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6.黒き魔女の待ちびと
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年若い美青年は、貫禄のある国王となっていた。王国の誰もが首を垂れる存在。けれどそんな至高の国王は、ただひとりの美女の前にかしずくのだ。
『ダリア、わたしの愛しい夜の女王』
『お前は年をとっても本当に愚かなままね』
『君は時が経つにつれて、ますます女王然としてくるね』
『ええ、「物語」とやらを集めるのはなかなかに面白いわ』
『ならばそろそろわたしのことを、「お前」ではなく「ジェット」と名前で呼んでもよさそうなものだが』
『あら、生意気だこと。百年早くてよ』
国王は寝台の上で横たわっていた。いつまでも変わらぬ美しさを誇る黒の魔女の隣で、国王はすっかり年老いていた。命の灯が消えようとしている。
『君に誓おう。わたしの心は、君だけのものだ』
『わたくしの心は、わたくしだけのものよ?』
『おや、それは少しばかり寂しいね』
『たくさんの妃を持ち、子どもと孫に囲まれて、豊かな国を国民に残して。これ以上、何が欲しいと言うの』
『そうだね。わたしは欲張りすぎたのかもしれないね』
『人生に満足できなかったのかしら』
『本当に欲しい物を手に入れることはできなかったようだ』
黒の魔女は小首を傾げた。彼女にしてみれば、彼は大陸有数の王国を作り上げ、後継者を残し、後顧の憂いなく旅立つことのできる稀有な人物だ。後悔など存在しているようには見えなかった。しかも名前を受け取った代わりに、かなり融通を利かせた形でこの男に協力し続けてきたはずだ。
『必ず君の元に戻ってくるから。どうかそれまで待っていてくれ』
『随分気の長い話だこと。あれだけ他に妃がいて、それでもなおわたくしを正妃にしたかったの? 死ぬまで正妃を娶らなかった頑固さは確かにすごいわ』
男はどこか困ったように眉を寄せた。
『迎えに来るまでわたしひとりを想っていてくれだなんて、口が裂けても言えない。けれどわたしが迎えに来たなら、どうかこの手を取ってほしい』
『いいわよ。って、何よその顔は』
『いや、まさか承諾してもらえるとは思わなくてね。意外だったのだ』
『人間というものは死の間際には相手が心安らかに旅立てるように、壮大な約束をするものなのでしょう?』
『守る気はないということかな?』
『まさか。人間と違って嘘なんてつかなくってよ。お前がこの国に戻ってくるまで、この国で待っててあげる』
『それは楽しみだ』
久しぶりに声を出して笑った男は、その夜に息を引き取った。それから、何十年、何百年の時が過ぎた。かつての王国は少しずつ形と仕組みを変えながら、大きく発展している。黒の魔女、森の番人の名前は、すっかりお伽噺の中に埋もれてしまった。森の番人の元には、それでも時たま訪ねてくる客人がいるらしい。黒の魔女はここしばらく神殿の聖女としての役割に従事していたためか、どうにもその名が薄らいでしまったようだった。
戯れに黒の魔女が作った神殿はすっかり大きく発展していた。もしもジェットが王族に生まれ変わることがなかったとしても、神殿の後ろ盾を得れば再び王座に就くことさえ可能だと思えるほどに。けれど、いまだに初代国王ジェットの生まれ変わりは、大聖女もとい黒の魔女のもとに戻ってはきていなかった。
『ダリア、わたしの愛しい夜の女王』
『お前は年をとっても本当に愚かなままね』
『君は時が経つにつれて、ますます女王然としてくるね』
『ええ、「物語」とやらを集めるのはなかなかに面白いわ』
『ならばそろそろわたしのことを、「お前」ではなく「ジェット」と名前で呼んでもよさそうなものだが』
『あら、生意気だこと。百年早くてよ』
国王は寝台の上で横たわっていた。いつまでも変わらぬ美しさを誇る黒の魔女の隣で、国王はすっかり年老いていた。命の灯が消えようとしている。
『君に誓おう。わたしの心は、君だけのものだ』
『わたくしの心は、わたくしだけのものよ?』
『おや、それは少しばかり寂しいね』
『たくさんの妃を持ち、子どもと孫に囲まれて、豊かな国を国民に残して。これ以上、何が欲しいと言うの』
『そうだね。わたしは欲張りすぎたのかもしれないね』
『人生に満足できなかったのかしら』
『本当に欲しい物を手に入れることはできなかったようだ』
黒の魔女は小首を傾げた。彼女にしてみれば、彼は大陸有数の王国を作り上げ、後継者を残し、後顧の憂いなく旅立つことのできる稀有な人物だ。後悔など存在しているようには見えなかった。しかも名前を受け取った代わりに、かなり融通を利かせた形でこの男に協力し続けてきたはずだ。
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『随分気の長い話だこと。あれだけ他に妃がいて、それでもなおわたくしを正妃にしたかったの? 死ぬまで正妃を娶らなかった頑固さは確かにすごいわ』
男はどこか困ったように眉を寄せた。
『迎えに来るまでわたしひとりを想っていてくれだなんて、口が裂けても言えない。けれどわたしが迎えに来たなら、どうかこの手を取ってほしい』
『いいわよ。って、何よその顔は』
『いや、まさか承諾してもらえるとは思わなくてね。意外だったのだ』
『人間というものは死の間際には相手が心安らかに旅立てるように、壮大な約束をするものなのでしょう?』
『守る気はないということかな?』
『まさか。人間と違って嘘なんてつかなくってよ。お前がこの国に戻ってくるまで、この国で待っててあげる』
『それは楽しみだ』
久しぶりに声を出して笑った男は、その夜に息を引き取った。それから、何十年、何百年の時が過ぎた。かつての王国は少しずつ形と仕組みを変えながら、大きく発展している。黒の魔女、森の番人の名前は、すっかりお伽噺の中に埋もれてしまった。森の番人の元には、それでも時たま訪ねてくる客人がいるらしい。黒の魔女はここしばらく神殿の聖女としての役割に従事していたためか、どうにもその名が薄らいでしまったようだった。
戯れに黒の魔女が作った神殿はすっかり大きく発展していた。もしもジェットが王族に生まれ変わることがなかったとしても、神殿の後ろ盾を得れば再び王座に就くことさえ可能だと思えるほどに。けれど、いまだに初代国王ジェットの生まれ変わりは、大聖女もとい黒の魔女のもとに戻ってはきていなかった。
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