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第1章 『最初の街』編
とある老人の微笑 ※前書き
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===*前書き*===*===*===
今回は、ちょい短め。(いつもより五百字ほど少ないです)
あと、次回から新章に入ります。
===*===*===*===*===
「……やれやれ、中々珍しいお客が来たもんさネェ」
ウキウキと歩き去って行く少女を見送りながら、老婆は呟く。
その目に浮かぶのは──懐古。
勇ましき後ろ姿に、遥か昔の自身を重ねていた。
老婆は、若かりし日に、ここ──《アトラスヴィル》で名を馳せた冒険者の一人である。最終ランクはAA。《アトラスヴィル》出身の女性としては、今もなお破られることのない最上位だ。
かつては『栄光の魔女』と呼ばれ、多くの《魔獣》や《魔物》を下し続ける日々を送っていた。
冒険者最盛期の当時は、トップランカーであることを鼻にかけて、随分と嫌味な性格をしていた。
なにせ、男と並んでも負けるとも劣らず、大抵の女では並ぶことすら出来ない。
正しく、強者の名を欲しいままにしていたのだ。
──ある存在が、現れるまでは。
拐われるように《アトラスヴィル》を去り、紆余曲折を経て、この世界を巡った。
もちろん、旅路は楽しいことばかりではなく、数多の理不尽にも、無力感にも苛まれた。だが、お陰で世界の広さを知ったのだ。
──《アトラスヴィル》で、『栄光の魔女』と呼ばれた自分は。
──もっと広い世間では、名も姿も知れぬ、ただの小娘同然の扱いだった。
美しくも、強い世界。
何度、生死を彷徨ったことだろう。……何度、彼に救われただろう。
妙齢の男女が二人で、互いに助け合う形で旅をしていれば、自然と惹かれ合うように、やがて、二人は夫婦となった。
……もっとも、最初から男の方は女にベタ惚れであり、伴侶となってもらいたいがために、女を故郷から連れ出したのだが。
旅の途中、二人の間には、男児が産まれた。
女は我が子を大事に慈しみ、男はそんな妻を愛した。
幸せな家族だったが、そのうち一人息子が成人を迎えると、あっさりと独り立ちしてしまった。
……二人の子は、種族としては男の方の血を引いていたため、その特性上、独立心がとても高かったのだ。
そして、ちょうどその頃、男の方が大分衰えを見せ始めた。
見た目には分かりにくかったが、男は女と会う前から、随分と長い時を生きていた。……そう、男に寿命が来たのだ。
『最期は、落ち着いた場所で』
と言う、男の数少ない希望を叶えるため、二人は女の故郷の程近く──《静寂峰》に向かった。
そして、そこで十年ほど過ごし、やがて男が亡くなった後、女は独り故郷へと帰っていった。
女が帰郷した時には、《アトラスヴィル》を出て数百年も経っていた。
そして、すでに街には、『栄光の魔女』の名を知る者は、ほとんどいない。…… また、女が『栄光の魔女』だと気づく者も。
彼女は、とっくに忘れ去られた存在になっていたのだ。
それでも、女は故郷を愛した。
──自身が産まれ、育った地であるが故に。
まず、旅の途中で得た知識を使い、女は魔水薬を服用しやすく、また安価な飴へと変えた。
他にも、あらゆる物──武器や装飾品、街の設備など──を改善し、街を発展させていった。
いつしか、女は凄腕の錬金術師として街の者に慕われるようになったのだ。
それから、また百年ほど経った今。
女は老いて、ただの雑貨屋の店主として、故郷の街を見守り続けている。
今日も来た少女は、もう街を去るらしく、名残惜しげに、しかし、大量に商品を買っていった。
……相当気に入ったようだ。
「あの子が、きっと───」
ねぇ、旦那様。
再び少女の後ろ姿を見送りながら、店主はそっと唇だけで、問い掛けた。
……老婆は、今日も微笑む。
日々変わりゆく街を、優しく見つめながら──。
今回は、ちょい短め。(いつもより五百字ほど少ないです)
あと、次回から新章に入ります。
===*===*===*===*===
「……やれやれ、中々珍しいお客が来たもんさネェ」
ウキウキと歩き去って行く少女を見送りながら、老婆は呟く。
その目に浮かぶのは──懐古。
勇ましき後ろ姿に、遥か昔の自身を重ねていた。
老婆は、若かりし日に、ここ──《アトラスヴィル》で名を馳せた冒険者の一人である。最終ランクはAA。《アトラスヴィル》出身の女性としては、今もなお破られることのない最上位だ。
かつては『栄光の魔女』と呼ばれ、多くの《魔獣》や《魔物》を下し続ける日々を送っていた。
冒険者最盛期の当時は、トップランカーであることを鼻にかけて、随分と嫌味な性格をしていた。
なにせ、男と並んでも負けるとも劣らず、大抵の女では並ぶことすら出来ない。
正しく、強者の名を欲しいままにしていたのだ。
──ある存在が、現れるまでは。
拐われるように《アトラスヴィル》を去り、紆余曲折を経て、この世界を巡った。
もちろん、旅路は楽しいことばかりではなく、数多の理不尽にも、無力感にも苛まれた。だが、お陰で世界の広さを知ったのだ。
──《アトラスヴィル》で、『栄光の魔女』と呼ばれた自分は。
──もっと広い世間では、名も姿も知れぬ、ただの小娘同然の扱いだった。
美しくも、強い世界。
何度、生死を彷徨ったことだろう。……何度、彼に救われただろう。
妙齢の男女が二人で、互いに助け合う形で旅をしていれば、自然と惹かれ合うように、やがて、二人は夫婦となった。
……もっとも、最初から男の方は女にベタ惚れであり、伴侶となってもらいたいがために、女を故郷から連れ出したのだが。
旅の途中、二人の間には、男児が産まれた。
女は我が子を大事に慈しみ、男はそんな妻を愛した。
幸せな家族だったが、そのうち一人息子が成人を迎えると、あっさりと独り立ちしてしまった。
……二人の子は、種族としては男の方の血を引いていたため、その特性上、独立心がとても高かったのだ。
そして、ちょうどその頃、男の方が大分衰えを見せ始めた。
見た目には分かりにくかったが、男は女と会う前から、随分と長い時を生きていた。……そう、男に寿命が来たのだ。
『最期は、落ち着いた場所で』
と言う、男の数少ない希望を叶えるため、二人は女の故郷の程近く──《静寂峰》に向かった。
そして、そこで十年ほど過ごし、やがて男が亡くなった後、女は独り故郷へと帰っていった。
女が帰郷した時には、《アトラスヴィル》を出て数百年も経っていた。
そして、すでに街には、『栄光の魔女』の名を知る者は、ほとんどいない。…… また、女が『栄光の魔女』だと気づく者も。
彼女は、とっくに忘れ去られた存在になっていたのだ。
それでも、女は故郷を愛した。
──自身が産まれ、育った地であるが故に。
まず、旅の途中で得た知識を使い、女は魔水薬を服用しやすく、また安価な飴へと変えた。
他にも、あらゆる物──武器や装飾品、街の設備など──を改善し、街を発展させていった。
いつしか、女は凄腕の錬金術師として街の者に慕われるようになったのだ。
それから、また百年ほど経った今。
女は老いて、ただの雑貨屋の店主として、故郷の街を見守り続けている。
今日も来た少女は、もう街を去るらしく、名残惜しげに、しかし、大量に商品を買っていった。
……相当気に入ったようだ。
「あの子が、きっと───」
ねぇ、旦那様。
再び少女の後ろ姿を見送りながら、店主はそっと唇だけで、問い掛けた。
……老婆は、今日も微笑む。
日々変わりゆく街を、優しく見つめながら──。
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