異世界で勇者兼聖女なりました!……が、現在ドラゴンにストーカーされてます!?

嘉藤 静狗

文字の大きさ
12 / 43
第0章 『辞職からの転生』編

とある管理者の独白

しおりを挟む

「ちゃんと届いたみたいだよ。清明さやか、さん」

 ボクは、清明さんの弟──悠音ゆうとくんに手紙を届けてから、しばらくその様子を見守っていた。
 ……この『手紙』の存在は、本来のシナリオに無かったものだ。これがどんな影響を及ぼすものか──と、警戒していたけど。

「杞憂、だったみたいだ。
 立ち直るのが早くなっただけだね」

 思わず、ホッと息を吐いた。
 よかった。これで影響が出てしまうなら、手紙を渡したことをにしなくちゃならない。……手紙を届けた事実は変わらないけど、それじゃ約束を守ったとは言えないから。


 しかし、この二人はよく似ている。
 ……顔立ちじゃなくて、内面が。見た目は父似な姉と母似な弟とでハッキリ分かれてるけど、育ってきた環境の所為せいか、根本的な部分が同じだ。おおらかで、天然なところが。

 ……だって、普通『異世界転移・転生』なんて、信じられると思う?いや、確かに生まれ変わりを信じる人や神隠しが実際にあると思っている人たちがいることは知ってるよ。
 でも、この勇谷いさみや姉弟は、あくまで一般家庭で育ってきたのだ。だから、まさかあそこまで抵抗なく信じられるとは──思っても、みなかった。
 特に悠音くんには、ね。本当に、吃驚だよ。


 ……さて、あまりに長くうつつにいると、ボクこそシナリオ狂わせの原因になりかねない。少し名残惜しい気もするけど、そろそろ行かなきゃ。

「……もう、戻ろうか」

 いつからか、すっかり習い性になってしまった独り言を呟くと、ボクはまたあの空間へと消えた。





 ボク──イリオスヴァスィレマという存在が、いつ発生したのか。
 それは、つい最近のことの気がするし、悠久より向こうの出来事だった気もする。ようは、分からないのだ。
 でも、気がついたらここにいた。この真っ白で何もない空間に、独りきりで。
 それからは時折、どこからか聞こえてくる指示通りに、ヒトやモノを異世界転移・転生させる日々。『寂しさ』からか、時々ヒトに会うとついついお喋りが過ぎるのだ、この口は。
 ……どうせなら、感情なんて要らなかったのに。


 そんな中でボクが彼女と会ったのは、まったくの偶然だ。

 その時も、天の声(?)に従ってヒトを呼び寄せただけだった。天の声はいたくこの世界を気に入っているらしくて、転移・転生対象を連れ出すことはよくあった。でも、今回はどうも毛色が違うらしい。……何となく、切羽詰まっているような?
 周囲の目──監視カメラも含む──がないことを確認して、ボクは彼女をここに召喚しようとして──。

「───っ!何これ!?本当にこの子、人間っ!?」

 空間一つを任されるほどの支配者たるボクに、対抗しうる莫大な力。人間風に言うと、神の領域だろうか。
 一瞬の気の緩み、迷いがボクという存在の消滅に繋がる──そう、確信できた。だから、彼女を『転生』させろ、なんて命令が下ったのか、とも。

「や、ばっ!あは、ボク、終わるかも───」

 あぁ、でも。
 それもいいかもしれない。

 なにせ、ここは酷く退屈で孤独だ。消えてしまえば、このとしての感情は救われる。
 ……ボクとしてのイリオスヴァスィレマは、解放されるかもしれない、と。

 そんなことを思った。その瞬間だった。

「~~~っ、ひゃーぁっくしゅんっっっ!」

「へ?」

 どこか間の抜けた盛大なくしゃみが聞こえて、それまで梃子てこでも動かんとばかりだった抵抗が、あっさりと消えた。
 そして、ずるり、と大きな蕪が抜けるように。彼女──清明さんは、ここにやって来たんだ。





 それからは、楽しかった!
 まずおこなったのは、彼女への事情説明。途中で落ち込ませちゃったり、脅されたりもしたけど、すぐに理解してくれた。
 ……たまにこのタイミングで発狂したり、暴走したりする子がいるけど、その子たちみたいに精神を縛る必要がなくて楽だった。


 次のステ振りも面白かったしね!
 彼女の初期値は、確かにすごかった。けど、このボクと渡り合えた彼女としては、そうでもないんだよ?転生する分で、やっぱり弱ってるからかなぁ。
 ……ちょっと悔しくなって、思わず彼女に内緒で『特典』をつけてしまった。テヘッ☆


 あと、装備品決めも良かったよ!
 ボクと清明さんの趣味は近いのか、型を決めるときはすんなりと行った。
 動きやすいズボンに、ヒールはないけど丈夫な厚底安全ブーツ。トップスはシンプルなカットソーにしたけど、その上にはいかにもファンタジーなローブを重ねた。フードに飾りでケモミミをつけたときは、つい二人で篤く握手を交わしてしまった!
 問題はカラーリングだったけど、熱い論戦の結果、基礎にブルーグレーを入れることでまとまった。やれやれだ。
 刺青──本当は神印紋しんいんもんと呼ぶ──の方は彼女に任せたけど……流石と言うかなんと言うか。中々に女の子らしいデザインだった。
 デザインの桜が入ってるのは、日本人転移・転生者にありがちだけどね。綺麗だったよ。


 常識のお勉強も……まぁ、したけど。
 清明さんの転生先は、ボクが自由にしていいと言われて創った世界だ。よって、ボクがルールなんだけど……あれぇ?いつからこんな風習できたのだろう?しばらく放置してた所為かも。
 ……うん、今度からもう少し面倒みてあげよう。彼女も行くことだし。

 あ、そうそう。
 この時、お金とか食料とかのことに気づいたんだよ!
 お金は清明さんの日本円での所持金と銀行預金をそのまま転生先で使えるように換金して、用意した食料代だけは引かせてもらった。……値切られまくったけどね!


 そんなこんなで、二人で面白可笑しく準備を進めていたんだけど。
 ……やっぱり、別れはくるもので。つい、

「淋しくなるなぁ……」

 なんて言ってしまった。
 すでにボクにとって彼女──清明さんの存在は、友人であり、大切な娘だった。
 『かわいい子には旅をさせよ』とは、彼女の故郷にあることわざ。でも、この手から離れて行くのは──旅立って行くのを見るのは、何だかね。痛かったよ、心が。
 だから、最後に清明さんにはボクの加護を与えた。何か、明確な繋がりを残したくて。
 ……その為に額にキスした時の彼女は、さいっこうに可愛かった!





 あの後、清明さんはすぐに行ってしまったけど。彼女の声はちゃーんと聞こえていたよ。

「『必ず、会いに来るから』かぁ……」

 ボクは、思わずクスクスと笑みをこぼした。どうやら、ボクはあの子には敵いそうもないや。

「『またね』、清明」

 ボクはもう、孤独ひとりじゃない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...