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第2章 『対・四天王①』編

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「うふふ、アシルお兄さんや?
 ……自業自得だし、覚悟は出来てるよね?」
「───、っ!~~~!!」

 はい、現状を説明いたしますと、アシルお兄s……いえ、アシル氏は今、私が作った【水】魔法の球体の中に浮いております。
 モデルは某金髪碧眼の忍者少年~青年が主人公の漫画に出てきた、初期難敵(→主人公が初覚醒したときのアレ)である、口に包帯を巻いた血色の悪いお兄さんが使った、水の牢の忍術です。若白髪(←違う!)な先生が閉じ込められてましたね、確か。
 それを改良して、顔の周りだけ水がいかない仕様となっております。イメージは宇宙服のヘルメット。欠点は、魔法の中に閉じ込めたヒトの声が聞こえないこと。
 やー、なんか言ってるのは分かるんだけど……音が水に吸収されて分かりません☆

 余談だけど、私が寝る前に使った【水】の結界は別にモデルがあります。竜と悪魔と星霊(と、ついでに神)がいる魔法世界のヤツ。
 なお、私がいるこの世界には、神=イリオスと竜=ドラゴンはいるけど、悪魔と星霊はおりません。……あ、文字違いで聖霊はいる、らしいです。はい。
 モデルとなったのは、紅髪女騎士様の初登場編で、死神っぽいヤツが使った風魔法。それを逆転、さらに【水】に置き換えて使いました。イエス!


 さて、どーしてこんな風にアシルお兄さんを拘束したのかと言うと。
 ……これから使う魔法が、ヒトによっては拒否反応が起こりやすいからだ。ま、当然だよね。だって、


[───来たれ、万象。
 そのまことの名は《晦冥紫電之忘失カイメイシデンノボウシツ》、いざ我が意に応えよ]


 コレは、ヒトの記憶を魔法だから。

[顕現《黒雷喪コクライソウ》]

 弱くも鮮烈な【雷】魔法の電撃。
 それで意識を逸らした刹那に【邪】魔法でアシル氏の意識に入り込み、半日分の記憶を

 ……アシル氏はは運がいい。
 なんせ彼は私と会って、半日しか経ってないのだから。お陰で失くす記憶も少なく済んだ。上手くすれば、記憶の齟齬もないかもしれない。

 具体的には、私が同行を断った後で、ストーキングを開始する前までの記憶を奪ってある。
 後で気絶状態で宿に戻せば、荷物を補充しに行った後に寝落ちした、と記憶を書き換えられる……かも?書き換えの方は出来ない─と言うより、したくない─から、勝手に自己判断してもらう他ないんだけどね。まぁ、近い感じに落ち着くと思う。
 なんせ、ヒトは勘違いする生き物だから。

「しばらく寝ててね───アシュルタルト」

 こっそり《完全解析パーフェクト・アナライザ》で知った真名を呼んで、強めに魔法?暗示?をかけておく。
 ……途中で起きられたら、計画がパァだもんね。

 完全に意識がないことを確認して、私は米俵を担ぐようにアシルお兄さんを肩に持ち上げる。ふと、空を見上げれば、夜が近くなっていた。
 確か《ドロワヴィル》は、大きな都市ではないので入場審査や門限は決まってなかったハズ。
 とは言え、男のヒトを担いでいるところを見られるのは、かーなーりマズいよねぇ。……気配を消せば、何とかイけるかな?

「とにもかくにも、行くかぁ」

 幸い、【邪】魔法で記憶に介入したオマケに、アシルお兄さんが取ってる宿の場所も分かってる。
 元・ストーカーの件なんぞぱっぱと済ませて、『樹角鹿アルベルコルノディーア』の枝角(←魔樹)売って、次の《四天王》やら《魔王》やらを探しに行かなきゃ。

 まだ私が相手にしたのは、《四天王》の一人だけだ。
 うぅ、なんだか背後から「ククク……あいつは四天王最弱」云々うんぬんって呟きが聞こえてくるようだよ……。
 第一、今回の《四天王》戦は、ぶっちゃけ敵さんの勢力の一部を削ったに過ぎないし、世界的には、未だに危機が続いてるからね。気合い入れていかないと!

 よぉしっ!明日からも、頑張るぞー!






「えっ!ハルア様、もう行っちゃうんですか!?」
「はい。ここには、駆け出し冒険者のエリアがどんなものかを見に来ただけですからねー」

 アシルお兄さんをこっそり宿に押し込んだ後、一旦自分取ったの宿に戻って一夜を明かして、翌朝。
 私は、【行動予定】の報告ついでに、『樹角鹿』の枝角を売却に来ていた。……レア物なだけあって、やはり高値で売れましたことよ、奥様。
 ちなみに、「駆け出し冒険者のエリアを~」は、あらかじめ考えていた言い訳です。

「えぇ~、もうちょっと居てくださいよぉ。……せめて、あと半月!」
「あはっ、惜しんでくれるのは嬉しいですけど……ゴメンなさい?」
「あーん!残念!」

 『樹角鹿』の枝角──素材鑑定を待つ間、受付のお姉さんと女子トークに花を咲かせる。なお、お姉さんは仕事中なので、プライベートな話題は避けてるよ。はい、意図的です。

 と、そこにカランカラン……と音を立てて、ギルドの入り口が開く。何気なく振り返ると──


「あ、アシルさん!調子はどうですか?」
「あー……まだ、ちょっと眠い、かな。ボンヤリするよ、なんかさ」


 よりによって、アシルお兄さん登場である。ここで会わなければ、逃げ切れると思ったのに!ちくしょう。
 ……確認した方がいいとは、分かってるケドさぁ。うん、現実から目を逸らすのはヨクナイヨネー(←棒読み)

 さて、どーする?私よ……!((白目
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