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第一章
(7)学校に通い始めました。
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翌日からわたしは、ペンギンと一緒に学校に通うことになった。ちなみに椿さんにも、学校のみんなにもペンギンの姿は見えないらしい。
「椿さん、おはようございます」
「あら、美優ちゃん。おはよう。今日の朝ごはんは、卵焼きと鮭の塩焼きと納豆に、大根のお味噌汁よ。お魚、たくさん食べられるようになったみたいで嬉しいわ」
「……あははは、椿さんのご飯が美味しいからです」
「まあ、嬉しい」
姿は見えないのに、ペンギンが食べるとテーブルの上のおかずはちゃんとなくなるので、今日も「朝からたくさん食べられて偉いわ!」と褒められた。椿さんが張り切って作ってくれるので、ペンギンも喜んでいる。椿さん、ありがとう。そしてごめんなさい。
学校は椿さんの家からなだらかな坂を上ったところにある。よちよちとペンギンと一緒に歩いて行っても、二十分くらいで到着するから結構近い。ただ、近所のひとはみんな知り合いみたいでちょっとだけびっくりした。登校している途中で転んだら、下校してすぐに椿さんに、「朝から転んだって聞いたけれど、大丈夫?」って聞かれたんだもの。わたしが報告するよりも早く伝わっているなんてすごいよね。
すごいと言えば、この島の学校は児童数がとっても少ない。それぞれの学年は一クラスずつしかなくて、その上、クラス内の人数も片手で足りる程度。全校児童数を足しても、わたしの前の小学校の一クラスよりも少ないんだ。
体育館に集まって自己紹介をしたけれど、その時はあの神社で出会った男の子を見つけることはできなかった。お休みだったのかな。変なの。
わたしが通う五年一組の生徒はわたしを入れて六人になった。全部で六人のクラスメイトだから、みんなと友だちになれるだろうとちょっと期待していたのだけれど、一人、最初から刺々しい女の子がいて困ってしまうことになるなんて思いもしなかった。
「どこから来たの?」
「お父さんは何をしているの?」
「お父さんとお母さん、どちらかが島の出身なの?」
「前の小学校はどんなところだった?」
わっと休み時間に囲まれたときに、その女の子――茜(あかね)ちゃん――は言ったんだ。
「こんなへんてこりんな時期に転校してきたんだから、訳ありに決まってるでしょ。警察のひとも、消防のひとも、先生たちだって春にしか転勤してこないじゃない。それなら、この子もあたしたちとおんなじなのよ。離婚か島留学か。聞いても面白い話なんて出てこないんじゃない?」
一瞬しんとなったあのときの居心地の悪さは、なんとも言えなかった。みんながどういう意味で「訳あり」なのか、もちろんわたしはまだ聞けないでいる。
***
学校の先生たちは、わたしたちよりも元気なくらいで、明るいひとたちばかりだ。二十分休み――ここでは中休みと言うらしい――やお昼休みになると校庭に追い出されて、せっせと校庭を走らされる。教室の中でゆっくり本を読んでいたいわたしはちょっとだけ涙目だ。逆に男の子たちは、ボールをけりながら走っていたり、その日の目標分走ったらドッジボールを始めたりしている。すばらしく元気だ。
「おーい、がんばれ!」
「う、うん」
「飽きたら後ろ向きに走ると疲れなくなるぞ!」
「え、そうなの?」
「たぶん気分の問題!」
会話をするだけで息切れしそうなわたしと違って、男の子たちはわたしを追い抜いたり、また戻ってきたりと忙しない。その元気をちょっとだけ分けてほしい。そしてこの男の子の集団の中にも、神社で海に飛び込んだ男の子はやっぱりいなかった。
ちなみに本日の目標分というのは、島内マラソンチャレンジシートというプリントに塗るマス目の数のこと。ちょうど島の外周がフルマラソンと同じくらいの長さがあるので、グラウンドを毎日コツコツ走ることで、島内一周達成を学校内で体験しようということらしい。いくらいっぺんに走るわけじゃないと言われても、フルマラソンレベルまで毎日走るなんて無理だよお。
よたよたとふらつきながらなんとか目標分のランニングを終えたわたしは、ちょいちょいとペンギンに呼び出された。また給食室に侵入しようとしたら怒っちゃうんだからね! みんなの目に見えないペンギンは、毎日自分の分の給食がないと大変ご立腹なのだ。とてとてとペンギンが勝手に歩き出す。ペンギンはなぜか体育倉庫の扉の前で止まった。
「ちょっとダメだよ。どこに行くの?」
「ここを開けるのじゃ」
「えええ。鍵がかかってるんじゃないの?」
「大丈夫じゃから、はようせい。そもそも先ほどの小童どもが、ボールを持ち出しておったのを忘れたのかの」
「ああ、そういえばそうか。もう、それなら扉は開けっ放しにしておいてくれたらいいのに。わざわざ閉めなくても。よいしょっと」
ぎ、ぎぎぎぎ。全身の力を込めて、扉を引く。もう、椿さんの家の物置といい、学校の体育倉庫といい、引き戸がかたすぎる。海風ですぐにさび付いちゃうのかな? そうやって頑張って開けたその先にあったのは、あの海の見える神社だった。
「椿さん、おはようございます」
「あら、美優ちゃん。おはよう。今日の朝ごはんは、卵焼きと鮭の塩焼きと納豆に、大根のお味噌汁よ。お魚、たくさん食べられるようになったみたいで嬉しいわ」
「……あははは、椿さんのご飯が美味しいからです」
「まあ、嬉しい」
姿は見えないのに、ペンギンが食べるとテーブルの上のおかずはちゃんとなくなるので、今日も「朝からたくさん食べられて偉いわ!」と褒められた。椿さんが張り切って作ってくれるので、ペンギンも喜んでいる。椿さん、ありがとう。そしてごめんなさい。
学校は椿さんの家からなだらかな坂を上ったところにある。よちよちとペンギンと一緒に歩いて行っても、二十分くらいで到着するから結構近い。ただ、近所のひとはみんな知り合いみたいでちょっとだけびっくりした。登校している途中で転んだら、下校してすぐに椿さんに、「朝から転んだって聞いたけれど、大丈夫?」って聞かれたんだもの。わたしが報告するよりも早く伝わっているなんてすごいよね。
すごいと言えば、この島の学校は児童数がとっても少ない。それぞれの学年は一クラスずつしかなくて、その上、クラス内の人数も片手で足りる程度。全校児童数を足しても、わたしの前の小学校の一クラスよりも少ないんだ。
体育館に集まって自己紹介をしたけれど、その時はあの神社で出会った男の子を見つけることはできなかった。お休みだったのかな。変なの。
わたしが通う五年一組の生徒はわたしを入れて六人になった。全部で六人のクラスメイトだから、みんなと友だちになれるだろうとちょっと期待していたのだけれど、一人、最初から刺々しい女の子がいて困ってしまうことになるなんて思いもしなかった。
「どこから来たの?」
「お父さんは何をしているの?」
「お父さんとお母さん、どちらかが島の出身なの?」
「前の小学校はどんなところだった?」
わっと休み時間に囲まれたときに、その女の子――茜(あかね)ちゃん――は言ったんだ。
「こんなへんてこりんな時期に転校してきたんだから、訳ありに決まってるでしょ。警察のひとも、消防のひとも、先生たちだって春にしか転勤してこないじゃない。それなら、この子もあたしたちとおんなじなのよ。離婚か島留学か。聞いても面白い話なんて出てこないんじゃない?」
一瞬しんとなったあのときの居心地の悪さは、なんとも言えなかった。みんながどういう意味で「訳あり」なのか、もちろんわたしはまだ聞けないでいる。
***
学校の先生たちは、わたしたちよりも元気なくらいで、明るいひとたちばかりだ。二十分休み――ここでは中休みと言うらしい――やお昼休みになると校庭に追い出されて、せっせと校庭を走らされる。教室の中でゆっくり本を読んでいたいわたしはちょっとだけ涙目だ。逆に男の子たちは、ボールをけりながら走っていたり、その日の目標分走ったらドッジボールを始めたりしている。すばらしく元気だ。
「おーい、がんばれ!」
「う、うん」
「飽きたら後ろ向きに走ると疲れなくなるぞ!」
「え、そうなの?」
「たぶん気分の問題!」
会話をするだけで息切れしそうなわたしと違って、男の子たちはわたしを追い抜いたり、また戻ってきたりと忙しない。その元気をちょっとだけ分けてほしい。そしてこの男の子の集団の中にも、神社で海に飛び込んだ男の子はやっぱりいなかった。
ちなみに本日の目標分というのは、島内マラソンチャレンジシートというプリントに塗るマス目の数のこと。ちょうど島の外周がフルマラソンと同じくらいの長さがあるので、グラウンドを毎日コツコツ走ることで、島内一周達成を学校内で体験しようということらしい。いくらいっぺんに走るわけじゃないと言われても、フルマラソンレベルまで毎日走るなんて無理だよお。
よたよたとふらつきながらなんとか目標分のランニングを終えたわたしは、ちょいちょいとペンギンに呼び出された。また給食室に侵入しようとしたら怒っちゃうんだからね! みんなの目に見えないペンギンは、毎日自分の分の給食がないと大変ご立腹なのだ。とてとてとペンギンが勝手に歩き出す。ペンギンはなぜか体育倉庫の扉の前で止まった。
「ちょっとダメだよ。どこに行くの?」
「ここを開けるのじゃ」
「えええ。鍵がかかってるんじゃないの?」
「大丈夫じゃから、はようせい。そもそも先ほどの小童どもが、ボールを持ち出しておったのを忘れたのかの」
「ああ、そういえばそうか。もう、それなら扉は開けっ放しにしておいてくれたらいいのに。わざわざ閉めなくても。よいしょっと」
ぎ、ぎぎぎぎ。全身の力を込めて、扉を引く。もう、椿さんの家の物置といい、学校の体育倉庫といい、引き戸がかたすぎる。海風ですぐにさび付いちゃうのかな? そうやって頑張って開けたその先にあったのは、あの海の見える神社だった。
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