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4.「ずるい」と「うらやましい」の違いがわからない異母妹を教育した結果、世界に平和が訪れました。
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基本的に屋敷への訪問には先触れがあるものだ。眉をひそめつつ、ヘンリエッタは侍従に丁重に出迎えるように指示する。だが断れる相手であれば、侍従はヘンリエッタの手を煩わせる前に客人を追い出していることだろう。そんな彼がわざわざヘンリエッタを呼びに来たということは、それなりの相手だということだ。上級貴族か、王族か。あるいは……。
「これはこれは。聖女さまが並び立つ姿を我が家でお目にかかることになりますとは。光栄至極にございます」
頭を下げるヘンリエッタの前にいたのは、王族ですら膝をつかなくてはならないという中央神殿の聖女二人組であった。彼女たちはヘンリエッタの姿を見かけると一斉に口を開き始めた。
白の聖女がヘンリエッタに向かって叫ぶ。
「主人公が虐められて、何もかもを奪われないと話が進まないでしょう! あなたはドアマットヒロインなの。まずは耐えて、耐えて、耐え続けなくては! 母を失い、父の愛情も失くし、継母と異母妹に虐げられてこそ、世界を救うあなたの伝説は幕を開けるのよ! そうすれば冤罪でお取りつぶしになった幼馴染の無念もちゃんと晴らせるのだから!」
黒の聖女もヘンリエッタに向かって叫ぶ。
「ざまあされる悪役令嬢が、心を入れ替えてヒロインになるのが今どきはむしろ王道なのよ! それならばヘンリエッタの教育方法は正しいわ。あとはこのままヘンリエッタが締め付けを厳しくしたあげく正しさを追求して人間味を失えば、シーラが反感を抱くのは間違いない。ライン越えをしてきたところでシーラがヘンリエッタを追放して万事解決よ! 悪役令嬢だからこそ救える力というものはあるの。シーラならば冤罪の証拠だって全部見つけられるわ!」
なるほど、意味がわからない。ヘンリエッタは首を傾げつつ、合理的で美しい解を考える。ドアマットヒロインだとか悪役令嬢という単語に聞き覚えはないが、ようはヘンリエッタとシーラのどちらが家督を継ぐことになるのか、高見の見物をしているのだろう。社交界でもふたりのうちどちらが後継者になるのかは、注目の的なのだ。
貴族としての血筋の正当性を重んじるならばヘンリエッタ。しかし、侯爵家の財産等をうまく利用することを考えるならばシーラの方が操りやすい。ただのお家騒動ではなく、血に飢えた狼たちの前にぶら下げられた生肉のような存在、それがヘンリエッタとシーラなのである。いずれにせよ、自分が守るべきものはひとつだけ。それをわかっているヘンリエッタにしてみれば、答えなど最初から決まっているのだった。
「残念ですが、私がシーラを追い出すことはありませんし、シーラが私を追い出すこともありません。世界というものがどこまでの範囲を示すのかはわかりませんが、私とシーラが手を組めば最強なのでしょう? わざわざ足を引っ張り合う必要がどこにあるというのです?」
「あら、あなたたちが争わなければ、幼馴染の冤罪は晴れないかもしれないのに?」
「冤罪の証拠があると、黒の聖女さまがおっしゃったではありませんか。しかも、シーラならば、必ず見つけることができると。これで安心して前に進むことができますわ。今までとは違って、はっきりと希望が見えたのですから」
傍らの侍従を見上げれば、彼はその通りですとうなずいた。かすかに手が震えているのは、反撃の手がかりをつかんだからだろう。
「素晴らしい情報をご提供いただき、ありがとうございます。白の聖女さま、黒の聖女さま、おふたりにご満足いただける結末になりますよう、精一杯努力させていただきます」
ヘンリエッタとともに、シーラと侍従はそろって頭を下げた。
「これはこれは。聖女さまが並び立つ姿を我が家でお目にかかることになりますとは。光栄至極にございます」
頭を下げるヘンリエッタの前にいたのは、王族ですら膝をつかなくてはならないという中央神殿の聖女二人組であった。彼女たちはヘンリエッタの姿を見かけると一斉に口を開き始めた。
白の聖女がヘンリエッタに向かって叫ぶ。
「主人公が虐められて、何もかもを奪われないと話が進まないでしょう! あなたはドアマットヒロインなの。まずは耐えて、耐えて、耐え続けなくては! 母を失い、父の愛情も失くし、継母と異母妹に虐げられてこそ、世界を救うあなたの伝説は幕を開けるのよ! そうすれば冤罪でお取りつぶしになった幼馴染の無念もちゃんと晴らせるのだから!」
黒の聖女もヘンリエッタに向かって叫ぶ。
「ざまあされる悪役令嬢が、心を入れ替えてヒロインになるのが今どきはむしろ王道なのよ! それならばヘンリエッタの教育方法は正しいわ。あとはこのままヘンリエッタが締め付けを厳しくしたあげく正しさを追求して人間味を失えば、シーラが反感を抱くのは間違いない。ライン越えをしてきたところでシーラがヘンリエッタを追放して万事解決よ! 悪役令嬢だからこそ救える力というものはあるの。シーラならば冤罪の証拠だって全部見つけられるわ!」
なるほど、意味がわからない。ヘンリエッタは首を傾げつつ、合理的で美しい解を考える。ドアマットヒロインだとか悪役令嬢という単語に聞き覚えはないが、ようはヘンリエッタとシーラのどちらが家督を継ぐことになるのか、高見の見物をしているのだろう。社交界でもふたりのうちどちらが後継者になるのかは、注目の的なのだ。
貴族としての血筋の正当性を重んじるならばヘンリエッタ。しかし、侯爵家の財産等をうまく利用することを考えるならばシーラの方が操りやすい。ただのお家騒動ではなく、血に飢えた狼たちの前にぶら下げられた生肉のような存在、それがヘンリエッタとシーラなのである。いずれにせよ、自分が守るべきものはひとつだけ。それをわかっているヘンリエッタにしてみれば、答えなど最初から決まっているのだった。
「残念ですが、私がシーラを追い出すことはありませんし、シーラが私を追い出すこともありません。世界というものがどこまでの範囲を示すのかはわかりませんが、私とシーラが手を組めば最強なのでしょう? わざわざ足を引っ張り合う必要がどこにあるというのです?」
「あら、あなたたちが争わなければ、幼馴染の冤罪は晴れないかもしれないのに?」
「冤罪の証拠があると、黒の聖女さまがおっしゃったではありませんか。しかも、シーラならば、必ず見つけることができると。これで安心して前に進むことができますわ。今までとは違って、はっきりと希望が見えたのですから」
傍らの侍従を見上げれば、彼はその通りですとうなずいた。かすかに手が震えているのは、反撃の手がかりをつかんだからだろう。
「素晴らしい情報をご提供いただき、ありがとうございます。白の聖女さま、黒の聖女さま、おふたりにご満足いただける結末になりますよう、精一杯努力させていただきます」
ヘンリエッタとともに、シーラと侍従はそろって頭を下げた。
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