【異世界恋愛短編集】冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。

石河 翠

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5.編み物好きなお姫さまの結婚

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 とうとう王さまは言いました。

「編み物をやる時間を、もっと他のことにあててほしいのだが」

 お姫さまはとても才能あふれる素晴らしい女性です。お姫さまが無駄な編み物にかける時間を他のことに使えば、この国はますます発展してよい国になるでしょう。けれどお姫さまは、ゆっくりと首を横に振りました。

「私にとって編み物は、何よりも大切なものです。何人たりとも、私から編み物を取り上げることなどできません」
「だが、お前には編み物の才能はない。お前が昔から大変な努力をしていることはみなよくわかっている。お前の母親も祖母も、国一番の編み物の名手と呼ばれる侯爵夫人も、工房の職人たちだって、お前の努力は高く評価していた。残念ながら才能がないだけだ」

 王さまの言う通り、お姫さまは大層な努力家でした。彫刻だろうが、刺繍だろうが、調薬だろうが、どんなことでもそつなくこなすお姫さまは、決して努力を軽んじることはありません。自分ができないのはなぜなのか、常に自分自身を見つめ直しながら何度も何度も繰り返し練習していたのです。

 それでもお姫さまの編み物は、酷い出来でした。編み図が読めないわけではないのです。毛糸だって細い物から太い物まで、素材を変えながらいろいろと試していました。教えてくれる先生だってたくさんいます。けれどどんなに頑張ってもお姫さまが作ると、とんでもない代物が完成するのです。ほどけば何度だって作り直せるのが編み物の良いところのはずなのに、お姫さまが作った編み物は糸をほどくことさえできないのでした。

「編み物が欲しいならばデザインだけお前が決めてしまえばよいであろう。お前は良い絵を描くことができるのだから、それを見れば職人たちも喜んで作ってくれるはずだ。この国の冬の流行にもなる。何より時間と金を有効活用することができるのだ」
「まあ、お父さま。お父さまは髪の毛が欲しいからといって、かつらをご購入になられるのですか? 自分の髪の毛でなければ意味がないと、無駄と知りながら育毛剤を毎晩せっせと頭に振りかけていらっしゃるではありませんか!」
「無駄とはなんだ、無駄とは。わたしの育毛剤は有用だ。何と言っても、最近は抜け毛がすっかり減っているのだから!」
「それは抜けるべき本体がすでに少なくなっただけではございませんこと? 抜けるべきものがなくなれば、抜けたものが減るのは当然のことでございます」

 大好きな編み物を時間とお金の無駄だとけなされたお姫さまは、お姫さまにしては珍しく父親に向かって辛辣な言葉を並べたてました。いつもは育毛剤を無意味な浪費だと頭をおさえる母親たちに、「お父さまの好きにさせてあげてくださいな」と庇っているはずのお姫さまとは思えません。売り言葉に買い言葉。涙目になった王さまは、とうとう大きな声で叫びました。

「そんなに編み物がやりたいと言うのなら、大蜘蛛の嫁にでもなってしまえばよい!」
「まあ、ありがとうございます。喜んでそうさせていただきますわ」

 白銀の国と隣国との国境沿いには、大きな森があります。そこには以前から大蜘蛛が住み着いているのです。お姫さまの国では大蜘蛛のために小さな神殿を作りお供え物をしておりました。とはいっても、捧げるものはうら若き乙女などの生贄ではありません。美味しい食べ物を送ると大蜘蛛が喜んで上質な糸をくれるので、ちょっとした物々交換のような意外と穏やかな関係です。

 それでも王さまは、大蜘蛛とふたりきりで暮らすことなどお姫さま育ちの娘にはできないだろうとたかをくくっておりました。けれどお姫さまは、王さまの言葉を聞くと喜んで王城を出て行ってしまったのです。
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