旦那さまが欲しければかかっていらっしゃい。愛人だろうが、妾だろうが全力でお相手してあげますわ。

石河 翠

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(10)夫の生活は何かと不健康らしい−1

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 私の夫の朝は遅い。もともと、低血圧気味なことに加え、夜遅くまで起きて本を読んでいるからだろう。他の魔術に比べて、灯りをともす魔術ばかり練度が高いのは、こっそり本を読むためという理由があるためらしい。

 結婚したばかりの頃の夫は、顔色がとても悪かったが、それもこれも部屋の中で本ばかり読んで太陽の光を浴びていないからだ。食事も小鳥か?と聞きたくなるくらいの量をちまっと食べるくらいなので、世が世なら、脚気まっしぐらである。

 まあ、吸血鬼ごっこはナチュラルにできると思う。ハロウィンっぽい行事もこの世界にあるので、絶対に吸血鬼コスはさせようと思っている。好き。

 さて、そういうわけで私は結婚して以来、夫の生活を健康的にするべく少しずつ改良を加えてきた。散歩に行きたくない犬のようにしょぼくれながら、けれど私に向かって反抗する力もなく、弱々しく私と共に朝の散歩と運動に勤しむ夫は、かわいそう可愛い。

『ベス、今日も散歩に行くのかい? もう少しだらだらしても許されるのではないかな?』
『まあ、旦那さま。朝から、ベッドの上でダラダラ過ごしたいなんて、積極的ですのね♡ 私、嫌ではありませんけれど、お仕事にさわりませんの?」
「!!!」

 はわわわわわと、涙目になりながら慌てて起き上がる夫は可愛い。いつまで経っても初々しいままだなんて、夫を作った神さまは天才では?

 最近では屋敷内の庭園から、近所の有名な公園まで足を伸ばしている。歩きだったり、馬車を使ったり、馬に乗ったりとバリエーションもさまざま。

 社交の練習にもなるので、一石二鳥なのだ。もちろん夫本人は、ドッグランで犬見知りを発症したわんこのようにぶるぶると震えているのだが。やはり、夫はかわいそう可愛い。


 ***


 いくら治安の良いエリアとはいえ、護衛抜きでの散歩はできない。私と夫、そして距離をおいてついてくる護衛たち。そして、夫ひとりだけが、常に顔を赤らめ、はあはあと息を切らせている。やはり夫は常に私を誘っているような気がする。なんともけしからん。

 この散歩の最中、必ず夫の親友と公園で出会う。色男なので社交シーズンともなればあちこちから引っ張りだこのはずだが、夫の顔を見ないことには1日が始まらないらしい。正直ストーカー感はいなめない。

 さて、そんな風に夫の生活習慣の改善を続けていたところ、予想外の出来事が発生した。今日は朝からまさかの大雪が降っている。なぜこの時期にこんなことになったのかというと、王宮魔導士が氷魔法を暴発させたらしいのだ。

 辺り一面真っ白に覆われる状態は美しいが、それは暖かい部屋の中から見るからこそ。サングラスもない、滑り止めのしっかりしたブーツもない状態では、外へ出かけるのは自殺行為だ。

 太陽の光を雪が反射させて、もはや目を開けているのが辛いくらいに眩しい。下手にだだっ広いひらけた土地が身近にあるせいか、天然のスキー場にいるような気分だ。これは散歩は取りやめにするしかないだろう。

 準備不足の乾布摩擦や寒中水泳が大事故を招くように、運動不足の夫には雪道の移動などまだまだ早い。

 しかも魔法で発生させた氷は、自然の氷よりも解けにくいときている。しばらくは、自宅内に引きこもるのが吉だ。

「旦那さま、残念ですがしばらくお散歩はお休みですわ」
「そ、そうなんだ。わあ、残念だなあ」

 夫は棒読みのセリフを口に出しながら、散歩嫌いの犬のように目に見えて浮かれていた。ちょっと悔しかったので、今夜の夕食は夫の苦手な緑黄色野菜をたっぷりと混ぜ込んでやろうと思う。

 ちなみに、夫に毎回会うために公園にスタンバっていた夫の親友殿は、なんと今日も公園に出かけていたらしい。馬車なども使えない状態なのに、まったくすごい根性だ。本当にそのガッツだけは褒めてやりたいと思う。

 しかも一目会いたいと、ゾンビのようにふらつきながらこの屋敷までやってくるなんて、深草少将のように凍死を希望しているのかもしれない。

 目が!
 目が!

 どこかで聞いたことのあるフレーズでもんどりうつゴkbリー卿が窓の向こうに見えたような気がしたが、私は気にせず窓を閉めた。
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