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第2章 『対・四天王①』編
モブ冒険者A改めアシルの猛省
しおりを挟む目覚めると、何か透明な膜のような物に覆われていた。
膜の向こうには、青い空と緑の木々。……どこだ、ここは?
(俺───確か、あの娘を追いかけて、それで。……それ、で?)
そうだ、そうだった。
俺を魔獣から助けてくれた、命の恩人の女の子。
何かワケありっぽいし、森の奥に独りで行きそうだから、気になって同行を申し出たら、バッサリきっぱりフラれたんだった。
でも、どうしても着いて行きたくて……らしくもなく、ギルド規定を違反してるって分かってながら、こっそり追いかけた。後ろめたいから、街門から出るときも人目につかないように気をつけたよ。
……足の早さと隠密能力には長けてるって自信があったけど、ほんの三十分ぐらい遅れて森に入ったら、もうどこにもいなかったっけ。
慌てて探して、ちょっと迷って、そんでやっとこさで見つけたんだ。
そしたら、あの娘──『樹角鹿』の白子個体の前で突っ立ってた。
俺は『獣人族』なだけあって、森とか大地とかとの親和性が高い。だから、すぐに分かった。
──あれはこの森の主だ、って。
でも、森の主の様子はどうにもおかしかった。
目の前にヒトがいるのに、一歩も動かない……なんて、警戒心の強い『樹角鹿』にはありえない。
しまいにゃ、『樹角鹿』はだんだん足元がフラついて、ついにはドサッと頽れてしまった。
信じられなかった。
俺は何度も瞬きして、頬をつねって。この光景が現実のモノなんだな──って、認識するまでたっぷり一分はかけた。
そんとき、ボーッとしちまったのが悪かったのか、
「ねぇ、いい加減にしてよ。
着いてこないでって言ったよね?……アシルお兄さん?」
まんまと見つかる始末。
「あーぁ、なっさけねぇ」と呆れ果てる自分と、「なんで分かった!?」って驚愕する自分。それらがごっちゃになって、混乱する。
そして、そのまま心の整理も着かないうちに、おめおめと姿をさらしゃあ、理路整然と正論で詰られる。
……や、詰られて当然だとは思うぜ?
でもよ。淡々とキレるあの娘の魔圧が強すぎてさ。もー、俺の耳はぴったり伏せちゃうし、尻尾も股の間でふるふるしちゃってんの。
さすがに、ここまでされりゃ本能で分かったわ。
……このヒトは、俺が逆立ちしたって敵わない、圧倒的上位者だって。
んで、油断してたってか……その、目の前の存在に気ぃ取られ過ぎてた俺は、第三者からの襲撃を受けて、あっさり意識を飛ばしちまった。
あ、死んだ。今度こそ。
そう思った。
そっから俺、まだ、まともに謝ることすら出来てないのに。……って、最期に思った──はずだ。
けど、俺はまだ生きてるらしい。
もー、絶対終わったと思ったけど、つくづく悪運はあるようだ。
だって、今日一日で、二度も死の淵から生き延びたんだぜ?
これを悪運と呼ばずして、なんと言えばいいんだか。
……もしかしたら、一生分の運気を使いきったかもしれないけどな。ハハッ。
「これって、どーゆー……?───う、ゎあっ!?」
透明な膜の正体が気になって、興味本意で手を出すと、思いの外あっさりと突き抜けた。ついでに、頬にかかる飛沫。
このカンジ……【水】魔法の結界か!結構冷たいな!
俺の知る限りじゃ、結界は普通【風】か【土】で作られることが多い。竜巻とか、土壁とか、イメージしやすいもんな。
だから、【水】の結界はかなり珍しい、と思う。ってか、初めて見た。俺は。
(へー、スゲェなモンだな。……って、あれ?)
あの……手、引っ込められないんだけど?
え、ちょっ……マジで?
結構思いっきり引っ張ってんだけど……あだだだっ!腕、モゲる!!
な、なんじゃこりゃ!?罠なの!?てか、俺ってば迂闊すぎじゃね?
……はー、いくら下っ端Dランクとは言え、何だかんだ十年近く冒険者してんのにな。
なっさけねーぜ、チクショウ。
ま、俺の専門は薬草採取なんだけどさ。そもそも、実家が薬師だし。
そう言えば、このトラップ(←注・結界です。)張ったのって、やっぱあの娘なんかな?
なら、トラップ張られても納得かも。だって俺、あの娘に迷惑しかかけてねーし……!
あの娘からすりゃ、倍近く年上の男(おっさん……ではないハズだ!)を助けたら、その後下手なナンパみたいに誘われ?んで、断ったのに付きまとわれ、挙げ句……挙げ句?
ってか、俺……あの時襲われたのに、何で生きてるんだ??そーいや。
………………
…………
……
予想はつく。
たぶん、やっぱりあの娘がなんとかしてくれたんだろう。でも、ワケありは確定(本人も言ってたしな)。
だから、今度こそ詮索しないでおこう。
あんまり知らん相手とは言え、(一応成人してるらしいが)女の子にこれ以上嫌われたら俺、立ち直れん……orz
って、すでに好感度は最底辺まで行ってるか?
あれ?可能性は結構高いぞ……?
つーか、自分の行動をあれこれ振り返れば、端的に言って「最悪」の一言じゃ……。
(───ほんっとうに、すまなかった!
だから……だからっ)
「この、罠を解除してくれーーーっ!(泣)」
……その後、近くで同じ水膜に覆われていた『樹角鹿』が、すんなり出て行ったのを見て、試しに前面に体重をかけると、拍子抜けするほど簡単に通り抜けられた。そして、全身が水膜から出ると、【水】魔法は解除され、ただの水になってその場に散らばる。
どうやら、中からは出られるように設定されていたようだった。つまり、トラップは俺の被害妄想である。
……あまりの羞恥に、頭が焼けそうだ!
ハルア・キラ殿。
何から何まで、大変申し訳なかった……!
俺は、無性にその場で獣人族の最上級服従姿勢(→五体投地)したくなったのだった。
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