黒金王子の最愛

嘉藤 静狗

文字の大きさ
14 / 18
本編

12話

しおりを挟む

 ……輝く黒曜石の髪に、みどりの環を抱く淡褐色ヘーゼルの瞳。
 男の子なのに、いっそその表情は酷く儚げで、今にも崩れて消えていってしまいそうだった。
 でも、彼が笑うと、急に辺りに光が差したように明るくなる。そして、だんだん私の心が温かくなっていく。
 どこか脆く危うく見えるのに、その実どこまでも純粋で美しい彼。

 そんな彼のことを私は、何故かとても大切にしてあげたいと思った────。












「ん……ぅう?」

 ベッドの方から微かな声がして、うとうとと微睡みかけていたオレの意識が一気に覚醒する。
「目が覚めたのか!?」
 ラーミナの方に顔を寄せると、さっきまで固く閉じられていた目が薄く開いていた。
 しかし、まだ寝惚けているのか、ぼんやりとした表情カオで、焦点の合わない目をゆらゆらとさせている。
「……無理は、するな」
 オレはラーミナの額に手を当てて熱を測る。……おおよそしか分からないが、たぶん微熱がある。
 オレはすっと意識を集中させると、ラーミナの額に手を置いたまま魔法をかけた。手のひらからひやりとした微かな冷気が溢れる。
「……ふぅっ、ぅん」
 ラーミナは再び目を閉じて僅かに身動ぎする。……漏れでる吐息は思いの外熱っぽく、どこか艶やかにも思った。
(……って、なに考えてんだよ!オレは!)
 自分の中に浮かんだ邪念を払うようにかぶりを振って、ラーミナの額から手を離す。


 彼女が倒れた原因は、体内魔力が急激に減ったことによる負荷だったようだ。先ほど、同じ理由でレド兄上もダウンしたと聞いた。
 まったく、レド兄上も一応は王子のくせしてなにやったんだか……。オレに報告しに来た部下も涙目だったし、これ以上ヤローにモテて婿の貰い手も、来る嫁もいなくなったらどーすんだかね。最終手段で薔薇園にでも行くか?
 ……おっと、閑話休題。とにかく、体内魔力が一度切れると自然に魔力が回復するまで動けないらしい。
 あの場で英雄的活躍を見せた彼女を、一時的とはいえオレの部屋こんなところに連れてきたのは、理由があるのだ。
 オレたちが魔獣と戦ったあの庭は、実は避難場所からも見える位置にある。
 彼女は正体を隠すような格好をしていたからか、招待客にはどこの誰かとまでは分かっていない。……だからこそ危ういのだ。
 もし、彼女を一般病室──もとい、病院塔──に入れて、彼女が誘拐されるようなことが起きたとき、彼女は抵抗することができないのだ。
 今は騎士団にも怪我人が多いし、王宮全体が疲弊している状況。人ひとりぐらいなら、連れ出せる可能性がある。
 そもそも、なぜ彼女が誘拐されることを前提にしているのかというと──彼女の力はそれほどまでにも圧倒的だったからだ。
 貴族連中はいつも力を欲している。
 財力、権力、武力etcエトセトラ……そんな輩にとって、彼女ほど魅力的な者はいない。
 なにせ、文字通り一騎当千の麗しい姫君だ。彼女が平民なら、間違いなく権力にものを言わせて引っ張る手が数多だろう。
 が、実際は恐らく庶子とはいえ貴族の娘だ。それも、国を代表する魔法使いの家柄筆頭のホレフティス伯爵家の一人娘。
 知らずとはいえ彼女を誘拐すれば、伯爵とかの家に連なる貴族家が黙っていないだろう。決闘で済まされればいいが、おそらく戦争になる。そうなれば魔法使いの独壇場だ。
 そして、下手すれば彼女を守りきれなかった王宮もその標的にされかねない。……負けはしないだろうが、悲惨な状況になるのは目に見えている。

 だから、彼女を匿うのはオレとなる。

 昔とった杵柄……というべきだろうか、オレが引き篭っていた頃の名残で、オレの部屋は他の兄弟に比べると少し奥まったところにある。
 ここには、滅多なことじゃ人は来ない。
 それにオレには専用の侍女も従僕もいないし、大抵のことは自身でできる。それができる設備も揃っているのだ。
 シュタール兄上に言わせれば、「まるで王宮いえの中にお前の家があるようだね」とのことだ。つまり家in家。
 それに、オレは良くも悪くも目立つ存在だ。
 一時期は人間不信気味でも有名だったし、まさか自室に人を匿う真似ができるような奴じゃないと思われている。
 ……まぁ、望んで人を入れたのは初めてであることは否定しない。
 ただでさえ王族の私室は守りが固いし、王族自身は護身の魔法も、城のも色々と知っている。
 ということで、おそらく彼女を匿うのにここより安全な場所はないわけだ。


「ラーミナ……」
 一度は離れたものの、やはり何となく惹かれてオレは彼女の傍に寄ってしまう。
 微かな寝息をたてて静かに眠る彼女は、戦闘時の壮絶な姿とは違い、どこかあどけなく愛らしい。なんというか……そう、どうにも庇護欲が沸くのだ。
(これがギャップ萌えというやつなのか……!?)
 ベッドの中の仔犬のような少女を前に、オレはハッと思い至る。
 いつだったかミーカ姉上がオレに熱く語ってくれた話を思い出す。……内容はレド兄上の王子の時と騎士の時とのギャップについてだったから、なんとも言えない気分になったが。
 だが、今なら分かる。
「これは……かわいいな」
 場違いとは思うが、思わずそんな言葉が口からぽろりと漏れてしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...