あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?

石河 翠

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 一週間後の追試当日。校内には桜が満開になっていた。東部地方で有名な桜だが、最近は王都でも春の風物詩になっている。

 フィリップ先生が一番好きな花に見守られての試験だ。失敗するはずがない。絶対に合格してみせる!

「今日こそは、まともな料理を作ってほしいものですね」
「当然です。今回は、フィリップ先生にもご満足いただけるものをご用意しました」

 剣技、魔法の試験を済ませてから望んだ料理試験。試験に使う料理の材料は、すでに用意されている。訓練校内で自生しているものなら加えることもできるけれど、普通はやらない。植物についての知識が低ければ、成功する可能性よりも、減点される可能性が高くなるからだ。まあわたしはその知識の高さを活かして、美味しくて見た目が悪くなるような植物を探してぶち込んでいたんだけれどね!

「さあ、どうぞお召し上がりください」

 わたしが作ったのは、ハンバーグにスープにパンだ。与えられた材料はちょっと硬くて古いお肉だったけれど、包丁で叩いて挽肉にすればそれなりのものができる。そのために訓練校内のハーブの場所を確認していたわけだし。ズルいというなかれ。情報もまた生き残るために必要なのだ。

「お味はいかがですか?」

 どうだ、対フィリップ先生を目標に長年あたためてきたレシピの力を思い知るがいい。フィリップ先生は、わたしの料理を全部残さず食べてくれた。あーん、もうそういうところが好き。試験だから一口しか食べなくてもいいのに、ちゃんと食べてくれるとかもう好き、結婚してほしい。

「……ええ、合格です」
「ふふふ、フィリップ先生ったら完食ですね」
「普段の料理も見た目はともかく、味は美味しいですからね」
「このお料理、全部人参がたっぷり使われているんですよ。でも美味しかったでしょ!」
「……ええ、正直驚きました」

 本来なら、料理中の技術についても試験の対象となる。でもわたしはフィリップ先生を驚かせたくて、調理中の監督は別の先生になるようにお願いをしていた。普通はこんな要求なんて通らないはずなのだけれど、みんな快くお願いを聞いてくれたのだ。

 特に校長先生なんて、「これで二人の新たなる門出をお祝いできるなら、いくらでも協力するとも」と言ってくれたのだけれど、一体なんのことだろう。卒業試験を何度も失敗されると学校としての評価が落ちるから、さっさと卒業して欲しかったのかな。

「フィリップ先生、昔から人参が苦手ですもんね。わたし、人参の味が目立たないように料理ができるようになったんですよ。すごいでしょう」
「カレン、あなたは……」

 鉄面皮のようなフィリップ先生の顔が、昔のフィリップ兄さまのようにふんわりと柔らかくなった。きゃー、この笑顔はヤバい。氷の騎士の雪解けよ!

「よっしゃ、これで結婚しても外で仕事ができるぞー!」

 結婚生活が破綻して離婚しても、手に職があったら安心だよね! にっこり笑顔で拳を宙に突き出したら、一瞬で表情を失くしたフィリップ先生に腕をつかまれた。
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