強面騎士団長と押しの強い人魚姫~あなたに助けていただいた人魚です。成人したので、約束通り美味しく食べてと美少女が騎士団にやってきた~

石河 翠

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 ブイヤベース? ブイヤベースだと? 
 確かにそれは自分の好物だが、今の流れでそんな話は出ていただろうか。

「その決意をご両親に伝えて陸に来られたのだろうか」
「はい。母は『恩返しに行くのね。だったら、ついでに胃袋も掴んじゃいなさい!』と応援してくれました!」
「ブイヤベースの出汁になっては、胃袋を掴むどころの話ではないのでは? ちなみにお父上は?」
「『娘からそんな言葉は聞きたくなかった』と倒れてしまいました。やっぱり娘が出汁になっちゃうのは、辛かったのかもしれません」
「確かに我が子がスープの出汁になるのは嫌だが、おそらく一番の問題はそこではない」

 まさか年頃のご令嬢に、「性的な食べる」と「物理的な食べる」の説明をしなくてはいけないらしい。眉を寄せるハロルドを見たマルグリットは何を思ったのか、てのひらを打ち合わせ得意そうに胸をはった。

「大丈夫ですよ。人魚の肉にいわゆる『不老不死』の効果はありませんので、安心してくださいね」
「なるほど?」
「怪我が治りやすくなって、他のひとより100年くらい長生きするだけですので」
「……全然安心できないのだが」

 騎士団の男連中が期待しているような事態は起きそうになかったが、マルグリットの父の悩みを垣間見たハロルドはとてつもなく疲れてしまった。

「申し訳ないが、マルグリット嬢をブイヤベースにするつもりはない」
「もしやフィッシュチャウダーのほうがお好みでしたか?」
「どちらも好物だが、遠慮させていただこう」
「まあ、残念ですわ」
「とはいえせっかく陸に上がったのだ。こちらをしばらく楽しんでから帰るといい」
「ありがとうございます」
「はあ……」

 ひとつゆっくりと息を吐き、彼は考えることを放棄する。

「とりあえず、今日のぶんの夕食はできている。今から温め直すから一緒に食べないか?」
「まあ、よろしいのですか。私、実はお腹がぺこぺこでしたの。海の中を泳ぐのとは違って、二本足で歩くのって体力を使うのですね」

 人間としては、やはり海で泳ぐほうが疲れるような気がするな。そんなことを考えながら、騎士団長は夕食の準備にとりかかった。
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