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僕を待つ君、君を迎えにくる彼、そして僕と彼の話(2)

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 駅前の角を右に曲がれば、昔懐かしい商店街のアーケード。再開発に合わせて入れ替わった店も多いけれど、それでも昔から変わらない店だってちゃんと残っている。

 僕たちはそのうちのひとつ、古式ゆかしい喫茶店に滑り込む。綾乃さんは、学生時代から、暇さえあればここに入り浸っていたらしい。

「うふふ、ボーイフレンドと一緒に喫茶店だなんて、先生に見つかったら叱られちゃうかしら」

 綾乃さんは時代錯誤なことを言いながら、悪びれることなくメニューを開き始める。

「どれにしようかしら。迷ってしまうわ」

 選択権のない僕は、その間にメールを打つ。どれだけ悩んだところで、注文するものは結局同じもの。

 綾乃さんはやはりいつも通り、ウィンナーコーヒーとエスプレッソを頼むことに決めたらしい。

「ねえ、ウインナーコーヒーはどうしてウインナーって言うか知ってる?」

 綾乃さんに尋ねてみれば、きょとんと目を丸くした。それからおかしくてたまらないと言わんばかりに、口元に手をあてる。

「オーストリアのウィーン風のコーヒーだからでしょう。いやだ、前に一緒に喫茶店に行った時にあなたが教えてくれたんじゃない。ほら、銀座へ映画を見にいったでしょう? あの日は雨が急に降りだして傘を持っていなかったから、近くの喫茶店に……」

 綾乃さんが流れるように話し始める。忘れっぽい綾乃さんの思い出話は、本当に不思議だ。その記憶は一体どこにしまってあるのだろう。
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