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「も、申し訳ありません!」

 慌てて頭を下げました。
 いくら学園内は平等とはいえ、それは建前。今後のことを見据えれば、不敬な態度は禁物です。

「だが、どれも授業では必要のないものなのだろう?」
「はい。けれど、どれもゴミというわけではないのです」
「では、この紙の束は?」
「これは、歴代のクラス委員に引き継がれた秘伝の書類ですね」
「なんだ、その秘伝のタレみたいな書類は」
「あら、寮長さんたちにはこういった資料ってないんですか。もうずいぶん前から引き継がれているせいで、まったく私たちの役に立たなそうなものもたくさんあるのですが、読んでいると当時の学校の雰囲気が伝わってきてとても素敵な資料に思えてくるんです。それでちょっとどうしてよいか悩んでいて……」
「なるほど。そういうことなら、生徒会の資料室に置かせてもらうのがよいのではないか。ひとまず箱や袋にバラバラになっているのを年代ごとにファイリングした上で、先生に相談に行こう。同じような謎資料が各クラス委員にもあるかもしれないから、こちらで声をかけてみる必要もあるな」

 さすが、顔の広いギディオンさま。頼りになります。とりあえず任期中頑張って失くさないように荷物保管係に徹していた私とは大違いです。

「では、この枯れた草は?」
「ドライフラワーと言ってください。これは、奉仕活動の際に孤児院の子どもたちが私にくれたものでして。フラワーアレンジメントのセンスがないせいで、ただの枯れた草の束に見えますが……」
「なるほど。せっかく飾るのであればもう少し工夫がいるだろう。そこにあるリボンの切れ端をこちらに」

 ちなみにリボンや余り布は、文化祭で出し物をしたときの残りです。中途半端なサイズなので寄付もできず、さりとて捨てるには惜しいものばかり。それを使って、ギディオンさまは手早くリースを作り始めてしまいました。さすが完璧貴公子はやることが違いますね! 不器用な私には思いつくことすらできません。

「これは?」
「えーとそれはですね」

 床に散らばっているものを拾い上げ、それにまつわる物語を話していると、ギディオンさまが新しいアイディアを出してくださいます。そして気がつけば山のように積み重なっていたものが、すっきりと片付いてしまっていたのです。

「す、すごい! 魔法みたいです!」
「魔法などという高尚なものではない。ただ単にできることから始めていった結果だ。それにノーマ嬢の部屋は、怠惰で片付いていなかったわけではないこともよくわかった」
「でも、普通はこんな風にならないわけで……」
「そもそも、ここまで真摯にそれぞれのものに向き合うのが君くらいだからだろう。おおかた、置き場所がなければ捨てると言われていたものを、見かねた君が全部引き取ってきたのではないか」

 どうして全部お分かりになるのでしょう。まさかギディオンさまは、超能力者なのでは?

 私の言葉にギディオンさまは首を振り、小さくため息をつきました。
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