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本編
12話
しおりを挟む……輝く黒曜石の髪に、翠の環を抱く淡褐色の瞳。
男の子なのに、いっそその表情は酷く儚げで、今にも崩れて消えていってしまいそうだった。
でも、彼が笑うと、急に辺りに光が差したように明るくなる。そして、だんだん私の心が温かくなっていく。
どこか脆く危うく見えるのに、その実どこまでも純粋で美しい彼。
そんな彼のことを私は、何故かとても大切にしてあげたいと思った────。
*
「ん……ぅう?」
ベッドの方から微かな声がして、うとうとと微睡みかけていたオレの意識が一気に覚醒する。
「目が覚めたのか!?」
ラーミナの方に顔を寄せると、さっきまで固く閉じられていた目が薄く開いていた。
しかし、まだ寝惚けているのか、ぼんやりとした表情で、焦点の合わない目をゆらゆらとさせている。
「……無理は、するな」
オレはラーミナの額に手を当てて熱を測る。……おおよそしか分からないが、たぶん微熱がある。
オレはすっと意識を集中させると、ラーミナの額に手を置いたまま魔法をかけた。手のひらからひやりとした微かな冷気が溢れる。
「……ふぅっ、ぅん」
ラーミナは再び目を閉じて僅かに身動ぎする。……漏れでる吐息は思いの外熱っぽく、どこか艶やかにも思った。
(……って、なに考えてんだよ!オレは!)
自分の中に浮かんだ邪念を払うように頭を振って、ラーミナの額から手を離す。
彼女が倒れた原因は、体内魔力が急激に減ったことによる負荷だったようだ。先ほど、同じ理由でレド兄上もダウンしたと聞いた。
まったく、レド兄上も一応は王子のくせしてなにやったんだか……。オレに報告しに来た部下も涙目だったし、これ以上男にモテて婿の貰い手も、来る嫁もいなくなったらどーすんだかね。最終手段で薔薇園にでも行くか?
……おっと、閑話休題。とにかく、体内魔力が一度切れると自然に魔力が回復するまで動けないらしい。
あの場で英雄的活躍を見せた彼女を、一時的とはいえオレの部屋に連れてきたのは、理由があるのだ。
オレたちが魔獣と戦ったあの庭は、実は避難場所からも見える位置にある。
彼女は正体を隠すような格好をしていたからか、招待客にはどこの誰かとまでは分かっていない。……だからこそ危ういのだ。
もし、彼女を一般病室──もとい、病院塔──に入れて、彼女が誘拐されるようなことが起きたとき、彼女は抵抗することができないのだ。
今は騎士団にも怪我人が多いし、王宮全体が疲弊している状況。人ひとりぐらいなら、連れ出せる可能性がある。
そもそも、なぜ彼女が誘拐されることを前提にしているのかというと──彼女の力はそれほどまでにも圧倒的だったからだ。
貴族連中はいつも力を欲している。
財力、権力、武力etc……そんな輩にとって、彼女ほど魅力的な者はいない。
なにせ、文字通り一騎当千の麗しい姫君だ。彼女が平民なら、間違いなく権力にものを言わせて引っ張る手が数多だろう。
が、実際は恐らく庶子とはいえ貴族の娘だ。それも、国を代表する魔法使いの家柄筆頭のホレフティス伯爵家の一人娘。
知らずとはいえ彼女を誘拐すれば、伯爵とかの家に連なる貴族家が黙っていないだろう。決闘で済まされればいいが、おそらく戦争になる。そうなれば魔法使いの独壇場だ。
そして、下手すれば彼女を守りきれなかった王宮もその標的にされかねない。……負けはしないだろうが、悲惨な状況になるのは目に見えている。
だから、彼女を匿うのはオレとなる。
昔とった杵柄……というべきだろうか、オレが引き篭っていた頃の名残で、オレの部屋は他の兄弟に比べると少し奥まったところにある。
ここには、滅多なことじゃ人は来ない。
それにオレには専用の侍女も従僕もいないし、大抵のことは自身でできる。それができる設備も揃っているのだ。
シュタール兄上に言わせれば、「まるで王宮の中にお前の家があるようだね」とのことだ。つまり家in家。
それに、オレは良くも悪くも目立つ存在だ。
一時期は人間不信気味でも有名だったし、まさか自室に人を匿う真似ができるような奴じゃないと思われている。
……まぁ、望んで人を入れたのは初めてであることは否定しない。
ただでさえ王族の私室は守りが固いし、王族自身は護身の魔法も、城の仕掛けも色々と知っている。
ということで、おそらく彼女を匿うのにここより安全な場所はないわけだ。
「ラーミナ……」
一度は離れたものの、やはり何となく惹かれてオレは彼女の傍に寄ってしまう。
微かな寝息をたてて静かに眠る彼女は、戦闘時の壮絶な姿とは違い、どこかあどけなく愛らしい。なんというか……そう、どうにも庇護欲が沸くのだ。
(これがギャップ萌えというやつなのか……!?)
ベッドの中の仔犬のような少女を前に、オレはハッと思い至る。
いつだったかミーカ姉上がオレに熱く語ってくれた話を思い出す。……内容はレド兄上の王子の時と騎士の時とのギャップについてだったから、なんとも言えない気分になったが。
だが、今なら分かる。
「これは……かわいいな」
場違いとは思うが、思わずそんな言葉が口からぽろりと漏れてしまった。
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