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龍の花嫁は、それでも龍を信じたい(1)

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「ようやく会えた」

 私以外誰もいないはずのこの場所で、唐突に声をかけられた。思わず悲鳴をあげかけて、必死で息を飲み込む。恐る恐る振り返れば、どこから入り込んだのか、美しい少年がひとり、目をきらめかせながら微笑んでいた。

 ここは山深く、閉ざされた花畑。周囲は険しく警備もまた厳重で、外から入り込むことも、逆に外へ出ることも叶わない。彼がここにいること事態が、神さまのいたずらのようなもの。周囲を警備している兵たちの目をどうやってかいくぐってきたものやら。

「何をそんなに驚くことがある」

 にもかかわらず、悠然とこともなげに問うその姿。世事に疎い私にさえ、彼が高貴な身の上であろうことが簡単に想像できた。くらくらとめまいがする。こんな時にどうすればよいのかなど皆目見当もつかず、不安だけが押し寄せた。

 相手が自身の問いに答えることを疑ってすらいないその姿。
 柔らかな、けれど見た目にそぐわないどこか老成した言葉遣い。
 外套を羽織っただけの簡素な格好とは対照的に、手荒れや日焼けとは無縁のなめらかな肌。

 おそらく彼は、多くの人間にかしずかれる立場にいるのだろう。禁足地に気まぐれに足を踏み入れることを許される身分。口に出すことさえはばかられるそれを想像し血の気が引く。殺されることはあるまいとわかっていても、体の震えが止まらない。

「ここでの生活に不自由はないか?」

 少年の問いに、答えるべき言葉を私は持っていない。彼の足元に這いつくばるようにひざまずき、一輪の花を差し出した。この地を埋め尽くす、血のように赤い花を。

 これを見れば、彼も思い出すだろう。忌まわしいと言われる花を手にする私の役割を。物珍しさなど吹き飛び、もう二度とこの花畑へ来ることもないはずだ。

 ここは聖地という名の牢獄。そして私は、花守はなもりとがびとなのだから。
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