黒金王子の最愛

嘉藤 静狗

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本編

15話 side・ラーミナ

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 私が彼らと初めて出会ったのは、十二歳の誕生日を前にした夜のことだった。

 その頃すでに私は母亡き後、その少し前に亡くなった父の後を継いで伯爵位に着いた叔父に引き取られて、養女として暮らしていた。
 叔父は父と二歳しか変わらないからか、酷く父と似ている。──しかもそれは、見た目だけではなく性格的にもだというから驚きだ。
 そのことを叔父に話したところ、
「あ~、やっぱり?
僕と兄上と、それから母方に一人従弟がいるんだけど~、昔その三人でうちの領地にある街に行ったときにね~領民に『三つ子ですか?』って聞かれたことがあるんだ~」
 と、大変にこやかに答えてくれた。……ちなみに言葉尻が間延びするのは、生来のクセらしい。
 そんな叔父は、やっぱり父と同じく私を可愛がってくれる。一応の建前として必要な最低限の“令嬢教育”の時間以外は、わりと自由にさせてくれるのだ。私はその自由な時間を使って、伯爵領に孤児院に通っている。
 最初は皆、私が突然《お嬢様》になっちゃったことに驚いていたけれど、会いに行くととっても喜んでくれた。
 そして、そこでは王都にいた頃のように絵本を読んであげたり、一緒にお歌を歌ったり、お母さんから教えてもらった躍りを披露したりと、数々の令嬢らしからぬ行動を黙認された。
 ……まぁ、踊りはさすがに護衛の騎士さま方に微妙な顔をされるんだけどね。


 そんな慌ただしくも温かい日々を送っていると、私は亡き両親を想って涙することすら忘れていた。
 でも、薄情だとは思ってない。
 母は亡くなる直前まで私にずっと「笑っていてね。涙は女の武器なんだから、いざというときまでとっておきなさい」と言っていたし、父の遺言状にも、“ラーミナの笑顔が好きだった”と書かれていた。
 だから、私にとって笑顔でいることこそが一番の親孝行だった。

 ……それでも、たまに無性に両親が恋しくなる日もあるわけで。

 特に、誕生日は特別だった。
 毎年その日だけは母は仕事を休んだし、父もどんなに忙しくても私に会いに来てくれた。
 領地から王都までは決して近いとは言えない距離なのに、だ。

 だから……あの日、私は思わずポツリと呟いてしまっていた。

「お母さん、お父さん、会いたいよ」

 そう言ってしまえば、涙は溢れて止まらなくなった。ベッドに飛び込んで、枕にぎゅっと顔を押し付けて、私は一人で嗚咽を堪えた。
(叔父さまが出掛けててよかった……)
 やがて気分が落ち着くと、急に冷静になった私はふとそう思った。
 もし、こんなところを見られたらあの父そっくりで心配性な叔父が慌ててしまう。
 そしたら、叔父は仕事をサボってしまうかもしれない。──以前、父の前で私と母が風邪をひいたとき、父がそうだったから。
 私はそこまで思うと、少し面白くなってクスクスと笑ってしまっていた。
 笑ったことで心が軽くなった私は、ベッドの上にいるのと相まって、そのままとろとろと眠りについてしまった。





 気がつくと、そこは真っ白な空間だった。

 天と地の間に境はなく、足元に影も差さないから、私はまるで空中に浮いているかのように錯覚した。
 ここは、一体どこなのだろう?

────こわい、こわいよ……

 不意に聞こえた、泣きそうな子どもの声。
 私は、反射的に顔をあげた。


────こわいよ、だれか……!

────どうしよう……もう、むりだよぅ

────くる、しい……たすけ、て……!!


 そのときには、すでに見知らぬ場所にいることへの不安感など吹き飛んでいた。
 助けを求めている子どもがいる。それだけで私は頭がいっぱいになり、方向も分からない中、思わず駆け出していた。

「どこ!?どこにいるのー!」

 私は孤児院で迷子になった子どもを探すときのように、大きな声で──それでいて優しい声を心がけて叫んだ。
 相手の名前が分かれば名前で呼ぶのだが、今はそれは叶わないだろう。

「お願い!出てきてー!」

 私は目印のない、ただ白いだけの世界をひたすらに真っ直ぐに走り続ける。
 もうすでに右も左も上も下も、何もかも分からないけど、それでも走らずにはいられなかった。 
 全身が熱い。肺が、喉が渇いて千切れそうだ。足もガクガクして、もう上がらない。でも、頭の中はやけ冴えていて、私は思いの外冷静だった。
 声の主は答えない。ならば──、

「皆、おいでーーーっ!」

 “皆”と言ったのは、ほぼ直感だった。
 そして、“おいで”と言ったのは、願望だった。
 もし、見知らぬ誰かである私が怖くて答えないなら、それでもいい。私は待つつもりだった。

(でも、どうか困っているのなら、私を頼ってほしい)

 そのとき、なぜか私は、会ったことがないはずの相手なのに心の底からそう願っていた。

 やがて、立ち止まって荒くなった息を、吸って吐いてで整えていると、私の足がついに限界に達してその場で崩れ落ちた。
 令嬢としては悪いと思いつつ、一番楽だからと胡座をかく。
 浅い呼吸を繰り返し、やっと一心地ついて、最後にふぅっとため息のように息を吐き出すと、後ろの方でシャランッと鈴のような音が響いた。振り返ると、

「やっと、みーつっけたっ!」

 そこには驚いたように目を見開く、三人の子どもがいた。
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