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かつてダイアナは、傲慢令嬢として有名だった。もちろんその名前は、彼女の本質を表したものではない。彼女が王女やら公爵令嬢であれば、その傲慢さは生来の気質によるものであり、自業自得だと考えるべきだったかもしれないが、ダイアナは即席の伯爵令嬢だった。
もともと正妻の子どもではなく、お手つきによって生まれたメイドの娘。ずっと田舎の祖父母とともに平民として暮らしていたところを、伯爵の都合で呼び戻された。金に困った伯爵が、政略結婚の駒にするためだ。「傲慢令嬢」という名前は、都合の悪いことを彼女になすりつけるためだけに用意された蔑称だった。
――伯爵家のご令嬢は苛烈を極めているらしい――
ダイアナが社交界にデビューしたときには、すでに黒い噂が駆け巡っていた。どれだけ言葉遣いは訓練できても、生粋の貴族令嬢でないダイアナには気の利いた会話は難しく、噂に拍車がかかる。あげ足を取られることを防ぐため、ダイアナは一切口を利かないように厳命された。
粗相をしたメイドは鞭打たれ、金遣いは荒く、伯爵家を食いつぶしていると囁かれる。使用人を虐げているのも、家を傾けるほどに金遣いが荒かったのも、実のところ父親のほうだったのだが。
その一方で男にだらしがなく、誰にでも身体を許すと評判だった。それを信じた男たちに、売女のような扱いを受けたことも一度や二度ではない。夫が別の女に手を出し子どもまで生ませていたということを許せなかった、継母の仕業であることは明白である。無理矢理身体を暴かれなかったことだけが救いだったが、そんなことはダイアナにとってなんの慰めにもならなかった。
さらには婚約者として紹介されたはずの貴族令息は、ダイアナではない可憐な少女に夢中だった。父親は政略結婚など貴族の間では普通だと考えていたようだが、婚約者は愛がないどころか、排除すべき障害としてダイアナに辛くあたる始末。
『本当に全部うまくいくかしら?』
『大丈夫だよ。君は可憐でとても優しい、素晴らしい女性だ。明日の誕生日パーティーで、僕たちの幸せを邪魔する彼女を糾弾し、ふたりで幸せな未来を掴もう』
『嬉しい!』
『すべての責任は彼女にある。婚約解消に伴う慰謝料だって払わずに済むだろうし、逆に搾り取ってやるつもりさ』
『まあ、いけないひとね』
ろくに会話もなく、手紙を交わすこともないまま、ダイアナは婚約者の恋人を虐めた犯人として、貴族令息の誕生日パーティーにて婚約破棄されることになっていたのである。
ところがその計画は、ダイアナがパーティーの直前に不慮の事故で階段から落下したことにより、ご破算となってしまった。命に別状は無かったが、記憶を失い、手足に麻痺が残るだろうと顔馴染みの教会の司祭に診断された彼女は、年若い娘という最大の価値も失ったと思われ、元いた海辺の町へと送られることになる。療養といえば聞こえはいいが、ようは厄介払いされたのだ。
王都に行っている間に祖父母は他界。夏の終わりの海辺であてどもなくさまよっていた彼女の身元引受人になったのが、教会騎士でもあるサンディーだった。
もともと正妻の子どもではなく、お手つきによって生まれたメイドの娘。ずっと田舎の祖父母とともに平民として暮らしていたところを、伯爵の都合で呼び戻された。金に困った伯爵が、政略結婚の駒にするためだ。「傲慢令嬢」という名前は、都合の悪いことを彼女になすりつけるためだけに用意された蔑称だった。
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