにぱくぱく食べていたなんて。ヴィンセントさま、何を当然みたいなどや顔してるんですか!
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