異世界で勇者兼聖女なりました!……が、現在ドラゴンにストーカーされてます!?

嘉藤 静狗

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第2章 『対・四天王①』編

とあるモブ冒険者Aの困惑

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───ヤバいっ、ヤバいヤバいヤバいぃ!

 完っ全に油断していた。
 まさか、あんな奴に目ぇつけられるなんて!


 この森の近辺は、元々あんまり強い魔物や魔獣はずで。駆け出し冒険者なんかがよく訓練で使うエリアだ。
 かくいう俺も、Dランク。まだまだ下っ端なのだ。だから、ここらの依頼を受けていたのに。

「な ん でっ、あんなのに追いかけられるんだ~っ!」

 特に深い所まで行ったわけじゃない。
 なんせ、奥地ほど強いのがいるからな。手柄より安全優先で、俺は基本的に森の中でも浅い所にしか行かない。……臆病者チキンじゃなくて、堅実と言ってくれ!

 けれど、俺の後ろにいる奴は、どうみたって初心者が勝てるような相手じゃねぇ。
 つーか、初めて見たわあんなバケモン!

「「「「「キチキチキチキチキチチィッ」」」」」
「ギッシャアァアァアァアァアァアッッ」

 けたたましく鳴き声を上げて突進してくる大蜘蛛──の、群れ。サイズは大体小型犬ほど。
 ……一匹ならまだ倒せただろうに、この数はさすが酷くね!?なぁ、神様!
 し か も 、さらにその後ろには、明らかに上位種とおぼしき個体。大きさと言い、色味と言い、声と言い……勝てる気がしねぇ!
 うん、生存は絶望的だ!

 って、んなこと考えてる暇ねぇわ!

「わあぁぁぁっ!来るなぁ───んげふっ!」

 余計なことに気を取られてたせいで、木の根っこに躓いて、派手に地面に転がった。
 あれ、これマジでオワタ?嘘だろ??

 呆然としている間にも、奴らと俺との距離は縮まっていく。カチカチと牙を鳴らして、ジリジリとにじり寄って。ふと、牙を伝った謎の液体が地面に落ちて、ジュウゥ……ッと落ち葉を焦がした。
 な、え、あれ……ヤバくね?

 も、逃げたいのに、足が竦んで全然動かねぇ。
 いや、そもそも転んだ時に捻ったらしい。すごくいてぇ。
 つまり、どっちみち、走れそうには、ない。

(あ、俺───マジで、死ぬ?)

 『死』を強烈に意識した瞬間、俺は頭ん中がサーッと真っ白になった。
 信じたくない。けれど、現実はその時に向かって針を進めていく。

「や、やめっ」

 剣を滅茶苦茶に振るい、みっともなくもがいて。腰が抜けたまま、必死に後退する。
 いやだ、まだ死にたくねぇ。


 でも、その願いも虚しく、一番近くに寄ってきていた個体が、俺の足に飛び乗った。ひっと、反射的に喉奥から悲鳴が上がる。
 もう、ダメだ──そう、思った。
 そのときだ。


[───顕現、《雪華嵐セッカラン》]

 甘さを帯びた、低めの女声──それと同時に、ヒョオォゥ……と冷たい風が吹き荒れる。
 思わず目を瞑ると、足の上にいた蜘蛛が居なくなった気配がした。
 いや、それだけじゃねぇ。微かだけど、蜘蛛たちの「ギチィ」やら「キシシッ」と言った断末魔が聞こえてくる。

「……チッ、さすがに上位種は、簡単にゃいかんね。
 キレイに狩れた方が、価値が高いのに……」

 真横から聞こえたその勝ち気な台詞に、俺は顔を上げた。
 薄い青灰色のローブを着込んだ、中性的──と言うより少年のよう──な容姿の、魔導師と思われる少女。声音からして、さっきの魔法はこの子の使ったものだろう。
 と、取り敢えず……助かったと思ってもいいだろうか?

「お兄さん、これ食べてそこにいてね。……巻き込んじゃう」
「───?……っ!
 き、君っ!本当に大丈夫、なのか?あんな、巨大蜘蛛……」

 水色の飴玉を渡されて、一瞬呆けた。が、直ぐに我に返って叫ぶ。
 俺より年下にしか見えない彼女が、果たしてあんなバケモンに勝てるのか?……いや、普通無理じゃねぇ?
 恩人とはいえ、心配だ。……ところが、

「巨大蜘蛛?……あぁ、上位種、ね。
 ───はっ、よゆーよゆー」

 そう言って、少女はペロリと舌舐めずりさえしてみせた。
 見た目にそぐわぬ、妖艶な仕草。まるで、獲物を定めた獣のようで、俺は背筋がぞくりと冷えた。
 あと、そこはかとなく、エロかった。表情が。


 ……結論から言おう。
 この戦いは、圧倒的で一方的な殲滅戦になった。
 何が起きたかはよく分からなかったが、あのバケモンが抵抗する間もなく蹂躙されたのは見えた。
 雷をぶち当てられ、動けなくなったところで、身体が頭・胸・胴の三つに分かれていた。……もちろん、巨大蜘蛛の方が。
 それでもなお動く蜘蛛の身体は、次に少女が触れた瞬間に、カラカラに干からびた。頭と胸は、そのまま砂塵に帰して、残ったのは胴体部分のみ。いや、牙も残ったか。

「お兄さん、どう?【水】の回復魔法かけようか?……なんなら、ぶってく?」
 
 あっという間に戦闘を終えた少女は、無邪気にも俺に笑いかける。……何事もなかったかのように、平然と。
 でも、きっとその笑みはニセモンだ。
 そして、俺はごくりと生唾を飲み込んで、言う。

「君は……一体、誰?」


 俺の問いに束の間キョトンとして見せた少女。が、次の瞬間には、可愛らしい笑みの仮面を剥がして、苦笑した。
 彼女の左目にかかる前髪の、二筋の白いメッシュがふわりと揺れる。

「私?私のあざなは、ハルア・キラ。
 ───一応、駆け出しの冒険者やってます?」

 ……この時、内心で「嘘だろ!?」って叫んだ俺の反応は、たぶん間違ってないと思う。
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