ヘビは意外と怖がりの臆病者でした~ヤンデレ神官は聖女の愛を信じない~

石河 翠

文字の大きさ
2 / 5

ヘビは意外と怖がりの臆病者でした(2)

しおりを挟む
 わたくしが教会に身を寄せるようになったのは、わたくしとこの国の第二王子殿下との婚約が解消されたことによるものでした。政治的な背景で結ばれた婚約が解消されたのは、殿下の「運命の恋」とやらが、異類婚であったためです。もともと王家の成り立ちも、異類婚姻譚として語り継がれています。通常ならば許されない婚約の解消も、神の御心とあらば祝福されてしまうのです。

 本当に悪趣味な神さまですこと。政治的なバランスや貴族の男女比を考えずに行われる異類婚によって、一体幾人が涙を流してきたことでしょう。そもそも種族が異なる相手に対して、恋心など抱けるものなのか不思議でなりません。例えば昆虫などは人間とは異なり、骨格が一番外側にあるわけです。柔らかい皮膚を晒してうろついている人間なんて、奇妙極まりない生き物に見えるのではないでしょうか。まあ、こんな夢のないことばかり考える女ですから、殿下の心を繋ぎ止めることもできなかったのでしょう。

 殿下の隣で微笑むお相手のような可愛らしさがわたくしにあれば。どこかきつく見えがちなわたくしとは正反対の容姿が憎たらしい。ええ、わかっておりますとも、男性はみなあのように庇護欲をそそる女性がお好きなのです。一体彼女はどんな種族だったのでしょうか。いっそ、カマキリかクモだったらよろしいのに。殿下など頭から食われてしまえば良いのです。

 幼少期から受けていたお妃教育もすべて水の泡。王家はしっかりと慰謝料と次の結婚相手を見繕みつくろってくださいましたが、わたくしは慰謝料のみを受け取り、新しいお相手についてはつつしんでお断りさせていただきました。こちらが頑張ったところで、またも「運命の恋」とやらが生まれてしまっては勝ち目がありません。これ以上、当て馬になどなりたくないのです。

 異類婚姻譚は嫌いですし、それを賛美するこの国も、教会が祀る神様も大嫌いです。それでもわたくしが心穏やかに暮らせる場所は、皮肉なことに教会しかなかったのでした。

「殿下の大馬鹿者! 自分だけ幸せを見つけるだなんて、さっさとはげ散らかしてしまえば良いのですわ!」

 優雅な貴族暮らしから堅苦しい教会暮らし。どうなることかと心配していたものの、わたくしは静かな生活を意外なほど心地よく感じておりました。特に気に入っていたのは、教会の敷地内にあった清めの泉です。こちらで殿下への怒りを叫ぶと心が洗われるようでした。今までの人生で使ったことのないような言葉のお陰ですっきりしたのもつかの間。この日課が修行だと見なされて、聖女のような力を授かってしまうことになるなんて。

 ひっそりと教会内に引きこもって余生を過ごす予定がまったくもって台無しです。何かあるたびに、王族と同じ場所に立ち続けることが苦痛でした。何が悲しくて、元婚約者たちが仲睦なかむつまじげに過ごす姿を見なくてはならないのでしょう。

 聖女などなりたくもない。ともすれば腫れ物のように扱われるわたくしを、アルメルは特別扱いすることはありませんでした。わたくしが何か失敗をすれば、片眉をあげて少しだけ嫌そうに頬をひくつかせてはいましたけれど。けれど、他の神官たちのように、わたくしのことを憐れんだり、あるいはこびへつらわれるよりもよっぽどましだったのです。

 わたくしは、さっさと聖女を罷免ひめんされたいという思いから、あえて他者にはきつく当たっておりました。嫌われればそれだけ早く、聖女にふさわしくないと判断してもらえると思ったからです。教会の掟は率先して破りました。見ず知らずのご令嬢に難癖をつけたこともあります。それでも教会は見て見ぬふりをするばかり。扱いやすい馬鹿な娘だと思われたのか、わたくしの周りには教会で甘い汁を吸う狸爺たぬきじじいばかりが集まる始末。

 多くの神官たちが日毎に陰口を叩くようになる中で、アルメルだけが我関せずと言わんばかりに、無言を貫き通しておりました。それをわたくしは、わたくしのことなど眼中にないからだと思っていたのです。もともと聖女の資格などないと思われていたがゆえに、いさめられることもさげすまれることもないのだと。王子への憎しみから力を得るなんて、確かにありえないことですから。アルメルの中に、これほど強い感情があるなんて想像することもできなかったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...