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せっかくなので、作業後は一緒に帰ることになった。今までだって、帰る方向が同じという理由で、途中まで一緒に下校したことだってある。でも今日の帰り道は、なんだか無性に甘酸っぱい。
学校を出れば、道の両脇に雪柳と小手鞠が真っ白な花を、柔らかなレースのように広げていた。
「なに見てるの?」
「あ、そこのお花がレースみたいで綺麗だなって」
「渡辺さんは、ああいうドレープたっぷりのドレスが好みなんだね。了解。結婚式までに、しっかりお金を稼いでおくから」
眼鏡を人差し指であげ、思いっきり真面目な顔で冗談を言う斎藤くんがおかしくて、わたしはつい笑ってしまった。
「またそんなテキトーなこと言って。わたしだけが緊張しているの、なんだか悔しいな」
「冗談なんかじゃないのに。そもそも、手紙を隣の下駄箱に入れたなんて聞いたときは、本当に焦ったんだ。渾身のラブレターが全然関係ない他人の手に渡ってしまうとか冷や汗ものだったから」
「うそばっかり!」
「本当だから。ほらそんなこと言ってたら、また思い出し冷や汗が」
ハンカチを取り出した斎藤くんが、眼鏡を外して大げさに額に押し当てる。その姿を見ていたわたしは、気がついた。……気がついてしまった。
「あ、あ、あ、斎藤くんって、あの、もしかしてモ、モデルなんかやってたりして……」
「あれ、渡辺さん、オレのこと知ってたの? 嬉しいなあ。実は叔父さんの会社でモデルを探していて、身内だと使い勝手がいいからっていろいろあごで使われててさ。おかげでお小遣い稼ぎができていて、それで趣味の文房具を買えているってところもあるんだよね」
にこりと微笑む斎藤くんを前に、わたしは膝の力が抜けた。
「それは逆にうそっていってよ……」
さきほどスマホで見た、あの綺麗な横顔を思い出す。住む世界の違いを実感したあの写真を。斎藤くんは面白そうに口角をあげた。
「渡辺さん、そういうの苦手そうだから言わなかったんだけれど。やっぱり言わなくて正解だね。今さらさっきの告白はナシでって言われても、オレは聞かないから」
「いや、あの……」
「まずは、このままデートにしようか。そうだ、せっかくだから万年筆の専門店に行こう。見るだけでも十分、面白いよ」
「いや、あの、わたしお金がなくて……」
口からこぼれたわたしの断りの言葉を、斎藤くんはあっけなく崩していく。
「お金がない? 大丈夫、オレにまかせて! これでもデート代には不自由しないくらいの稼ぎはちゃんとあるから!」
眼鏡を外したきらきらしい顔が、至近距離で爽やかに笑っている。ゆっくりと見せつけるように唇が動いた。
――絶対、逃がさないから――
斎藤くんのことを「地味なほうのサイトウくん」と呼んでるひとたち、絶対に間違っているよ……。今年度は、受験前から波乱万丈の年になりそうです。
学校を出れば、道の両脇に雪柳と小手鞠が真っ白な花を、柔らかなレースのように広げていた。
「なに見てるの?」
「あ、そこのお花がレースみたいで綺麗だなって」
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眼鏡を人差し指であげ、思いっきり真面目な顔で冗談を言う斎藤くんがおかしくて、わたしはつい笑ってしまった。
「またそんなテキトーなこと言って。わたしだけが緊張しているの、なんだか悔しいな」
「冗談なんかじゃないのに。そもそも、手紙を隣の下駄箱に入れたなんて聞いたときは、本当に焦ったんだ。渾身のラブレターが全然関係ない他人の手に渡ってしまうとか冷や汗ものだったから」
「うそばっかり!」
「本当だから。ほらそんなこと言ってたら、また思い出し冷や汗が」
ハンカチを取り出した斎藤くんが、眼鏡を外して大げさに額に押し当てる。その姿を見ていたわたしは、気がついた。……気がついてしまった。
「あ、あ、あ、斎藤くんって、あの、もしかしてモ、モデルなんかやってたりして……」
「あれ、渡辺さん、オレのこと知ってたの? 嬉しいなあ。実は叔父さんの会社でモデルを探していて、身内だと使い勝手がいいからっていろいろあごで使われててさ。おかげでお小遣い稼ぎができていて、それで趣味の文房具を買えているってところもあるんだよね」
にこりと微笑む斎藤くんを前に、わたしは膝の力が抜けた。
「それは逆にうそっていってよ……」
さきほどスマホで見た、あの綺麗な横顔を思い出す。住む世界の違いを実感したあの写真を。斎藤くんは面白そうに口角をあげた。
「渡辺さん、そういうの苦手そうだから言わなかったんだけれど。やっぱり言わなくて正解だね。今さらさっきの告白はナシでって言われても、オレは聞かないから」
「いや、あの……」
「まずは、このままデートにしようか。そうだ、せっかくだから万年筆の専門店に行こう。見るだけでも十分、面白いよ」
「いや、あの、わたしお金がなくて……」
口からこぼれたわたしの断りの言葉を、斎藤くんはあっけなく崩していく。
「お金がない? 大丈夫、オレにまかせて! これでもデート代には不自由しないくらいの稼ぎはちゃんとあるから!」
眼鏡を外したきらきらしい顔が、至近距離で爽やかに笑っている。ゆっくりと見せつけるように唇が動いた。
――絶対、逃がさないから――
斎藤くんのことを「地味なほうのサイトウくん」と呼んでるひとたち、絶対に間違っているよ……。今年度は、受験前から波乱万丈の年になりそうです。
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