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「さあ、夫婦の初めての共同作業だ。一緒に片付けを始めようか?」

 普段は氷のようなと評される美貌に微笑みをのせて、公爵令息さまが腕まくりをなさいました。ははあ、読めましたよ! これが狙いですね。さては寮母さんに入れ知恵されましたか?

 さすがはあの曲者揃いの男子寮を、寮長として取りまとめているだけはありますね。目の前にごほうびを吊るして、私に片付けを促す方針なのでしょう。わかりました、そこまでお膳立てをしてくださったのです。その作戦、乗るしかありません!

「ありがとうございます。一生懸命、頑張らせていただきますね」
「それにしてもノーマ嬢、一体どうして君の部屋は散らかっているのだろう」
「名前呼びだなんて恐れ多いです。どうぞ、『ゴミムシ』とでもお呼びください」
「君は愛する者にそんな風に虐げられて興奮する趣味でもあるのか?」

 困惑と言わんばかりの戸惑いが見える表情に、また胸が高鳴ります。今日の公爵令息さまはなんて表情筋が豊かなのでしょうか。私に絵心がありましたら、この素晴らしい表情を描き残し学園中に伝えましたものを。

「それはもちろんありませんが……」
「ならば、名前で呼ばせてもらおう。僕のことも名前で呼ぶように」
「そんな寮長さまのことをお名前だなんて、不敬です!」
「まさか僕の名前を知らないとでも?」
「勝負下着を用意する相手のお名前を知らないはずがありませんよ! ギディオンさま!」
「それは良かった」

 ああ、憧れのかたとこうやって会話が弾むなんてなんて素敵なことなのでしょう。背景が私の散らかった部屋だということを除けば、まるで楽園のように美しい景色です。

「先ほどの質問の答えですが、他の皆さんのお部屋がどうして散らかることがないのかが私にはわかりません」
「なるほど。君の場合はそこからか。学習用品はしっかり片付けられているようだが……」
「ええと、そうですね。授業に使うものは決まっておりますし、必要なもの不必要なものが区別しやすいのです」

 かさばると言われる資料やテストも、必要な部分をまとめてしまえばすっきりしますしね。私の返事を聞いていた公爵令息さまは小さくうなずくと、爽やかな笑顔でまさかの提案をなさったのです。

「ではここで片付けられていないものは、授業には関係のないものということになる。ならば、いっそすべてを捨ててしまえば良い」
「そんなことはできません!」

 あまりにも無駄を排し過ぎた言葉に、私は思わず否定の言葉を叫んでしまっておりました。
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