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12.お化けひまわりと「僕」のおはなし
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「彼」に植えてもらったお化けひまわりは、すっかり大きくなった。今日も今日とて、油断なくアパートの周りを監視してくれている。ありがとう。頑張ってね。そう声をかければ、ひまわりはかしこまりましたと言わんばかりにシャキンっと背筋を伸ばした。
そう、この子は特別なの。決してただの、大きなひまわりなんかじゃないわ。よくよく目を凝らしてみれば、真ん中の茶色い部分には、銀色に輝く鋭い歯があることがわかるはず。最初はちょっとだけやんちゃなひまわりだったけれど、上下関係がわかるようにしっかり躾けてあげれば、素直に言うことを聞くようになった。いい子ね。賢い子は好きよ。
ちなみに、特に肥料は与えていない。普通のジャンボひまわりは、定期的に肥料を与える必要があるらしいから、「彼」は、液肥を買おうとしていたけれど。ふふふ、だって、十分にこの花壇の土は肥えているもの。あんまり栄養を摂り過ぎるのは、逆に体に毒よね。フォアグラなひまわりなんてイヤでしょ?
井戸から汲み上げたばかりの冷たいお水を、たっぷりとひまわりにかけてあげる。見ていて気持ちいいほど、水が土に染み込んでいく。その具合に、ああ喉が渇いていたのだなあとわたしまで嬉しくなった。管理人さんもにこにこしている。美味しいお水をたくさん飲んで、もっと大きくなってね。ひまわりが嬉しそうにゆらゆら揺れた。
ぐ、ぐ、ぐおおおおおお
「まあ、今日も活きがいいですこと」
管理人さんが嬉しそうにひまわりの根元を覗き込んだ。このひまわりの真下には、店子の人魚を殺して喰らい、不老不死になった男が閉じ込められている。死なないということもあって、ひまわりにとってはちょうど良い肥料代わりだ。腹黒さが移らないか気がかりだったけれど、今のところその心配はないみたい。
毎日がりがりのミイラになるまで栄養を吸われ、自然の恵みたっぷりの美味しい水によって、また瑞々しい体を取り戻す。素敵、究極のエコ肥料ね。ぐ、ぐ、ぐぐぐんと、ひまわりが目の前で大きくなった。その横を黒いもやがひゅっと横切る。
あ、「虫」だ。このアパートには選ばれたひとしか来ることができないはずなのに、時々こうやって「虫」が迷い込む。ここ最近はその頻度が、以前よりも多くなった。やっぱり、仕方ないことなのかしら。わたしはそっとため息をつき、ひまわりを撫でる。さあ、ひまわり警備員。出動よ!
じゃきん。じゃき、じゃき、じゃき、じゃき。
ぴかぴかに輝く牙は、鋭利なはさみにも似ている。それが頭からぱくりと、「虫」を飲み込んだ。うーん、今日もお見事。「虫」の種類はひとの中に生まれる淀みであったり、低級の鬼であったり。いずれにせよ、「彼」に大事にされているひまわり警備員の敵ではないわ。かみかみ、もぐもぐ、ごっくん。あらまあ、今日もいい食べっぷりね。続いて、ひまわりは2匹目を口に入れた。
「あんまり食べ過ぎちゃ、ダメですよ。百鬼夜行のみなさんが、最近お客さまがいらっしゃらないと残念がってますので」
管理人さんの言葉を聞いていたのか、未消化の「虫」が吐き戻された。うん、これくらいならお客さまになるかな? ひくひくと震えるもやは、どうやら生き霊みたいだけれど、ここまできちゃうともう戻るのは無理だろうなあ。
それにしても、根っこから養分を吸収するのと、口から栄養を吸収するのでは何か違うのかしら。わたしは首を傾げつつ、ひまわりの口を覗き込んだ。すかさず思いっきりゲップをかけられたので、お仕置きとしてしばらく氷漬けにしておく。それでも枯れないんだもの、やっぱりお化けひまわりの名前は伊達じゃないわね。
「妾の『えきす』がたっぷり染み込んだ水を飲んでおるのだ。強くなるに決まってるであろう」
いきなり水着姿の川辺さんが、井戸の底から上がってきた。わたしじゃあ着ることのできないマイクロビキニ。……く、悔しくなんてないもん!
っていうか、井戸の中で水浴びするのは素で止めてほしいんですけど。確かに水やりとか庭いじり後の手洗いくらいにしかここの井戸は使わないけれど、ひとが使った残り湯だと思うとやっぱり気持ち良いものじゃあないわね。
しかも、井戸の幽霊がまたしくしくないてるし。あなたも泣くくらいなら、もう少し頑張りなさいよ。毎回、河童に井戸を取られてどうするの。「あさがおに つるべとられて もらいみず」なら風流だけど、幽霊が河童に家をとられてちゃあ、話にならないでしょ! ああ、もう、悪かったってば。泣き止みなさいって。まったく、この自由人――ひとじゃないけど――に注意をできるのは、ただひとり。
「川辺さん、井戸の中で涼まないでくださいと何度申し上げたらおわかりになりますか?」
静かな怒りに燃える管理人さんが怖い。この後河童ギャルは、「漏らすかと思ったわい」と涙目になるまでお説教されていた。これに懲りたら、もう少し色々と慎んで欲しいものだわ。
そう、この子は特別なの。決してただの、大きなひまわりなんかじゃないわ。よくよく目を凝らしてみれば、真ん中の茶色い部分には、銀色に輝く鋭い歯があることがわかるはず。最初はちょっとだけやんちゃなひまわりだったけれど、上下関係がわかるようにしっかり躾けてあげれば、素直に言うことを聞くようになった。いい子ね。賢い子は好きよ。
ちなみに、特に肥料は与えていない。普通のジャンボひまわりは、定期的に肥料を与える必要があるらしいから、「彼」は、液肥を買おうとしていたけれど。ふふふ、だって、十分にこの花壇の土は肥えているもの。あんまり栄養を摂り過ぎるのは、逆に体に毒よね。フォアグラなひまわりなんてイヤでしょ?
井戸から汲み上げたばかりの冷たいお水を、たっぷりとひまわりにかけてあげる。見ていて気持ちいいほど、水が土に染み込んでいく。その具合に、ああ喉が渇いていたのだなあとわたしまで嬉しくなった。管理人さんもにこにこしている。美味しいお水をたくさん飲んで、もっと大きくなってね。ひまわりが嬉しそうにゆらゆら揺れた。
ぐ、ぐ、ぐおおおおおお
「まあ、今日も活きがいいですこと」
管理人さんが嬉しそうにひまわりの根元を覗き込んだ。このひまわりの真下には、店子の人魚を殺して喰らい、不老不死になった男が閉じ込められている。死なないということもあって、ひまわりにとってはちょうど良い肥料代わりだ。腹黒さが移らないか気がかりだったけれど、今のところその心配はないみたい。
毎日がりがりのミイラになるまで栄養を吸われ、自然の恵みたっぷりの美味しい水によって、また瑞々しい体を取り戻す。素敵、究極のエコ肥料ね。ぐ、ぐ、ぐぐぐんと、ひまわりが目の前で大きくなった。その横を黒いもやがひゅっと横切る。
あ、「虫」だ。このアパートには選ばれたひとしか来ることができないはずなのに、時々こうやって「虫」が迷い込む。ここ最近はその頻度が、以前よりも多くなった。やっぱり、仕方ないことなのかしら。わたしはそっとため息をつき、ひまわりを撫でる。さあ、ひまわり警備員。出動よ!
じゃきん。じゃき、じゃき、じゃき、じゃき。
ぴかぴかに輝く牙は、鋭利なはさみにも似ている。それが頭からぱくりと、「虫」を飲み込んだ。うーん、今日もお見事。「虫」の種類はひとの中に生まれる淀みであったり、低級の鬼であったり。いずれにせよ、「彼」に大事にされているひまわり警備員の敵ではないわ。かみかみ、もぐもぐ、ごっくん。あらまあ、今日もいい食べっぷりね。続いて、ひまわりは2匹目を口に入れた。
「あんまり食べ過ぎちゃ、ダメですよ。百鬼夜行のみなさんが、最近お客さまがいらっしゃらないと残念がってますので」
管理人さんの言葉を聞いていたのか、未消化の「虫」が吐き戻された。うん、これくらいならお客さまになるかな? ひくひくと震えるもやは、どうやら生き霊みたいだけれど、ここまできちゃうともう戻るのは無理だろうなあ。
それにしても、根っこから養分を吸収するのと、口から栄養を吸収するのでは何か違うのかしら。わたしは首を傾げつつ、ひまわりの口を覗き込んだ。すかさず思いっきりゲップをかけられたので、お仕置きとしてしばらく氷漬けにしておく。それでも枯れないんだもの、やっぱりお化けひまわりの名前は伊達じゃないわね。
「妾の『えきす』がたっぷり染み込んだ水を飲んでおるのだ。強くなるに決まってるであろう」
いきなり水着姿の川辺さんが、井戸の底から上がってきた。わたしじゃあ着ることのできないマイクロビキニ。……く、悔しくなんてないもん!
っていうか、井戸の中で水浴びするのは素で止めてほしいんですけど。確かに水やりとか庭いじり後の手洗いくらいにしかここの井戸は使わないけれど、ひとが使った残り湯だと思うとやっぱり気持ち良いものじゃあないわね。
しかも、井戸の幽霊がまたしくしくないてるし。あなたも泣くくらいなら、もう少し頑張りなさいよ。毎回、河童に井戸を取られてどうするの。「あさがおに つるべとられて もらいみず」なら風流だけど、幽霊が河童に家をとられてちゃあ、話にならないでしょ! ああ、もう、悪かったってば。泣き止みなさいって。まったく、この自由人――ひとじゃないけど――に注意をできるのは、ただひとり。
「川辺さん、井戸の中で涼まないでくださいと何度申し上げたらおわかりになりますか?」
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