強面騎士団長と押しの強い人魚姫~あなたに助けていただいた人魚です。成人したので、約束通り美味しく食べてと美少女が騎士団にやってきた~

石河 翠

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 もう何十回と説明してきた台詞を披露する。だが、ここまで必死に事実を伝えたいと思ったことは初めてだったことに、ハロルドは気がついていた。

「……というわけで、彼女はもともと俺の弟と相思相愛だったわけだ。だが、政治的な思惑も絡み合っていたせいで、彼らは言い出せなかったらしい。とうとう、妊娠と同時に駆け落ちしようとして、ことが露見した」
「まあ! それでどうなさったのです」
「俺が家を出た。まあ、剣の腕はそこそこ立つからな。弟たちのことだけでなく、家のこと、これからのことを考えると、それが一番いいと思ったんだ」

 もう少し早く自分に相談してくれれば、もっと穏やかに話をおさめられたかもしれない。けれどああなってしまってはどうしようもなかった。

 ぎすぎすしたあの雰囲気は、今思い出しても辛くなる。静かすぎる食卓は拷問のようでもあった。何よりハロルドは、実の弟と元婚約者の気持ちにかけらも気がつかなかったのんきな自分が恥ずかしかったのだ。

「まあ、跡取りの座を譲ったと言えば聞こえはいいが、逃げたとも言えるな」
「婚約者の方のこと、お好きだったのですか?」
「まさか。妹のようなものだったよ」
「男性は、女性関係で質問されて都合が悪いとすぐに『妹みたいなもの』とおっしゃるのです」

 ぷんぷんと腰に手を当てて怖い顔をしてみせるマルグリットに、ハロルドは慌てて弁解する。

「いや、あれに関しては誓ってその通りだ。だから、彼らには幸せになってほしい。両親にも生まれてくる孫を心置きなく可愛がってほしいんだ」
「お人好し過ぎではありませんか?」

 マルグリットのもっともなツッコミを、ハロルドはからりとした笑顔で笑い飛ばした。

「そうかもしれないな。まあそういうわけで、カッコ悪さで言えば、俺は群を抜いているだろう。だから、あなたが恥じる必要などない。むしろあなたの強さに惚れ惚れした。自分の身を守るどころか、誰かを守ることができるのだから」
「誰かではなく騎士さまですわ」
「守るどころか守られてしまって面目ないな。だが、こんな俺で良ければ、隣にいてくれないか。あなたが望む間だけでかまわない。俺はあなたと一緒に美味しいものを食べたい」

 きらりと美少女の瞳が輝いた。

「まあ、ずっとご飯を作ってくださるの?」
「たいしたものは作れないが、あなたが笑顔で食べてくれるのなら」
「もちろん。喜んで!」

 その瞬間、なぜか引き潮でもないのに波が遠くまで引いていってしまった。ハロルドは首を傾げつつ、マルグリットとともに新鮮なアサリを広い集めると、帰宅後クラムチャウダーにして彼女に振る舞ったのだった。

 ちなみに人魚たちの間では、男が意中の相手に対して自慢の手料理を用意するのだそうだ。つまりハロルドの発言は人魚的には求愛である。

 そのことをハロルドが知って悶絶するのは、もうしばらく先のこと。しばらく陸を楽しむ予定のはずのマルグリットが、ちっとも帰る気配を見せなくてふと疑問に思ったハロルドが質問をしたときである。
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