偽聖女として断罪追放された元令嬢は、知らずの森の番人代理として働くことになりました

石河 翠

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3.藍のカップを満たすもの

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「あら、旦那さま。お帰りなさい。お早いお戻りですね」
「よかった……。もう実家に戻ってしまったかと心配していたんだ」
「まあ、スカイさまがそんな情けないお顔をするなんて、結婚してほしいと泣きついてきた時以来のことですわね」

 ブルーベルの顔を見るなり床にへたり込んだ夫を見て、ブルーベルはくすくすと小さく笑ってみせた。久しぶりに「旦那さま」ではなく、「スカイさま」と名前で呼ばれたスカイは、喜ぶどころか顔を真っ青にする。

「せっかくですから、お茶をご一緒しませんこと? 今日は久しぶりに気分が良くて。込み入った話もできそうな気がいたしますの」
「ブルーベル? 込み入った話とは一体なんのことだい?」
「嫌ですわ。最近では毎日、王都で評判のパティスリーに出かけていらっしゃるとか。そこの若奥さまと懇ろだと周囲では大層評判ですのよ?」
「なっ、何を!」
「堂々と妾を囲うのであれば、ようやく平民の石女に見切りをつけて、それなりの名家のご令嬢との再婚をすることにしたのかもしれないなんて噂も耳にする始末でして。そろそろ、出ていく日時の相談をさせていただきたいと思って、お待ちしておりましたの。もうすぐ結婚記念日ですし、離縁をするのであれば結婚記念日を迎える前に手続きを行ったほうが良いのでしょうね。ちょうど良い区切りですもの」

 口から泡を吹いて倒れてしまいそうな夫を前にして、ブルーベルは今までずっと我慢していたことの馬鹿馬鹿しさに、大声で笑い出したい気分だった。なんだ、簡単なことではないか。もっと早く、こうやって素直に話をしておけばよかった。ただそれだけだったのだ。

「ブルーベルは、僕を疑うのか。いや、そんな突拍子もない噂を君が信じるなんて。まさか君には誰か他に好きな男が?」
「あらあら、言うに事欠いて浮気を疑われるとは。それならば心配はご無用ですわ。神殿で宣誓してもかまいませんわよ」

 神の名の元に自らの潔白を証明する――偽りを述べればたちまち天罰を受ける――神殿での儀式を提案すれば、ブルーベルの夫は必死で首を横に振った。

「じゃあ、どうして出ていくなんて言うんだ。君は僕のことを嫌いになってしまったのか?」
「嫌いになるも何も、私のことを先に嫌いになったのはあなたではありませんか。二言目には『忙しい』ばかり。何を聞いても、『君の好きなようにしてくれてかまわないよ』だなんて、馬鹿にするのもいい加減にしていただきたいわ」

 ブルーベルの言葉に、スカイはどんどんしょげていく。妻を放置してよその女にうつつを抜かす夫の姿などどこにもなかった。
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